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84 再びガラウェイへ

 出発前に翔馬とクラウドの間でどうでもいい揉め事はあったものの、ガラウェイまでの道中はトラブルもなく順調だった。


 領主の館も顔パスで、4人はあっさりとサジナルドの元へ案内される。

 サジナルドは間に合わせの調薬室で薬師の様子を見ていた。今後、本格的に薬師を集めて魔力回復薬をこの地の一大産業とするため考えることもやることも山ほどあるのだが、隙間を縫っては薬師たちがハニー・ビーに教わった調薬する姿を眺めてにんまりしている。


 そこに通されたハニー・ビーらを見てサジナルドは驚いた。

 魔女と勇者はこの街を出たばかりだ。忘れ物でもあったのだろうか。いや、知らない青年を二人連れている。またしても揉め事だろうか。


「魔女様、出立されたとばかり思っておりましたが、何かございましたか?」


 調薬レシピを残して出立してくれて、これでこの領は安泰とばかり思っていたところに魔女の再訪だ。内心で「厄介事ではありませんように」と祈りつつ、顔はにこやかにサジナルドはハニー・ビーらを応接室に案内した。


「ん。あたしは付き添いなんだ。サジナルド、こっちの二人の話を聞いて」


 背を押されて前に進まされたオイゲンとニサバは、名領主と名高いサジナルドに対等な口を利き、更にその領主にこれほど丁寧に対応されている少女は一体何者なのだろうかと状況を飲み込めないながらも、自分たちの上に起きた事件を語った。


「……なんと」


 話を聞くうちに顔を険しくしていったサジナルドが渋い顔をして吐き捨てるように言った。


「これは由々しき事態にございます、魔女様。中央に報告し精査しなければなりませんが、先ずは攫われた民の保護に動きます。この件は私に任せて頂きたい」


 魔女が連れてきた二人の話は領民に慕われるサジナルドにとって、とても信じたくない、耳を疑うような話だった。しかし、ハニー・ビーと翔馬が国王の「かけがえのない人物」だという事に加えて、この領にもたらしたものの大きい事、ごく短い付き合いとは言え謙虚とは言えないが決して横暴でも驕慢でもない人となりも知っている。

 彼女の言葉を疑う理由はない。


「ん。よろしく」


 平然と頼むハニー・ビーの隣でオイゲン達は涙を堪えつつサジナルドに嘆願した。どうか、皆を助けてほしい、町を救ってほしい、他領の領主さまにお願いするのは筋違いかもしれないが、自分たちの手ではどうしようもないと、膝をついて頭を下げる。


「よい。領が違えど、そなたらはランティスの民だ。国と王家に忠誠を誓った私が動くのは至極当然のこと。――魔女様と勇者様への感謝も忘れるでない」

「はっ、はい。ご領主さま、魔女様、勇者様、本当にありがとうございます」


 

 ハニー・ビーのサジナルドへの評価はクロウグラスの件でダダ下がりしたのだが、サジナルドは思ったよりも出来る男だという事が判明した。


 話を聞いてすぐにハニー・ビーらが休息をとるための部屋を用意させ、領軍を出すことは相手へ喧嘩を打っているように見えるので避け、領の警護を任じている私兵一個小隊に自分の側近を付けて隣の領主夫人の館へと向かわせた。

 ハニー・ビーが無力化して纏めている事を聞いているので、基本的に向かった人間がすることは被害者の保護である。


 自身は王宮への手紙をしたためる。領主と領主夫人は王都にいると聞いているので、二人の確保はあちら任せとし、保護した被害者たちの一時滞在の手配をする。


 サジナルドの迅速な行動のおかげで、被害者たちはオイゲン達の直訴から二日でガラウェイへ移送され、その翌日には王都から事情を聞くための人員が寄越された。屋敷にいた者たちは、拘束が三日で解けるとハニー・ビーの説明があったので、そのまま地下室に拘置されたまま見張りが付いているらしい。窓のない地下室で大小垂れ流しの男女を見張る役目を負ったものはご愁傷様としか言いようがないだろう。


「領主夫人は捕縛され、領主も参考人として聴取されているようです」


 サジナルドからの報告である。


「領主は積極的に犯罪に関わってはいなかったようですが、妻の行いを知っていて放置していたようですから、まぁ、同罪ですね」

「だね。サジナルドのおかげで依頼を遂行できたよ、ありがとう」

「いえ、とんでもない。魔女様のお役に立てたことを嬉しく思います」


 ハニー・ビーがもたらしたこの地の一大事業の礎は、茶葉くらいで返せたものではないので、サジナルドとしては少しでも恩に報いることが出来たことを喜ばしく思っている。

 彼女への対応で自分の首が飛ぶ危険性はあるが、今回のように役に立った事実は中央からの評価につながる。

 魔女自身はそのような事は考えもしないが、王家は彼女のために行動したサジナルドを悪くは扱わないだろうという推測を彼は持っていた。といって、サジナルドに出世をしたいという野心がある訳ではない。彼は、この領の発展と領民の幸福と安寧を欲しているだけで、今回の件で中央からの印象が良くなれば、有事の際に考慮してもらえるだろうくらいの保険である。


 出世欲はないが向上心はあるし、ランティス人らしく直情的な面はあるが領主をしているだけあって狡猾な部分もあるのだ。


「ハニー・ビー嬢、お久しぶりです」


 サジナルドがハニー・ビーに説明している部屋に入ってきたのは、王都で知り合った第三騎士団第二大隊の隊長アーティだった。


「アーティ大隊長、久しぶりー。どしたの?地方は管轄外じゃないの?」

「ええ、ですが陛下よりご下命を拝しました。ハニー・ビー嬢の知己の方が話が早いだろうからと」


 そう言って振り返ると、次に入ってきたのはガーラント。


「ガーラントは畑違いもいいとこだと思う」

「魔女殿がこの領で作り出した魔法薬に興味を持ったので。それと、聖女様方から魔女殿と勇者殿の様子を見て来いとそれはもう強烈な要望が……」


 ガーラントにとっては魔法薬の重要性もさることながら、聖女の追い込みの方がこの地へ来るための大きな理由だったようだ。





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