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流転の桜  作者: ありおん〆
伝わらない伝言
3/12

真実の心。偽りの心。

どれだけの時間、俺はあの時を振り返っていたのだろう。

俺の反応に飽き飽きしていた孝太は、川べりで暇を潰している何処かの女子高生三人組と、楽しそうに話していた。


孝太はこちらに目を向けると、両手で手を振っている。


「朝日もこっち来いよっ!」


その誘いに苦笑いを浮かべながら、俺もその輪へと入っていった。

近づいて行くと、孝太が何やら能書きをたれているのが解かった。


「でさ。狩宿の下馬桜って言うのは、日本最古級の桜なんだ。千年も前から桜咲かせてるんだとさ」


「孝太君て物知りなんだね。見た目頭悪そうだけど?なんて。キャハ」


「キャハハハ。明美!それヒドすぎだから」


明らかにバカにされても、孝太は動じてない。

勉強は出来ないが、それを笑いに変える懐の広さと賢さが、孝太にはあった。


「人は見かけじゃねえってことだよん!勉強になったべ。エヘへ」


「孝太君て面白いからモテるでしょ!」


「そんな事は無いんだなぁこれが……。美沙ちゃんが付き合ってくれるなら、モテるって胸張れるよっ」


そう言って白い歯を見せながら笑う。

やはり、孝太は抜かりが無い。必ずと言っていいほど、被せ技でアピールをする。

それは、今に始ったことではないが、孝太の『恋愛短期症』の原因もそこにある。

なんせ、彼女が出来ても同じことを繰り返す『告り乱射症』も必ず併発するからだ。


孝太がそうなる原因を、俺は知っていた――。


俺と同じなんだ……。


『さくら』を未だ忘れられずにいる。



きっと心のどこかで『さくら』を越えるような出会いを探し続けているんだ……。


だからこそ、俺はそんな孝太を責めることが出来ないでいた。


孝太は巧みな話術で、難なく彼女達のメアドをゲットしている。

数年前『さくら』の前で見せた不器用男は、微塵も感じさせない。

本命の相手を目の前にすると上がってしまう、典型的なタイプだ。


孝太が一通りメアドを交換したあと、そのまま解散となった。帰宅途中。早速のメールを打ちながら、ニヤケ面の孝太が隣にいる。


「なあ朝日。明美ちゃんと美沙ちゃん。どっちが良いと思う?」


「俺に聞くなよ。お前が好きなほうにすればいいだろっ」


「お前はホントにつれないねえ。……まだ『さくら』のこと思ってるのか?」


俺の表情を伺うように覗き込みながら、孝太はさらに続けた。


「彼女は高嶺の花だったんだよ。俺たちに釣り合うはずがない。もう忘れろやっ」


それは、俺に言っているようで、自分に言い聞かせた言葉のようにも聞こえた――。



この時期は、日が沈むと、やはりまだ肌寒い。

そんなことはお構いなしな孝太は、ご機嫌そうに口笛を吹きはじめていたが、ある時突然、思い出したように語りだした。


「おっ!そう言えばよお。校長の話聞きたくないか?」


このテンションは、無視するとふてくされるパターンだ……。


「ん?どんな話しだ?」


「難しい話だったから、正確には言えないけどな」


孝太はそう前置きすると、断片を繋ぐように頭の中を整理しているようだ。眉間にはシワがよっている。


「ん~。簡単に言うとな。漢字だけの文。漢文っちゅうの?その書類が倉から見つかったらしくてよ。それの説明。」


「――終わり??それ簡単過ぎだし」


突っ込みを入れたくなるほど要点が無い。


「じゃあ、あとは面倒くせえから、校長にでも聞いてくれっ」


明らかに孝太はすねている。唇がへの字に下がるのはいつもの癖だ。


この調子では、孝太から聞き出したとしても、随分と捻じ曲がった伝言ゲームとなって、正確な内容は解からないだろう。


俺に聞かせたいという校長の話。孝太は、二度もその話題を振ってきた。

流石に内容が気になってくる。



(校長に聞くしかないのか?いや、待て……卒業式ならビデオに撮ってる奴が居てもおかしくない)


現に、今日の卒業式に参加していた家族の中には、ホームビデオを手にした人達が何人かいた。

そう思うと同時に、誰に当たれば良いか大体の目処が付いていた。


時計は18:28分を指している。

明日からはゆったりとしたい春休み。その前に片付けておきたいと思った。



「孝太!わりぃ。先帰ってくれ」


俺はそういうと、キビスを返して歩き出した。


後ろからは孝太の声が届けられる。


「校長んとこ行くのか?お前、家知らないだろっ」


俺は後ろ手に手を振ると、止まること無く歩き出した。


どの学校でも、クラスに一人は居る優等生。頭の悪い俺達の学校でも、ずば抜けた奴はいる。

勉強なんて、やる気になれた奴の勝ち。

頭の良い悪いはその気持ちで左右されているに違いない。



高校に上がってから急にやる気を出した奴。

それが、これから向かう先の相手だった。


一軒の家の前に立った。窓からは灯りが漏れている。

一番大きな窓から零れる灯りは、家族との団欒ダンランを思わせた。


表札には「結城」の文字。迷うことなく、インターホンを押した。


「はい」


優しそうな女性の声。恐らくは母なのだろう。


「すいません。藤原と言います。拓也君はいらっしゃいますか?」


「少しお待ちくださいね」


そう返事が返ってくると、インターホン越しに拓也を呼ぶ声が聞こえる。暫くすると、ドアが開いた。

その向こうには、膨らんだ頬にある物を、慌てて飲み込もうとする拓也がいる。


「おう!なんだ朝日じゃないか。どうしたあ?」


拓也は、突然の訪問客が朝日であったことに驚いている。


「突然ですまねえけど、今日の卒業式をビデオに撮ってたりしないか?」


「ん?母ちゃんが撮ってたけど……。焼いてほしいのか?」


(そういう手もあったな……)


朝日は、一番それが好都合だと思った。


「そうして貰えると助かる」


「ああ。じゃあ今から焼いてやっから、ついでに見てけよ」


「今から?……急で悪かった。ありがとう」


そんなに急な頼みごとをしようとは思っていなかったが、拓也の好意なのだから受け取っておこう。


朝日は拓也の部屋に通された。


拓也の部屋は、整理が行き届いていた。 テーブルの上、テレビの周り、ベッドの上にも余計なものは無い。中でも、ずらりと並ぶ本の整頓が目に付く。


「飯は食ったのか?」


「いや。まだだけど、家にあるから気にしないでくれ」


「そっか」


そう言うと拓也は部屋から出て行った。

暫くすると、誰かがドアをノックする。

ドアを開けると、拓也のお母さんが、皿におにぎりを乗せて、やってきていた。


「軽くでも食べておいた方が良いですよ」


お母さんはそう言いながら、手にした皿をテーブルに置く。


「すいません。有り難うございます」


「気になさらずに、ゆっくりしていって下さいね」


俺は、拓也とお母さんに気を使わせてしまったことを後悔した。

おにぎりを頬張っていると、拓也がDVDとホームビデオを手にやってきた。そのまま配線作業に入り、数分も待たずに、式の画像が映し出される。


さっそく録画に取り掛かろうとした拓也を、俺は引き止めた。


「拓也。校長の話だけでいいんだ」


「そうなのか?普通全部だろ?」


「いや。時間掛けちゃ悪いし、必要なのは校長の話だけだから」


拓也は、おどけた顔で首を傾げると、画像の早送りを始める。


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