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99 王城にて 3

 重ねて謝罪しようとするガーラントをハニー・ビーと翔馬は制して笑った。

 もう気に病むことはないと、自分はランティスに来れて良かったと言う翔馬に、また、ガーラントは頭を下げる。


「私の咎ではありますが、それでも、私はショーマと出会えたことを嬉しく思っておりました」

「えー、過去形?酷いなぁ、ガーラントさん」


 お道化て咎める翔馬に、ガーラントは慌てて言う。


「いっいえっ、今でもそう思っております」

「だよねー。ところで婚約者とか恋人とか出来た?」

「え?いえ、そういう話はまるでありません」

「そっかぁ……」


 突然に話題を変えられて訝しげになりつつも答えるガーラント。


 翔馬は、半年前に別れを告げた時のガーラントが「自分を嫌いになったから出て行くのか」と縋りついてきたことを思い浮かべ、やっぱりゲイ疑惑でてるよなぁと笑う。

 ハニー・ビーの故郷へ行く前に、ガーラントにも希のように明るい話題があれば安心できたのだがそうはいかなかったようだ。


 人の噂も七十五日とはいえ、一度そんな疑惑が出た男と結婚したいと思う女性は中々いないだろう。


「いや、腐女子ならありか?」

「は?」

「あー、何でもない、こっちのこと」


 自責の念に駆られるガーラントを宥め、出立を寿いでもらうまでには少々時間がかかったが、最後には笑顔にすることが出来たことに、翔馬はホッとした。

 聖女たちも笑顔で別れを惜しんでくれる。

 希は最後まで「ビーちゃんに不埒な真似をしないよう」釘を指す事を忘れなかったが。


 そのあと、ハニー・ビーはガーラントとの約束通りに鑑定水晶の作り方を伝授し、都合がつくならついでに王様に挨拶しようかと、ガーラントに確認しに行ってもらう。


「陛下への挨拶をついでって……」

「んー、じゃ、おまけ?」

「それもどうかと思うよ、ビーちゃん」

「そ?」


 幸いずらせない公務などは無かったようで、待つほどもなく案内の為にガーラントが戻ってきた。


「陛下がお時間を作って下さいました。早速参りましょう」


 王様って忙しい人だろうに簡単に会いに行けちゃうのは、やっぱりこの国が緩いからかなー。ハニー・ビーは何度も思った感想をまた抱いたのだった。



「陛下、魔女殿と勇者殿をお連れ致しました」

 改まった口調でガーラントが二人の訪いを告げる。


 以前にも通されたことがある王個人の客を招いたとき用の小さめな応接室だ。


 先ほどまで何の仕事をしていたか知らないし何処にいたのかも知らないが、ちょっと挨拶をするだけなのだから場所を移動せずともいた所に案内してくれて良かったのにとハニー・ビーは思ったが、帰還の挨拶をするために転移の話も出るから人除けをしたのかな、と解釈した。


「行くのか、魔女殿、勇者殿」

「ん、帰る事にしたよ」

「はい、俺はビーちゃんに付いて行きます。お世話になりました」


 王の対面にあるソファに座ったハニー・ビーと翔馬が答える。

 二人の座ったソファの後ろで、ガーラントが鼻をすすった音が聞こえたが振り返らない事にした。王の苦い視線が彼らの背後に注がれていることも無視である。


「世話と言うほどの事もしてないが……。出来ればこの国に残って欲しかったと思っている」

「だろうね」

「え、なんで?」


 必要なのは聖女であって勇者や魔女ではない。そして聖女は三人もいるのだ。


 ガーラントが聖女を召喚したことはすでに周知のことだが、それ以前に聖女召喚の失敗で魔女と勇者が喚ばれたことを知る者は少ない。

 自分たちがこの地を去ればその失敗が周囲に漏れる危険性が少なくなるのだから、不要の自分たちが消えることは国にとって利益しかない筈だと翔馬は言う。


「ほら、あたしは優秀な魔女だし?にーさんもなんだかんだ言ってガーラントや騎士団に勧誘されたりするくらいに実力が上がったし」


 翔馬がここで学べることを全て吸収したいと思ったのは、ハニー・ビーの故郷に行ってから足手まといになることを懸念して少しでも力を付けたいと思っていたからで、ガーラントや騎士団からの勧誘はある意味お世辞くらいにしか思っていなかったので、たいそう驚いた。


「お気持ちは有難いですが」


 動揺から立ち直って翔馬は国王に頭を下げる。


「いや、すまぬ。帰ることを決めているのは知っていたのに繰り言よな」


 申し訳なさそうに国王が言ったとき、またしても背後から鼻水をすする音が聞こえた。

 鼻すすってるくらいならいっそのこと泣けばいいのにとハニー・ビーは思ったが、やはり振り返ることはしない。


「謝る事ないよ。それだけ買ってくれたってことだし、勧誘は慣れてる」


 あたし、優秀だからね。とハニー・ビーは気にした様子もなく笑ったので、国王も彼女の気を悪くさせたのではないと安堵した。気分を害したらどんな置き土産を残していくかしれない――と思った国王は、ハニー・ビーが実際よりも熾烈な人間に見えているのかもしれない。


 無理に留めることはしないし出来ないが、二人に残って欲しかったと言うのは本音だ。


 優秀な二人を抱え込むことが出来れば、この国の発展は約束されたものだと思えるゆえに残念だと、神脈の正常化のための魔道具作成をハニー・ビーに承諾させたときのようにガーラントが何か言いはしないかと国王は彼に目を向けた。


 王の目に映ったのは、悪さをして叱られた子供のように歯を食いしばって目を見開き涙をこらえている22歳の立派な成人男性だったので、諦めてため息をつくしかなかったのである。




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