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87 鑑定 3

 オイゲンの感謝の言葉は尽きないし、フランネは恐縮しきりで謝罪の嵐だし、アリウスは二人を褒め讃え始めるしで、居心地の悪くなったハニー・ビーは強引に話を変える。


「で、報酬は?」


 はっとしたアリウスとフランネが、慌てて朽ちかけた家から両手の平に乗るくらいの袋を持ってきた。


「すみません、これだけしか……」


 アリウスが眉を曇らせて袋をハニー・ビーに差し出した。たくさん摘んだと思った茶葉は、蒸して乾燥させ挽いたのちには、こんなちっぽけな袋に入るくらいに少なくなってしまった。ハニー・ビーの成したこととと比べてあまりにもそぐわないと思えた。

 しかし、ハニー・ビーは受け取った袋を開いて中を見ると晴れやかに破顔して礼を言う。


「こんなに沢山作るの大変だったでしょ。嬉しい。いい香り。美味しそう。飲むのが楽しみ」


 これだけの挽茶を作るには、ハニー・ビーが道すがら見たお茶の木から、茶に相応しいすべての葉を摘んだであろうことが魔女には分かる。


 その言葉にホッとしたのも束の間、ハニー・ビーが今度は眉根を寄せて考え込んだので何事かと思ったら


「アリウスかフランネ、魔力持ち?」


 思いもかけない言葉がかけられた。


 二人にそんな心当たりはなく首を振ったが、ハニー・ビーの「このお茶、(まじな)いがかかってる」の言葉に仰天する。


「へー、ビーちゃん、今、鑑定かけて無かったよね?それなのに分かるんだ?」

「ん。魔力を帯びてる」


 鑑定魔法や魔力を見て取れるなどという縁の遠い言葉に、アリウス達は言葉もない。魔法とはお偉いお貴族様の使うもので、庶民には関わりの無い話なのだ。


「幽かだけどね。やり方も知らずにやってる自覚も無くてかぁ……」

「どんなお呪い?」

「んー”元気になりますように”?」

「病気平癒祈願?」

「ん、そんな感じ。あんま力は入ってないから気休めくらいだね」


 藪から棒の話にアリウスもフランネも言われていることが頭に入ってこないのか、きょとんとしている。第三者だからかオイゲンは感心したように二人を見て「どっちだろうな」と興味深げにしている。


「ビーちゃんに鑑定してもらう?」


 翔馬の提案に「そんなことが出来るんですか!?」と驚く彼らは鑑定に忌避感は無いらしく、ハニー・ビーは驚いた。

 翔馬や聖女たちもそうだったが、鑑定魔法が一般的ではない人たちにとっては、個人情報を披露することへの抵抗より興味の方が勝るらしい。自分が育った世界の常識とはずいぶん違って面白いな、ハニー・ビーはそう思った。


「深いところまでは見ないから安心して?」


 ハニー・ビーはそれぞれに鑑定を掛けて驚いた。


「二人とも魔力持ちだ。この国に魔力持ちは少ないって聞いてたのにね。アリウスは付与系にフランネは増幅系に向いてる。魔力量は、ふたりともガーラントの三分の一くらい、かな。これがこの国の基準で多いのか少ないのかはあたしには判断できない」


 ハニー・ビーの常識では他人に鑑定魔法をかけることはタブーなので、敵対している相手か頼まれた時にしか人間相手には使わないので、この国の魔力量の平均は知らなかった。


「ガーラントって……?」

「ん?ああ、知らない?ガーラントは魔導士長やってるって言ってた」


 市井に暮らす庶民には上つ方の名前なんてどうでもいいから知らないか、とハニー・ビーは彼が魔導士長であることを伝えた。


「ま……魔導士長……」


 ガラウェイ領主のところで王都の騎士が「魔女様の肝煎りなら陛下が直々に」と言っていたことは誇張ではなく、本当に国の中枢と繋がっているのだと、魔導士長の名前まで出てきたことで実感したオイゲン達は、なら、なぜお偉い人たちの名前を平気で呼び捨てる人たちがこんな所をうろついているのか、自分たちは不敬罪とかで捕まるのではないかと恐々としている。

 偉い人は偉い人に見える格好と態度でいてほしい、是非。


 そんなことを丁寧に伝えると、ハニー・ビーも翔馬も苦笑した。


「ナイナイ。あたしもショーマにーさんも地位も身分も権力もないよ。たまたまお偉いさんに知り合う機会があっただけで、あたしたちに不敬罪とかあり得ない」


「うんうん。俺は根っからの庶民。庶民 of the 庶民。生粋の庶民。だから、普通にしてほしい」


 たまたまお偉いさんと知り合う機会があったとして。

 それだって庶民からみたら有り得ない話なのだが、天文学的な確率で機会があったとして、いったい何をすればそれだけの信頼と庇護を得られるのか。それをいっても魔女たちは笑って済ませるだろうからと、オイゲンは話題を変える。


「あー、お言葉に甘えて普通に話させてもらう。畏まった話し方をしていると、何を言いたいのかも分からなくなっちまうから」


 ハニー・ビーも翔馬も遜られたり持ち上げられたりは好きではないので、了承の意味で頷いた。


「この二人が魔力持ちだという事だが……」

「ん。間違いないね。挽茶にお呪いが付いてるのは、アリウスとフランネと二人の力だよ」

「貴族でもないのに?」

「あたしがいた国では、魔力持ちは貴族に限らなかったよ。貴族は魔力の高い相手を選んで婚姻を繰り返していたから、血統的に高魔力になってたけど。あっちもこっちも同じ人間。体のつくりは変わらない。こっちでは貴族じゃないと魔力の確認する機会がないんじゃない?」


 確かに、この国では貴族意外に魔力を持つ人間がいるなどと考えられたこともないので、そもそも庶民が魔力を持っているのではと考えることすらなかった。


「調べれば結構いるのかもね。切っ掛けさえあればこの国に魔法使いや魔女が増えるんだと思うよ」


「でもさ、鑑定の水晶、だっけ・あれ、国宝って言われるくらいだし、貴族以外が使うのは難しそうだよなぁ」


「なら、作ればいいのに」


「ん?何を?」


「鑑定水晶」


「……ビーちゃん、作れるの?」


「ん。でもさ、そうだね、せっかく付与と増幅の魔力持ちがいるんだから、この二人で作ればいい」


「…………はい?」


 とんでもないことを平然と言う魔女の言葉を口を挟むことなく聞いていたアリウスとフランネは、藪から棒に降りかかってきた爆弾宣言に、ただ目を丸くして驚くしかなかった。





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