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70 鉱山の街ガラウェイ 10

 悪気と常識の無い馬鹿って厄介だなぁ――と、翔馬とハニー・ビーは思ったが、次に出会った馬鹿は常識が無く悪意のある馬鹿だった。


 逃げないとは言ったもののそのまま放置も如何なものかという事で、侵入者三人は後ろに回した手の親指同士をハニー・ビーが持っていた針金で結び、更に三人を背中合わせにしてひとまとめに拘束した。

 どんなに息があっていたとしても、この状態で動くことは出来ないだろう。


「お母さんたちにもう大丈夫だって言ってくるね」


「ああ、そっちは俺が行こう、フォセカ。お前はお二人のお世話をしなさい」


 事が起こりすぎてクールダウンしたいフォセカ父は、娘に後を任せると家に戻っていった。


「とりあえず、サジナルドに確認?」


「あと、この辺りでクロウグラスを育てているお家にも押収目的の人がいないか見ておいた方がいいかも?」


「あ、でしたら、私が案内できます」


 手を上げて自分が役立つことを宣言したフォセカに、ハニー・ビーらは案内を頼んだ。

 ここに侵入した三人が自分たちの考えで栽培されたクロウグラスを狙ったのなら、他の家は無事かもしれないが、指示が「民家からの徴収」だった場合には他の家にも押し入っている人間がいるかもしれない。真っ当な指示が出ていたとしても、この三人のように何も考えずに見かけたクロウグラスを採取しようとしているかもしれない。


「ここのおばあちゃんは薬草やハーブを育てるのがとても上手で、たくさんの種類を育ててるんです。ハーブ畑もうちよりずっと広いんですよ。私も、お手伝いしながら育て方を教わってます」


 フォセカが案内したのは、彼女の家からほど近い小さな家だった。一人暮らしだと言うので広い家は必要ないのだろう。

 しかし、敷地は広く、薬草やハーブ、花や野菜などをたくさん育てているそうだ。


「おばーちゃーん。フォセカだよー」


 勝手知ったると要った様子で畑に回るフォセカ。ハニー・ビーたちはその後を付いて行く。飾り気はないが無駄なく整えられている家の外観や庭を見てハニー・ビーは感心する。フォセカの家もそうだが、温かく受け入れてくれそうな雰囲気を持つこの家の主は、きっと優しい人に違いない。


「あ、おばあちゃんっ!」


 残念ながら、他の家にも押し入っているかもという翔馬の予想が当たってしまった。


 倒れ込んでいる老婦人をなおざりに、乱暴にクロウグラスを刈り取っている男が二人。フォセカが走り寄って老婦人を助け起こすと、頬に殴られたとおぼしき跡があり意識が無いようだ。


「ハニー・ビーさん!」


「ん。だいじょぶ。治すよ」


 歩み寄ったハニー・ビーが老婦人の顔に手を当てているのを見て、翔馬は男たちへと向かった。先ほどの三人も粗暴であったが、この二人は身を守る術の無い年を取った女性を殴ったのだから、更にたちが悪い。


「アンタら、何してんだよ」


 フォセカの声を聞いていったんクロウグラスの刈り取りを中止した男たちが、にやにやと笑いながら翔馬を見る。彼らも鉱夫であるが、まじめに働くことをせずに稼ぐ女性に寄生しつつ、強請やタカリ、他人の功績をかすめ取るなど、鉱夫の中でも素行が最低ランクの男たちであった。


 それを知らない翔馬だが、目の前の光景を見ればクズだという事は一目瞭然である。


「ナニって言われてもー、なぁ?」

「なー」


 フォセカ宅に侵入したいかつい男たちよりは、見目は整っている。だが、その性根の悪さが顔にも態度にも表れている。


「おぼっちゃん、怪我したくなかったら見なかったことにして、お家帰ってママのおっぱい吸ってな?」

「そーそー。お兄さんたちはお仕事中なんだからさ、邪魔しちゃ駄目でちゅよー」


「え?にーさん、幾つに見えてんの?」


 治療した老婦人をフォセカにに任せてやってきたハニー・ビーが言う。ハニー・ビーの目から見て、侵入者たちは二十代後半に見えるが、それで翔馬を子ども扱いするのが不思議だったのだ。


「ビーちゃん、問題はそこじゃない」


「えー、だって、にーさんは27才でしょ?コイツ等とそう変わらないんじゃない?」


「うん、多分ね。だから、そこが問題じゃなくてね」


 そう言う翔馬だが、彼も舐めた口を利かれたことに対しては大して思う所もない。見た目で判断して見下されても、馬鹿だなぁと思うだけである。


 この半年の間、城で習い覚えたのは馬に関することだけではない。残念でも勇者なだけあって、剣術も体術もやればやっただけ上達し、教わった事を吸収していく速度は騎士団の語り草になったほどだ。

 性格的に戦闘には向かないのは仕方ないが、技術的には鉱夫崩れの一人や二人、いや、十人二十人いたとしても、ハニー・ビーの助けを借りずに対処できるだけの自信がある。


 とどめを刺すってのは今のところ無理だけどね。ま、殺さなきゃならないほどの状況じゃ無し、いいか。


 そんな事を考えている翔馬は余裕の表情であるが、彼の力を知らないフォセカが見た目に荒事向きではない翔馬を心配して駆け寄ってきた。先ほど自宅の裏庭に侵入した男をあしらったのは見ているが、ここにいる二人の男たちは街でも腕っぷしが強いと評判だ。


「ショーマさん、ここはハニー・ビーさんに任せた方が……」


 フォセカは厚意で言っているが、男としてかけられた言葉は情けない。


「大丈夫だよ、フォセカちゃん。おばあちゃんについてて?」


 フォセカの名前に反応した男がにやりと笑う。


「そっちのお嬢ちゃん、誘拐されたって噂のフォセカちゃんかぁ。散々な目にあったんだろうなぁ。可哀想に。俺が()()を確かめてやろうか?」


 男が含みを持たせた言葉の意味に思い当たり、フォセカは怒りと羞恥で顔が熱くなるのを感じた。男はフォセカが傷物になったと言っているのだ。


「おい、てめぇ!」


 翔馬もそれを悟り、心無い言葉をフォセカにぶつけた男を睨みつける。

 実際、売られる前の「味見」などされてはいないが、攫われた女性がそういう目で見られることはままあることだ。


「ふふっ」


 男に対し、獰猛に笑ったハニー・ビーが言う。


「あたし、経験ないけどアンタらに具合を試してもらってもいいかなぁ?」



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