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81 寂れた町 7

ぼかしてはありますが、残虐な行動についての会話があります。

苦手な方はご注意ください

「領主夫人は……血のお風呂に入るって言ってた。ここにご飯を持ってくるお婆さんが」

「血の風呂!?それ、どんな地獄」


 血の池地獄を連想して翔馬が不快感も露わに眉を顰める。


「あ……」

「ん?」


「ちょっと、変なこと連想した。外国ですっごく昔に実際あった話なんだけど、”血の伯爵夫人”って言われた人がいてさ」


 翔馬は自分がいた世界で有名だった女殺人鬼を連想して話し始める。


「自分の美しさに自信があって凄くこだわってて、気分が悪くなるから詳しくは言わないけど処女の血を浴び続ければいつまでも若く美しくいられるって妄信して、その人がやっぱり血を満たした風呂に入ってたって」


 翔馬は考えるだけで気分が悪いのか、ひそめた眉の皺がさらに深くなる。聞いていた彼らも元々血の気の薄い顔色がさらに悪くなっているが、ハニー・ビーは特に痛痒を感じていない様子だ。


「エリザベート・バートリっていうその伯爵夫人は、もともと残虐な性格で使用人を折檻したり、口に出せないようなひどい拷問をして惨殺したり……。処女の血で美しく在れると考えてからは、城の中の召使いを使って、召使いがいなくなると領地から娘を攫って」


「にーさん、質問」

「なに、ビーちゃん」


 ハニー・ビーは小首をかしげて不思議そうに問う。


「処女の血って、なんか特別なの?」

「え!?そこ!?いやいや、女の子が処女とか言わない!――って、最初に言いだしたのは俺か。えーと、若い女の子、ね」


 翔馬は祖父母に育てられたこともあって――ろくでもない祖父母ではあったが――今時の人間としては割と旧式な考えを持つ男だった。


「若い子だから処女って決まりもないと思う」

「ビーちゃんっ!慎み!慎みを持って!」

「え?要らない。で、処女の血は特別な力を持ってるの?」


 魔女だけど聞いた事ないよ、そんなの。そういうハニー・ビーに、翔馬は諦めたように話をつづけた。


「実際に特別な訳じゃ無いよ。その人の健康状態とかで血液の良し悪しはあるだろうけども。それに、血液を浴びたって美を保つ効果なんかないし、却って肌に悪いって話。けど、血の伯爵夫人は根拠のないその話を信じて、たくさんの女性を犠牲にしたんだ」


 連想しただけでここの領主夫人がそういう女性だと決まった訳ではないと翔馬は言ったが、領地から集められている者たちは有り得る話だと得心した。


「その伯爵夫人はどうなったの?」

「あー、一説には300人殺したって話で、伯爵夫人が監禁していた子の一人が逃げてお上に訴えて、裁判にかけられた」


「……死刑、ですよね?」


 捕えられている女性が憎々しげに言う。翔馬の話す伯爵夫人と自分たちを監禁して血を奪う領主夫人とが重なって、初めて聞くそのエリザベート・バートリという女性も忌々しく感じているようだ。

 もっとも、自分が似たような被害を受けていなくても胸糞悪い話で、同様の感想を持ったかもしれないが。


「残念だけど……。手足となって動いていた奴らは斬首だったり火刑だったりになったけど、その国は貴族の力が強くて、優良な血統を継いでいる伯爵夫人は幽閉されただけ」


 死刑かと問うた女性が納得がいかない様子で俯く。


「あのね、血の伯爵夫人は実在した人なんだけど、ここの領主夫人に関しては俺たちもまだ情報が無いからね?」

「でも、理由が何にしたって、人の血を抜いていいわけないよねー」

「あー、うん、そりゃそうだ」


「と、いう事で、にーさんの話のように脱走して訴えるってのがいいかな?」

「簡単に言ってくれるね、魔女さん。逃げられるもんなら俺たちだってとっくに逃げてるよ」


 そりゃそうだ、とハニー・ビーは頷いた。


「だいじょぶ。脱走に関してはあたしとにーさんが何とかする。で、訴える先だけどここの領主は王都にいるし代官は伯爵夫人の手下でしょ?隣の領地のサジナルドなら真っ当な領主だからそこに駆け込もう」

「ガラウェイの領主さま……?確かにあの方はいい領主さまだと聞いているが――呼び捨ては不敬だよ、魔女さん」

「気にしない気にしない。本人にも面と向かって呼び捨ててるから」


 いや、気にしない訳にはいかないんだけど。それに本人にも――ってこの自称魔女は一体どういう人なんだろう。ハニー・ビーの前にいる男女はこの少女の正体が気になったが、本人はそんな視線もどこ吹く風で「先ずは気力と体力を回復してもらおうか」と言い、何もない空間に手をやり様々なものを取り出した。


「え!?」

「な……なに、どうして」

「どうなってるんだ!?」


 驚く人たちを無視して、ハニー・ビーは自身が調薬した造血剤と栄養価の高く消化の良い果物をテーブルに並べ始めた。


「弱った体に急激に重い食べ物を与えるのも良くないから、先ずはこんなもんで」


 テーブルに乗せ終えたハニー・ビーは振り返ってにっこりと笑う。


「あたしは、証拠になりそうなものを探してくるね」



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