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94 魔女、故郷を語る

「ビーちゃんも、恋をしたいとか思ったりするんだ?」


 案内された海鮮料理屋で刺身を堪能しながら翔馬が聞いた。


 やっぱり刺身には白米が欲しい、蕎麦もうどんもきっと以前に召喚された聖女様が伝えたんだろうに、きちんと普及されている。なぜ、米だけが神聖視されているのか解せない。そうひとしきり愚痴った後に話題になったのは、先ほどの女性マリナのことだ。


 ハニー・ビーの「失う事を考えるだけで精神的に大きなダメージ食らうほど好きになるって、どんな気持ちだろうね」とう言葉。翔馬は魔女が恋に憧れを抱いているのかと考えた。


「ん?んー、どうだろ。さっきのマリナねーさんみたいになるのが恋なら、ちょっと、遠慮したい」

「いや、あの人はまた特殊な例だと思うけどね」


 恋をした人誰もが愛しい相手を失った時に精神に異常をきたすわけではないのではないか。むしろ、どんなに悲しくても苦しくても日にち薬、時間薬で立ち直っていく人の方が圧倒的多数であろう。


「師匠のおじーさんとおばーさんが、すっごく情熱的で、結婚して300年くらい経つのに未だにイチャイチャ」


 あの人たちだったら、一人残されることに耐えられないだろうな、ハニー・ビーがそう言うと翔馬はらぶらぶカップルではない部分に反応した。


「300年!?」

「ん。確かその位だった筈」


 さんびゃくねん……そう呟いた翔馬は口をあんぐりと開けて固まった。


「ん?」


「えーと、マンティコアお師匠さんのお祖父さんとお祖母さんは、長命種ってこと、かな?」

「あー、そっか、ニホンでは単一種族だったっけ」

「うん、日本って言うより俺がいた世界全体だけど、知的生命体は人間だけとされていて、日本での平均寿命は80歳位。人生百年時代が到来しようとしているところ」

「それじゃ、結婚して三百年ってビックリするね」

「うん、マジでびっくりした。でもって、三百年経ってもらぶらぶなのにもびっくり」


 ハニー・ビーの故郷もやはり異世界なのだと改めて実感した翔馬である。


「おじーさんは竜人種で、にーさんの言う通りの長命種だね。おばーさんは人間種だけど、おじーさんと契って竜人種の伴侶として長命になったって聞いた」

「へぇ……。え、ところでビーちゃんは?」

「ん?」

「ビーちゃんは人間?魔女って、そういう種族なの?」


 今更過ぎるように思ったが、翔馬はハニー・ビーに種族を問うた。


「あ、そういうこと。あたしは人間だよ。魔女は種族じゃなくて職業?になるのかな?いや、職業って言うより生き方……生活様式?って感じかな」


 魔女とは何なのかと問われ考えながら発言したハニー・ビーは、いままで魔女とは何ぞやなどと考えたことはなかった。魔女は魔女、ただそれだけだったのだ。


「そっかぁ。ビーちゃんの故郷ってどんな亜人がいるの?」

「……にーさんに悪気が無いのは分かってるけど、亜人って言葉は使わない方がいい」

「え?」

「それって、人間とそれ以外って括りでしょ?”それ以外”に括られた方は気分がよくないと思う」


 ハニー・ビーの言葉に、翔馬はなるほどと頷いた。


「ごめん。差別意識とかじゃなくて単純な疑問だったんだけど、言われてみれば確かに気分悪いよなぁ。気を付ける」

「ん。さっきも言ったけど、悪気が無いのは分かってる。にーさんのとこは色んな種族がいた訳じゃ無くて、人間種オンリーだったんだから。あたしの故郷だって、人間種のみで構成されている国なんかは、他種族に対しての差別や蔑みがあるとこもある」


 これはもう育った環境どころか、世界が違うのだからギャップがあるのは仕方ない。翔馬が別の世界の人間種であると知らせたものはきっと、間違いやタブーを侵したときにフォローしてくれるだろうが、全ての人にそれを受け入れろとも言えない。

 暗黙の了解や不文律などは、余所者が一番学びにくいものであるので、ハニー・ビーが翔馬にあれこれ教えても十全とは言えないだろう。


 この世界へは召喚されてきたのだし、召喚した側が便宜を図ってくれたので、常識の差異や不一致は”異世界人だから当たり前”と言う認識だったが、ハニー・ビーの故郷ではそういう訳にはいかない。


「また、俺がやらかしたりしたら教えてね、ビーちゃん」


 幸いにして翔馬は落ち込みやすく立ち直りやすい性格だし、前向きな気質があるので何とかなるだろうとハニー・ビーは考える。


「ん。人間種だけじゃなくてね、エルフ種だってエルフか非エルフかでしか認識してないとかあるから。絶対的に口にしちゃいけない訳じゃ無くて、でも、避けた方がいい」

「うん、分かった」


 同じ世界でも海外に行けば習慣も常識も変わって来る。更に言えば国内だって場所によって風習が違う事など幾らでもある。


 その違いがちょっと大きくなるだけだし。


 前向きな勇者がそう考えていることを、ハニー・ビーは彼の表情からなんとなく察して、にーさんなら大丈夫だろうとこちらも楽観的に考えていた。





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