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96 帰郷するにあたって

 ハニー・ビーによる記憶喪失の治療はあっさりと成功した。

 報酬として茶葉を受け取り、翔馬と共にマリナたちの家を出たハニー・ビーは、深く深くため息をつく。

 並んで歩く翔馬も同じく。


 マリナは愛する夫の記憶を取り戻し、ソレアノは記憶と共に愛する妻との再会で彼女の献身を知った。翔馬は人助けが出来て、ハニー・ビーは報酬の茶葉を手に入れた。


 なのに、なぜこんなに二人が疲れているかというと。


「マリナちゃん一人の惚気だって大概だったのに……」

「ん」

「旦那さんの惚気もすさまじかった」

「……ん」

「それでもって、あの二人のイチャイチャっぷりは常軌を逸して破壊的で破滅的だった」

「…………ん」


 恋愛や結婚に憧れているものだったら興味深く聞いていたかもしれない。現在意中の相手と愛を育んでいるものだったら惚気合戦になったかもしれない。そういう時代を通り過ぎてきたものだったら温かい目で見ることが出来たかもしれない。


 しかし、聞かされた二人はそのどれにも当てはまらなかったし、今後そうなる予定も無いのでただの苦行だったのである。


 トラブルを打開できたので、それはそれで良しとしようと二人は頷き合うのだった。



「この間も言ったけど」

「うん?」


 馬上の人となった二人は、特に目当ての地も無く街道を進んでいる。


「そろそろ帰ろうと思うんだ。にーさん、どうする?」

「俺も付いてくよ、もちろん。希ちゃんたちへのお別れはどうする?」

「あたしは、それ、するつもりないんだけど、にーさんは?」


 翔馬はこれまで幾度も考えていた。自分だけ召喚されたランティスからハニー・ビーの故郷へ行くことを伝えたら、聖女たちはどう思うだろうかと。

 この地に必要だったのは聖女であり、勇者ではない。

 だから、勇者である自分がどこへ行こうと自由だろう。


 しかし、日本から召喚された仲間という意識が自分にはある。おそらく聖女らにもあるだろう。


 そこで一抜けする自分に対して、彼女らは自分に思うところは無いだろうか。


 ただ、城から出た自分たちがずっと戻ることも文を出すことも無かったら、それはそれで心配をかけるだろう。


「王様はあたしとにーさんがランティスから抜けることは知ってるからさ、いいように言ってくれると思うけど?」


 日本人組ではない上に、もともとフェードアウトするつもりだったハニー・ビーには翔馬のような逡巡はない。

 ただ、後悔の無いようにとは思っている。


「自分だけ抜けることを申し訳ないと思ってる?」

「あー、まー、そうかも」


「にーさんは、いっつもそうだよ。勝手に召喚されたのに浄化が出来ない事を申し訳ないと思ったり、ばーちゃんやねーさんたちがこの国の役に立ってるのに自分は役立たずだって落ち込んでみたり。なんでも自分が悪いと思っちゃうのはさ、にーさんの人の良さではあるけど、逃げでもあるよ」


「逃げ?」


「ん。自分が悪いからで終わらせちゃったら、そこから動けなくなる。にーさん決めたって言ってたよね、自分が出来ることじゃなくて自分がやりたいことを、自分選んで自分で決めるんでしょ?ねーさんたちにお別れを言いたいなら言えばいい。別れを言うのが嫌なら言わなければいい。簡単だよ」


「ビーちゃんはすっきりさっぱりしてるからなぁ」


 こうして一回りも下の魔女に説教されるのは何度目だろうと翔馬は苦笑いだ。

 悩んで決めて行動して、でもやっぱりそうそう性格は変わらないのでやっぱり悩む。よくもまぁハニー・ビーが呆れずに付き合ってくれるもんだと、翔馬は感謝しかない。


「うん、やらずに後悔するよりやって後悔っていうし、希ちゃんたちに挨拶に行きたいな、俺」

「後悔役立たずともいうけど」

「いや、それ、違う!後悔先に立たずだよ!?」


 ハニー・ビーの師匠であるマンティコアかその周辺に日本人かその子孫がいることは確定だと思っている翔馬は、どうしてこう格言やことわざが微妙に違っているのかと笑えてくる。

 わざと間違いを教えたのか、伝わっていくうちに変質したのかは分からないが、ハニー・ビーの師匠に会うのが楽しみだと翔馬は思っている。


「クラウド、俺、ビーちゃんの故郷に行くよ。クラウドが嫌じゃなかったら一緒に来てほしい」


 まるでプロポーズのようだと思いながら、翔馬はクラウドのたてがみを撫でて言った。


「ライはどうする?」


 ハニー・ビーはライの意思に任せようと思っている。


「そう?多分、あっちでもお嫁さんは見つけられると思うけど、どうだろうなぁ、別の世界の馬だから番えると断言はできないし」


 ライがハニー・ビーの故郷への同行を肯うと、魔女は彼のこの先を気にした。


「ライもクラウドも付いてくるって、にーさん。あっちの馬とで種付けできるかどうか分からないって説明はしたんだけどね、それでもいいって」

「ビーちゃん!女の子が種付けだなんて言っちゃいけません!」

「ん?なんで?」

「恥じらい持って!」


 この辺りの感覚の違いは育ちによるものか個人の常識によるものか。


 保守的翔馬と拘りのないハニー・ビーは、時々こういう論争をするが結果が出たことはない。


 ともあれ、ライとクラウドも同行することが決まって翔馬はホッとしていた。




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