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07 渡りかけた橋 1

 結局、ハニー・ビーは拉致未遂の犯罪者である四人を放免した。

 被害者はいるのだろうが、自分は襲われたとすらいえない状況だったからだ。


 「動くな、喋るな。あと、隠形」


 壁沿いに四人を立たせ、命令と魔法行使。


「これで、おねーさんたちは動けないし喋れないし誰にも見つけてもらえない。でも、誰かが触れたら解除されるから、運が良ければ助かるよー」


 されたことに対し報復がえげつないが、これはハニー・ビーが彼らを鑑定して所業を把握したが故の処置である。誘拐・拉致・人身売買・虐待・殺人などなどの犯罪履歴が彼らのステータスにばっちりと記載されていたため、救いを残したこと自体が恩赦と言えようか。

 本人は彼らを放免したと思っているが、これを真実放免と言ってしまうのは犯罪者たちには釈然としないものだっただろう。


「おねーさんたちだけを罰しても犯罪が無くなる訳じゃ無いけどねぇ」


 射るような目でハニー・ビーを睨んでいた犯罪者たちは、彼女が踵を返すと哀願する表情に変わる。残念ながら、ハニー・ビーの興味はすでに彼らにはないし、他には誰もいない。尤も、誰かが通りかかったとしても隠形のせいで視認すらされないのだが。


 グリージョたちに背を向けたハニー・ビーは、迷うことなく大通りへと向かった。これから、彼らの拠点へ向かうのだ。


 被害者たちを助ける為じゃない。グリージョに嫌な気分にされられた慰謝料は彼らの財布だけじゃ足りないから、アジトで徴収するためだ。決して閉じ込められているであろう誰かを助ける為じゃない。ハニー・ビーは心の中で言い訳をした。


「あたしは正義の味方じゃないし。でも、渡りかけた橋だし」


 彼らはハニー・ビーを脅すために、自慢げに根城いる被害者たちの境遇を滔々と語った。反抗的な10代半ばの少女を手枷足枷を付けた上で窓のない部屋に監禁しているのはまだマシな部類で、十にも満たない少年はさる高貴なお方の奴隷とするために心を折っている最中の為、つねに四つん這いで行動させて食事をするときも手を使わせないとか。人豚として扱いたいという依頼により物心つく前の子どもに言葉も服も与えず風呂にも入れず、ただ餌を与えるだけの生活をさせているとか。


 彼女を震え上がらせることが目的であろうから、それがすべて本当かどうかは分からないが、話半分としても正義の味方じゃなくても胸糞悪いことこの上ない。

 やつらへの仕置きすら甘い処置だとハニー・ビーは思う。

 本来なら官憲なり警らなり、その筋に突き出すべきであろうが、この国のことを何も知らない状態で、お役所が信頼できるかどうかも分からない。ならば、自分の手でどうにかしようと彼女は考えた。


 正義の味方なんかじゃないけど、ムカついたから慰謝料徴収のついでに潰してやる。


 行動を起こすにも理由づけをする面倒くさい性格の魔女であった。


 視覚を調整し、先ほど鑑定したときに精査したグリージョの生命痕の軌跡を辿ることにし、路地から出たハニー・ビーはまたしても声を掛けられた。


「お嬢さん、先ほど君が怪しげな人物に連れ去られたと通報があったんだが」

「あたし?連れ去られてないよ?」

「いや、しかし、赤い髪で異国の衣装を着けた十代半ばとおぼしき少女……と」


 グリージョは見た目では怪しげには見えないのだが、周囲は彼女がしていることを知っていたのか。庇ったり助けてくれたりはしなかったものの、通報はしてくれたらしい。かといって、この人物に信頼がおけるかどうかと言えば、判断する材料が無いとしか言えない。


 匂いは悪くない。悪意や害意も感じない。だがしかし、グリージョたちが言ったことが真実であるなら、この国のお偉いさんが彼らの顧客であるのだ。下っ端のこの青年が実直だったとしても、彼に命令を下す人間が清廉だとは限らない。もしも、命令を下す当人がグリージョたちのお得意さんだったら?根城を突き止めて官憲の手に委ねたあと、被害者ごと根城が消失――なんてことも無いとは言えない。


 それはよろしくない。


 あ、いやいや、正義の味方じゃないんだから。ムカついたからやっちまうぜ!ってだけだから。

 何がよろしくないかと言うと、あたしの獲物をかっさらわれたり、仕置きを台無しにされるのがよろしくないだけだから。攫われた人たちを助けるとかじゃないから!


 誰に言うともなく、心の中で理屈づける。


「お嬢さん?俺はトティ。異国のお嬢さんは知らないかもしれないが、この国の第三騎士団第二大隊第四班の騎士だから、怪しくないから、ね?」


 それが怪しくないかどうかは置いておいて、身分の口上が随分と長い。

 騎士のトティ。覚えておくのはそれだけでいいだろうとハニー・ビーは長口上を記憶から抹消した。



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