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72 鉱山の街ガラウェイ 12

「可愛子ちゃん?何、今の、手品?」

「大体、今この時点で視認も出来るし10メートルより近いんですけどー?」


 宙に浮かんで光った魔法陣を手品といい、近づくなの呪詛が発動しないと笑う男たち。


「手品だと思っても構わないよ。近寄らないってのは、いったん離れてからだから」


 ハニー・ビーの説明も苦し紛れの言い訳だとでも思ったのか、馬鹿にしたように鼻で笑うシンザとサカニーは、魔法があることは知っていても縁の遠いお貴族様のお遊びだと思っているし、呪いなどこの世にある訳がないと笑う。


「フォセカ、ちょっと離れて後ろを向いて」


 ハニー・ビーの言葉を聞き、素直にその指示に従うフォセカ。男たちがいると分かっていて背中を向けるのは怖いだろうと、翔馬がその横に付く。


「フォセカ、だいじょぶだからね?」

「ハニー・ビーさんの事を疑ったりなんかしませんよ」


 全幅の信頼は揺るがない。ハニー・ビーはフォセカの言葉を聞いて嬉しくて恥ずかしいような、擽ったいような気持ちになった。


「あたしのしたことを信じてないなら、フォセカに近づいてみる?それとも名前を呼んでみる?それですぐに分かるから」


 自信満々に言うハニー・ビーをせせら笑ってシンザがフォセカに近づく。彼の頭の中では、泣いて許しを請うハニー・ビーとフォセカをどうしてやろうかという下卑た妄想が繰り広げられていた。


 サカニーもその後に続く。彼の頭の中もシンザと似たようなものである。


 フォセカの家より敷地が大きいといっても、そこは庶民の個人宅。両者の距離がとてつもなく離れるわけも無く、すぐに10メートルを切る位置まで近づいた。


「えっ……」


 前を歩いていたシンザが突然たたらを踏んだ。その顔は思いもよらぬ出来事に驚愕しているように見える。


「お、おい、どうしたよ」

「い、いや、なんか、おかしい……」


 シンザは右足で何度か地面を蹴ると、サカニーを青い顔で振り返った。


「ヤバいかもしんねぇ」

「おい、冗談は止せ。呪いだなんて、そんなことあるわきゃねぇだろうっ!」

「でも、俺の足……」

「暗示にでもかかったか。骨一本なんて、ひびが入っただけでも相当いてぇだろ?お前、そんな風には見えねぇぞ」


「失ったのは右足の第一末節骨だね」


 痛くなくて当たり前、存在そのものが無かった事にされたのだと言う少女に、サカニーがいきり立つ。


「ふざけんなっ、呪いだなんてそんな事――っ!」

「そう思うなら確認したら?あー、第一末節骨って、要は右足の親指の一番先端部分ね。踏ん張りが効かなくなってるんでしょ?あと、無くなる骨はランダムだから、次はどこの骨が消えるのか、あたしにもわからない」


 シンザは座り込んで靴を脱ぎ、ハニー・ビーが言った右足の親指を確認する。すると、確かに指の形は残っているのに触ってみると硬い骨は感じられず、柔らかい肉の感触しかなかった。


「サカニー、マジで骨がねぇ……」

「そんなバカな……」


「そう思うんなら、もっとフォセカに近づいたらどう?自分で確かめなよ」


 サカニーは青くなって首を横に振る。


「フォセカに振り返ってもらう?」


 言われて首を振る速度が上がる。


「ビーちゃん、しつもーん!」

「何、にーさん?」

「なんで、フォセカちゃん側からの視認だけにしたの?」

「ん。故意じゃなくて偶然に見かけちゃったらさ、フォセカが気が付く前に逃げる猶予くらいはあげてもいいかなーって」


 同じ街に住む者同士だ。偶然にすれ違う事もあるだろうから、男たちが意図せずにフォセカの近くまで来たのなら、気付いた時点で避ければいい。


「ビーちゃん、やさしー」

「ん」


 それは優しさか……と男たちは思うが口には出せない。フォセカに近づいたり声を掛けたりなども怖くてできない。


「フォセカー、どうする?怒りが収まらなかったら振り返ってみる?触りたかったら、動かないように指示出すけど」


 振り返って視認されたら骨がまた消える。触れられたら体毛が消える。次に触れられたら不能になる。右足親指の骨が本当に無くなってしまってもまだ呪いに関しては半信半疑なのだが、本物である可能性を考えると危険は侵せない、今までやりたいようにやってきた傲岸不遜な男たちでも思う。


「いえっいえいえいえっ!あの、ハニー・ビーさん、呪いはちょっと懲らしめとして重くないですか?おばあさんには謝ってほしいですし、私も侮辱されて悲しかったですけど、えーと、したことととの釣り合いが取れてないというか……」


 振り返らないまま言ったフォセカに、サカニーたちは「もっと言ってくれ!」と願う。ハニー・ビーが言ったようにフォセカに関わらなければ発動しない呪いなのだが、今後一切関わらないようにするにはこの街を出るしかない。

 鉱夫崩れの自分たちが、他所に行って何が出来るだろう。

 カモとなる女が見つけられれば良し、しかし、他所の街にはよその街でサカニーのような男たちはいる。そこに食い込めるかどうか分からないし、この街でこそ幅を利かせてはいるが、自分たちにそれ程の力があるとは思っていない。


 この栄えてはいるが辺鄙な街だからこその威勢であることは重々承知しているのだ。


「あ、そっか。あちらの媼にしたことの制裁がまだだった。フォセカ、ありがと」


 違う、そうじゃない。


 男たちは思うが、それを言ったら火に油だという位は分かるので無言でいる。

 この場合、沈黙は金とはいかないのだが。


 フォセカの取りなしで、男たちはこれ以上の私刑を受けることなく放免された。


 この先ずっとフォセカを避けて暮らすことになるが、それでも骨を失ったり舌が爛れたり禿げたりすることもなく、人を見た目で判断して痛い目に遭う事を恐れ、大人しくなったという。



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