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97 王城にて 1

 王城へ戻ったのは久しぶりだが、幸いな事に門を守る衛士はハニー・ビーと翔馬を覚えていたので、煩わしい手続きも無く入城出来た。

 二人が訪れたことを誰が注進したのか、入って幾らも経たないうちにガーラントが息せき切ってやってくる。


「ショーマ殿!魔女殿!ご無事のお姿を拝見できてうれしく思います!」


 召喚儀式当時の堅苦しさはとうに放り捨てたガーラントは満面の笑みで、なるほど、これなら22歳の実年齢相応……とまではいかなくとも30過ぎには見えないなとハニー・ビーは思った。


「ん、久しぶり」

「ガーラントさんも元気そうだねー」


 懐かしい顔に会えて、素直に嬉しくなったハニー・ビーは、やっぱりちょっとほだされているのかと考えた。自分が思っているより、ランティスを好きになっているのかもしれない、とも。

 翔馬はそんな感慨も無く、率直にガーラントに会えたことを喜ぶ。


「魔女殿もショーマ殿もあちこちで騒ぎを起こされたようで」

「あたしじゃない、にーさん」

「えー、騒ぎじゃないよ、人助けだよ」


 ガーラントの先導で聖女たちの元へ案内されながら、旅のあれこれが半ば伝わっていることに翔馬は驚き、ハニー・ビーは呆れる。

 二人には影警護も付いていない事を、ハニー・ビーは確信していたが、いったいどうやって情報を得たのか不思議な事である。


「魔女殿が伝授下さった魔力回復薬は、ガラウェイで安定生産出来るようになりました。ありがとうございます」


 感謝を述べつつも、なぜ、自分に教えてくれなかったのかとガーラントは少々不満そうである。


「そして、お戻りになられたら是非”鑑定水晶”の作成法をご教授頂きたく思っておりました」


 ランサの町で縁があったアリウスに教えようとして断られた”鑑定水晶”の作り方を、結局ガーラントに連絡することもなく忘れていたハニー・ビーは顔をしかめる。


「対価は?」

「この国では流通していないお茶を隣国より輸入してあります」

「ん。あともうひとつ」

「いくつでも」

「ランサのアリウスとフランネに魔術を学ぶ機会を作ってやって」


 ハニー・ビーが施した教育は初歩の初歩である。

 幾ら素養があると言っても、まだ子供である彼らが自力で能力を伸ばすのは難しい。おまけに、ハニー・ビーが教えたのは、こちらとは流儀が違う別世界の魔力操作と魔法だ。

 知識を得る機会さえあれば向上心のある彼らは伸びるだろうと、ハニー・ビーはせっかくの伝手であるガーラントを使う事にした。


「了承いたしました」

「ほら、ビーちゃんはやっぱ優しい」


「にーさんの戯言は置いておいて、ばーちゃんやねーさんたちも元気にしてる?」

「ビーちゃん、ひどいっ」

「お元気にしていますよ」

「ガーラントさんも流さないっ!」


「まさか、以前の聖女様のように結婚で国に縛り付けようとしたりは」

「まさか!」


 ガーラントは慌てて首を横に振った。もしそうのようなことが行われたと魔女が認識したとしたら、国が無くなる。そのような危険は侵せないし、それ以前にガーラントは裏工作には向かない男なので謀略を巡らして聖女をからめとるようなことは出来ないだろう。

 国王ならそのような手を苦もなく使えるだろうが、彼もまた魔女を怒らせるようなことは是としない。


「ですが……」

「ん?」

「ノゾミ様は、恋仲になった男がいまして」

「ええっ!?希ちゃんってば彼氏が出来たんだ!?」


 聞けば相手は国王の甥だと言う。


「王様の甥って……ガーラント?」

「いえっ!私ではありません!」


 国王は4人兄弟で、ガーラントのほかに甥姪が11人いると言う。

 希と恋仲になったのは、公爵に下った国王のすぐ下の弟の次子で、第一騎士団の副団長をしている年のころは34で一度結婚したものの離縁した経験がある、子がいない男だと言う。


「ノゾミ様は聖女の力の訓練だけでなく、馬や剣も習いたいと騎士団にて訓練に参加され、そこで親しくなったようです」

「希ちゃん、訓練なんかしてなくても強かったのに……」


 翔馬の脳裏に浮かんだのは、希に飛び蹴りを食らった夜のことだった。


 サムズアップした翔馬の親指を容赦なく折ろうとしたリ、躊躇なく鳩尾に貫き手突きを決めた喧嘩上等な武力派聖女は、なぜ更に強くなろうとして、そしてどこを目指しているんだ……。遠い目をして希の将来を憂いたが、相手が第一騎士団の副団長という事は、いずれ結婚したとしても夫婦そろって戦闘民族という事で、それならそれも有りなのかと納得する。


 前向きな性格の希は、戻れぬ日本への追憶に浸らずランティスに根を張ろうとしている。


「その副団長さんって、どんな人?」


 チーム The・不憫のメンバーである希の生い立ちが不幸であったことは、翔馬もハニー・ビーも、そしてガーラントも承知のことである。

 家族の愛情を知らない希が、もし、家族を持つことを選択するのなら愛情あふれる相手であってほしいと翔馬は願う。


「……暑苦しい男ですね」

「はい?」


 人物評として”暑苦しい”はどうだろうか。


「声も体も大きく、所作は荒っぽく、腕自慢であまり考えることを得意としない暑苦しい男です」

「……はぁ」

「そして、裏が無い男です。えーと、以前の聖女様の残されたお言葉にある”五月の鯉の吹き流し”の格言のままのような、さっぱりとした気性です。情が深くて悪い男ではありませんよ。暑苦しいですが」


 ガーラントとは気性が合わないタイプなのかもしれないが、悪くはない相手のようだ。


「離婚も、騎士団で忙しい夫を待つ妻の浮気が原因でして、本人に難があったわけではないと聞いています」

「あー、そっかぁ。うん、悪い人じゃないならいいんだけどさ。希ちゃんが選んだ人なんだしね。うん、ただ、幸せになって欲しいなぁ、と思って」

「それは大丈夫だと思いますよ。ハナさまが二人を見て”リア充爆発しろ”という位に仲は良いようです」


「華ちゃん!?華ちゃんってそんな子だった!?」


 ハニー・ビーと翔馬が城を出てからおよそ半年。

 聖女たちはずいぶんと変化があったようだ。



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