69 鉱山の街ガラウェイ 9
侵入者の一人に放置していることを咎められたハニー・ビーは、フォセカとフォセカ父に歩み寄った。
「ハニー・ビーさん、怪我はないですか?大丈夫ですか?」
「ん。全然平気」
「あの……あの人たち、どうしましょう」
自宅の裏庭で侵入者三人が転がっている。本来なら通報して対処してもらうのだが、彼らは領主の命で動いていると言った。
ハニー・ビーや翔馬が領主と近しいらしいことは分かっているが、この家に咎は無いだろうかと心配するフォセカ父。
「ホントにサジナルドの指示かどうかを確認する。それまでとりあえず置いとく」
「置いとく……って、ここに、ですか?」
「邪魔?ん、邪魔だよね」
自宅の裏庭に図体の大きい男三人は邪魔だろうとハニー・ビーは考えたが、問題はそこじゃないとフォセカ父は突っ込みたかった。突っ込まなかったが。
「じゃ、あたしが仕舞っておこうか」
そう言うなり足が効かない男にハニー・ビーが触れた。
「……え?」
彼女が触れた途端に男は消え失せ、侵入者の残り二人だけでなく翔馬やフォセカ、フォセカの父も驚きの声を上げた。
「ん?仕舞っただけだから、あとで出すよ?ただ――」
「た……ただ?」
「収納に長時間仕舞っておくと、人によっては精神に支障をきたすことがあったりなかったり、正気に戻れなくなることが無くもない、こともない訳でもない。稀によくあることとして、出したときには息をしてなかったりする可能性も……」
ヒイッと、侵入者二人が息を呑む。ハニー・ビーが何をしたのかどこに仕舞ったのかは分からないが、惨憺たる結果になることだけは分かった。そして、仕舞われるのは一人だけではないだろうことも。
さすがに「息をしてない」事態になった事はないのだが、ハニー・ビーの脅しは侵入者たちにはよく効いたようだ。
次は自分かと震える男たちを救ったのは翔馬だった。
「ビーちゃん!出しなさい!人間をそんなヤバいトコに仕舞っちゃいけません!」
「ハニー・ビーさん、収納って、生き物も仕舞えるんですねぇ」
のんびりと感心するフォセカ。そんなフォセカに何を言ったらいいのか分からないフォセカ父は、それでも仕舞われた男の安否が気になってハニー・ビーに乞う。
「あの、邪魔じゃないですから!こんな小さな裏庭で良ければ、置いておいて構いませんから!むしろ置いておきたいです!お願いします。出してください」
なぜ被害者が犯人を庇わねばならないのかと思わぬこともないが、領主の命云々はさておき、敷地内への無断侵入だけで精神に異常をきたすような体験をさせたいわけでも、まして命を脅かしたいわけでもない。
「そ?じゃ、出そうか」
ハニー・ビーが先ほど仕舞った男を出したとき、一同は安堵のため息をついた。
「でも、逃げるようなことがあったら困るから、やっぱり仕舞って……」
「逃げません!絶対に!ここから動きません!」
侵入者たちは、翔馬に押さえつけられている男も含め、真っ青な顔で涙目になり鼻水まで垂らしながら地面に額を擦り付けながら逃げない事を誓ったので、ハニー・ビーはとりあえずこのままでいいか、と肩をすくめる。
「ちくしょう……こんなとんでもないのがいると知ってれば、こんな真似はしなかったのに」
翔馬の下で男が呻く。
「それ、違いますよー。ビーちゃんがいようがいまいが、あなた方のやった事はダメな事です。そもそも正面から”領主さまの指示でクロウグラスを集めているから融通してほしい”って頼めば分けて貰えたでしょうに。ねぇ?」
最後はフォセカ父に向けての言葉である、フォセカ父がうんうんと頷けば、侵入者たちは口を開けて目を丸くした。
「その手があったか!」
「その手しかないでしょ!」
「そもそも、サジナルドが本当にそんな指示を出したかでしょ、にーさん」
「だよねー。俺、金石英1に対してクロウグラス5ってちゃんと伝えたよ?サジナルドさんは一体どれだけ集めるつもりなんだか」
その言葉を聞いた侵入者たちは、この二人は本当に領主と面識があるのかと震えあがる。自分たちは本当に「クロウグラスを集めるよう」指示を受けたが、はたしてそれは民家に侵入してでも取って来いという事だったのだろうか、それとも少女が言ったように森や川に採取に行けという事だったのだろうかと、今更ながら考えていた。
民からの徴収だとしても、青年が言ったように先ず話をしてからという術がなぜ浮かばなかったか。ただ、歩いているときにたまたま目に入ったクロウグラス。あるならそれを持って行こうと思っただけなのだ。
領主さまが欲しているものなら、持って行って何が悪い。そう考えた男たち。
悪気はなかったのだ。
ただ、悪気はないが常識も無い粗暴な馬鹿だっただけで。
「つまり、ただのアホたれだったんだ」
翔馬の言葉にしょんぼりする侵入者たち。
他人様の迷惑になるので、この経験を生かして少しは常識を学んでほしいと思った翔馬である。




