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75 寂れた町 1

 ガラウェイを出て最初の町に着いたとき、聖女の護衛としてあちこち回った中でも類を見ないほどの寂れた様子に、ハニー・ビーらは瞠目した。


 確かに瘴気のせいで国が荒廃していると聞いていたが、王都城下やシャスターを始めとする瘴気に犯された地も、ライらを勧誘しに行った時に訪れた山のふもとの町も、最前までいたガラウェイも疲弊した様子は見えなかったのに、この町は建物や道は荒れており、まばらな町人もランティス人とは思えぬほどに疲れ切っている様子で無気力に見える。


 騎馬の二人が町の中へ入ってきたのをチラリとみて、すぐに関心を薄なったかのように目を逸らす人々。


「ランティス国でも、テンションが高くない町があるもんだね」

「どうしたんだろ?瘴気の問題じゃないんだよね、ビーちゃん?」


 この町は瘴気の影響がある訳ではない。ただ単に寂れて衰退していく限界集落なのだろうか。


「この様子じゃ、見るべきものもなさそうだし休憩せずに行こうか」


 ハニー・ビーは街の様子に特に感じることもなく翔馬に提案する。翔馬は腑に落ちない気持ちながらも自分が関わる筋合いがある訳でなく頷いた。


 そこに下は10歳に満たない位から最年長でも12~3歳位の少年少女が、倒けつ転びつハニー・ビーらの傍らまでやって来て口々に「もう献上するものはない」「お兄ちゃんを返して」と涙ながらに訴え始めた。とうぜん訴えられた側のハニー・ビーと翔馬は何がなんだかわからずに目を丸くする。


「ん?」

「なんか、誤解されてるみたいだけど」


 少年少女の中で最年長ではないがリーダー格らしい少年がそれを聞き、自分たちの誤解を悟って狼狽える。


「あ、あの、ごめんなさい。また、代官様が町の人を召し上げに来たと思って」


 よく見ればいつもの人たちと違うのに。自分が率先した事だから処罰は自分に。他の子どもたちのことは見逃してください――と、子どもながら難しい言葉を操って頭を下げる10歳位の少年は、他の子供達よりも幾分身なりが良く、姿勢や仕草が洗練されていた。


「いやいや、処罰なんてしないよー。ねー、ビーちゃん?」

「ん?どうしよっか」

「どうしよっかじゃないでしょ、意地悪言わない」

「意地悪じゃないよ」


 ハニー・ビーはライの背から降りて地面に立つと、少年の前に立った。


「あたしはハニー・ビー。魔女だよ。あっちはショーマにーさん。少年は?」

「ぼ……僕はアリウスです」

「ん。アリウス、よろしく」


 ハニー・ビーは、アリウスの話を同じく地に降りた翔馬と聞くことにした。自分には関係ない事だと思いながらも、お人好しの残念勇者がこの町の惨状をこのまま見過ごすとは思えなかったからだ。


 ため息を殺しながら「とりあえず、どっかに落ち着きたい。で、話を聞く。処罰云々はその後」とハニー・ビーが言うと、アリウスは「汚くて狭いところですが」と町の外れにあるアリウスの住居へと案内した。一緒に居た子供達のうち最年長の少年が他の子どもたちに家に戻るよう言いつけ、自分だけアリウスの傍らにいた。


 最年長の少年はフランネと名乗り、誤解して先走ったことを謝罪したが「本当に、誰かを連れ去ったり何かを持ってったりする気はねーですか?」と聞くあたり、まだ完全にはハニー・ビーらを容疑圏外に置いたわけではなさそうだ。


 しかし、アリウスは「代官様が町の人を召し上げに」と言った。もしそれが横暴な者だったら、抗議するフランネは酷い目に遭ってもおかしくない。

 ここにもまた直情系が……と、ハニー・ビーは王都にいるトティを思い出した。これも、ランティス国の気質かな、と考えながら。


 アリウスの家は、形を保っているのが不思議なくらいに老朽化していて、果たしてこれを「家」と言っていいものかと思えるほどにボロかった。


 ハニー・ビーたちの反応を見て一瞬だけ羞恥に頬を染めたが、すぐに胸を張って「お客様をお招きするようなところではありませんが、ここなら人の目も耳も気にしなくて良いので」と己の城に二人を招き入れる。


「奥で父が寝ていますが、気にしないでください」


 そう言ってアリウスはフランネと共に町の現状を話し始めた。


 2年前にこの地方の領主が交代し、それに伴い代官も変更された。新しい代官は、この町だけでなくあちらこちらの任地の町から人を召し上げ、今までに倍する税を求めた。召し上げた人々は代官の紹介で貴族のお屋敷に奉公しているという事だが、連れ去られて以来音沙汰はなく、奉公に対する給金も本人に渡しているからと、町の家族へ支払われることはなかった。


 最初は貴族のお屋敷での奉公という事で有難く思っていた町の人々も、便りの一つもなく何処にいるのかも分からない状況を不審に思い、代官に問いただしたという。

 しかし、代官はのらりくらりと適当な事を言い、挙句の果てにご領主さまの信頼を得てこの地を治めている自分を疑うのか、仕置きをされたいかと恫喝する始末。


 召し上げられた者たちが戻ってこないのに、更に代官はどんどん人を徴集し、町には若い世代がほとんどいなくなってしまった。


 息子が、娘が今一体どこにいるのか、どうしているのかと強硬に訴えたものはいつの間にか姿を消してしまうこともある。代官に問題があると訴えようにも領主は庶民が早々目通りできる方ではなく、更に言うなら王都住まいだ。


 年寄りたちは無気力になり、働き手が減って町の生産や生活も停滞するようになった。


 そこに身なりの良い二人組が騎馬で現れたのでまた代官の遣いだと思い、これ以上の「召し上げ」は勘弁して欲しいと訴えようとした。


 訴えるのが子供なら、そう無体はしないだろうと甘い考えで。


「そりゃひでぇ」


 苦虫をかみつぶしたような顔で翔馬が言うと、ハニー・ビーは「問答無用で町を出た方がよかったかな?でも、にーさんは承知し無かったろうな」と諦め顔で頷いた。






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