71 鉱山の街ガラウェイ 11
「ビーちゃ……」
「おー、イイね、可愛子ちゃん。年はまだ足りてねぇようだが、その体なら十分に楽しめそうだ」
翔馬が声を掛けようとするのを遮って、フォセカに絡んだ方ではない男が手を打って笑った。見せつけるように舌なめずりをして、ハニー・ビーの体を舐めるように見る。
「そっちの人も一緒にどう?」
フォセカに絡んだ方の男に視線を向けたハニー・ビーが言うと、男は下卑た笑い声を漏らして言う。
「剛毅なお嬢ちゃんだな。ハジメテで俺ら二人を相手にしようってのか」
「ん。あたしなら五人でも十人でもイケると思うけど、なにせハジメテだから、いちお慎重に」
ハニー・ビーの言葉を聞いて、男たちが腹を抱えて笑う。ここまで来れば、翔馬もフォセカもハニー・ビーが何かやらかすのだろうと推察は出来たが、初めて”何を”するのかまでは分からない。それは周囲に被害は出ないのか、優秀な魔女を自認する彼女だから大丈夫だとは思うが、彼らの命にかかわるようなことはないのかと、内心の不安を隠せずやや顔の色を失った。
翔馬たちが顔色を悪くしたのを見た男たちが何を勘違いしたのか、優越感をにじませて片手を上げてウインクする。
「悪いな、お坊っちゃん。可愛子ちゃんはお前さんより俺らの方がいいらしい」
「ハジメテは貰っちまうけど、恨んでくれるなよ?そのうち順番が回ってくるかもしれねぇし?俺らが仕込んでやるから、具合がよくなると思うしな。ぎゃはははは」
「え?にーさんにはしないよ、人聞きの悪い」
「あー、お坊っちゃん、フラれちまったなぁ」
今から何をされるのか分かっていない男たちが哀れだ――翔馬はそう思った。
具体的に何をするのかまでは分からないが、決して喜んで受け入れるものがいない類のことだという事は決定である。
か弱い女性を殴り飛ばし、フォセカを蔑んだ男たちにハニー・ビーが容赦をするとは思えない。いや、そもそも、彼女の辞書に”容赦”という言葉が載っているかどうかも怪しいと、翔馬はあきらめの境地で「せめて大ごとになりませんように」と祈っている。
翔馬とて目の前の男たちを許す気は微塵もないが、自分が相手をすれば少々の怪我くらいで済んだはずなので、ハニー・ビーに相対する彼らが、少し気の毒に……はならないな。これはコイツ等の自業自得なんだしなー、と。
「じゃ、早速」
そう言ったハニー・ビーを見つめるフォセカと翔馬は「だ……大丈夫、ですよね?ハニー・ビーさん、無茶はしませんよね?」「た……多分。あいつらの命を取るまではしない……と思う」と小声で言葉を交わしたが、内容の聞こえなかった男たちはそれも愉悦の種のようだ。
「可愛子ちゃん、イイねー。そういう子、俺、大好物」
「だよなー。お嬢ちゃんは見た目も体も根性も俺たち好み」
「あはは。あたしはアンタら全然好みじゃやないけどね。じゃ、魔女ハニー・ビーのハジメテの呪術だよ。――我、魔女ハニー・ビーが言葉の針にて呪う。対象はシンザ、対象はサカニー。我ハニー・ビーの望まぬところに身を置くことを禁ず。破りし時は一度に付き骨一本を召し上げる。我望まぬは、フォセカの辺近処。彼女が視認できる範囲に近づきし時、或いはその距離10メートルまで近づいたとき、呪いは発動するであろう」
背筋を伸ばして表情を消したハニー・ビーが厳かに呪いの言葉を紡いだ。彼らの名前を知っているのは、当然、鑑定した結果だ。ハニー・ビーの世界の常識として当人に許可を得ない鑑定はタブーだが、敵や犯罪者にはそれは適応しない。
突然の呪詛に男たちはきょとんとした顔をしている。この世界にも呪いはあるが、あまり現実的ではなく気休めや思い込みの類とされているからだ。
「我、ハニー・ビーが言葉の針にて呪う。対象はシンザ、対象はサカニー。我ハニー・ビーの望まぬ言葉を吐くことを禁ず。破りし時は舌は焼け爛れる。我望まぬは、フォセカを対象とした文言。名を出さずと示唆した際も同様とす。言葉を発すると同時に呪いは発動するであろう」
「可愛子ちゃん……頭おかしいのかな?」
「いや、構わねーだろ。頭おかしくてもあんだけイイ体してれば」
男たちはハニー・ビーを少し足りないのではないかと思ったか、やや引き気味である。一方、彼女が本物の魔女であることを知っている二人は、これが彼らに与えられる罰として適当なのかどうかを話していた。
「あの位なら……まぁ、大丈夫、かな」
「え、いえいえ、骨を奪うとか舌が焼けただれるとか拙くないですか?」
「うーん。でも、ビーちゃんの指示に反しなければ何事も起こらない……だろうから、多分」
「多分ですか!?」
しかし、魔女の呪いはまだ終わっていなかったようだ。
「我、ハニー・ビーが言葉の針にて呪う。対象はシンザ、対象はサカニー。我、ハニー・ビーの望まぬ行動をとること禁ず。破りし時は段階を踏んで体の機能を失う。我望まぬはフォセカに触れること。一指でも触れれば、先ず体毛を失うであろう。二度目は男性機能を失う。三度目は視覚を失う。四度目は聴覚を失う――」
近寄ると骨が失われると呪いをかけた上で、更に触れることを禁ずる呪いだ。骨を奪われてでもフォセカに触れようとする愚か者はそういまいと翔馬たちは思ったが、ハニー・ビーは念には念をとばかりに幾つもの罰則を並べ立て、最終的には心肺機能を失うとして呪詛を絞めた。
すると魔法陣が浮かび上がり、シンザとサカニーの体に吸い込まれて消えた。
「と、いう事で、アンタらはもうフォセカには何もできないから、さっさと去れ。正直、メチャクチャむかついてるから、呪いじゃなくて自分で手を下したい気持ちで一杯なんだからさ。あたしが我慢しているうちに、どっか行って」
当然、シンザとサカニーは、ハニー・ビーの言葉を本気にはしなかった。
頭がおかしいのか、こちらをおちょくっているのか、どちらにしてもこのまま済ませる気は無い。
ハニー・ビーとフォセカを手捕りにして、邪魔するようなら青年を畳んでころがし、自分たちのテリトリまで女2人を連れ込むつもりだ。連れ込んだあとは、その体を楽しんだ後に売り飛ばせばいい。そう思っている。
ハニー・ビーとしては、魔女がお伽噺の中にしかないこの世界で呪いを信じない事は織り込み済み。むしろ、どうぞ禁を破って下さいといったところであるが、それを男たちが知る術も無かった。




