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68 鉱山の街ガラウェイ 8

「あ、それ駄目なヤツ。返り討ち必須」


 侵入者二人が自分ではなくハニー・ビーに向かったのを見て、ひとりを拘束している翔馬が声を上げた。


「あー、でも、フォセカちゃんに向かうよりはビーちゃんの怒りを煽らない、かも?ビーちゃんは俺なんかよりずっと強くて、比べ物にならない位に容赦ないタイプだよー?」


 いまだに彼女を召喚した魔導士の中には悪夢にうなされて「魔女コワイ、聖女様助けて」と譫言を漏らす者もいるとか。狂騒一味でも、悪態をつけたグリージョは特殊で心理的外傷に苦しむ者の方が多いとか。城で聞いたそんな話を思い出して翔馬が言った。


 侵入者二人はそんな事をと聞かされても、今更後戻りはできないとばかりに連携を取ってハニー・ビーを攻撃しようとした。


 鉱夫は荒くれ者が多いので、喧嘩も茶飯事なのだろう。慣れた様子がうかがえる。


 翔馬は、ハニー・ビーがいつもの「黙れ、動くな」を使うのかと思っていたが、彼女は今回は体術だけで応戦した。


 右から伸ばされた手を最小限の動きで躱して、死角から殴ろうとしてきた男の前へ肩を突いただけで誘導する。殴ろうとした男は慌てて手を引くが勢いが止まらずたたらを踏んだ。

 死角からのダメージを想定して躱されることは承知で手を伸ばした男は、勢いを増される引き回しをされることは想定していなかったようで、殴ろうとしていた男にぶつかりそうになり此方もよろめき、無理に留まろうとした結果、バランスを崩して地面に手を突く。


「クソッ」


 手を突いたくらいではダメージはなく、すぐさま立ち上がって戦闘態勢を取ろうとする男。

 

 ハニー・ビーはその男が態勢を整える前に足払いをかけてまた転がす。懲りずに背後から襲ってきた相手の腕を取り、捩じってね背負い投げをする。


 その後も、向かってくる相手をいなし、躱し、小さなダメージを積み重ねるハニー・ビー。


「……ビーちゃん、遊んでる?」


 やろうと思えば瞬殺も可能であるのに――手を出す必要もないからと一人を膝下に拘束したままの翔馬が聞く。


「んーん。鍛錬は久しぶりだから準備運動。それと、得意技の下準備、かな?」


 息を切らし始めた男たちに対し、ハニー・ビーは余裕である。


「得意技?」


「ん。見たい?」


「見たい―――!」


「じゃ、期待に応えてみようか」


 得意技と言ったが、その後もハニー・ビーの戦闘スタイルは変わらなかった。躱しながら相手を翻弄している姿は舞っているようである。


 と、ハニー・ビーに向かっていた男の一人が膝をついた。まだ足に来るほどには疲れておらず、息を整えるために彼女から距離を取っていたにもかかわらず、である。顔色は悪く、自分に何が起こっているのか分からない様子で、周囲を見回している。


「ザシュ、どうした!?」


「分かんねぇ……、急に、足が効かなくなって」


 言う間にも足を動かそうとしたリ、手で摩ってみたりするが変化はない。


「小娘、てめぇ、何か小細工しやがったな」


「ん。でも、小細工?っていうかな?真正面からやったのに」


「なんだとっ!?」


 ハニー・ビーは魔法を使っていない。魔法=小細工ではないが、魔法を使ったとしたら彼らは卑怯だの姑息だのと文句を付けただろうことは想像がつく。魔女が魔法を使っても卑怯でも何でもないが、彼女は相手の土俵でやり込めるつもりだ。


「そっちの人もおいで。同じようにしてあげる」


 人さし指をクイクイと曲げて挑発するハニー・ビー。

 いくら単純でもそんなに分かりやすい挑発には乗らないだろうと翔馬は思ったが、彼は思ったよりさらに御目出度い頭をしているようだ。


「ふざけんなっ!!」


 真正面から向かっていく男を見て、翔馬はあちゃーと天を仰いだ。翔馬の膝下にいる男も同様の感想だったようで、ちっと舌打ちをして「あの、単細胞が」と嘆く。


 そして、最後の一人もハニー・ビーとすれ違っただけで膝をついた。


「ビーちゃん、何したの?」


 翔馬の問いに、ハニー・ビーは傍まで寄って右手の親指と人さし指で挟んでいる針を見せた。針先を手のひら側に隠し、わざわざ見せなければ何も持っていないかのように見える。


「針……ビーちゃん、暗器使い?魔女なのに?」


「ん。上手くやれば痕跡も残さない」


「ビーちゃん、暗殺者じゃなくて魔女だよね!?」


 なぜ魔女が痕跡を残さずに相手を倒す算段をするのか理解できなくて翔馬が叫ぶ。


「ん、魔女」


「魔女って一体……」


 翔馬がハニー・ビーの世界の魔女に疑問を抱くのも仕方ないが、これはハニー・ビーの師匠の方針であり、彼女の世界の魔女は普通、暗器の使い方など取得しない。ハニー・ビーを見て魔女の在り方を知った翔馬は、のちに彼女が規格外だと知るが、それはまだまだ先の話である。


「あ!蜜蜂(ハニー・ビー)だから針だ!」


 得心したように言う翔馬にハニー・ビーは首を横に振る。


「んーん。針を使うからハニー・ビーってついた」


「命名はお師匠さん?」


「ん。魔女は師匠や魔女ギルドから魔女としての名前を貰う。あたしは今のところハニー・ビー」


「……()()?魔女ギルド?」


 不得要領の翔馬にハニー・ビーは説明する。


 ハニー・ビーのいた国では魔女ギルドがあり、魔女は試験を受けて合格しないとなれない免許制であること、魔女は本名のほかにギルドや師匠から名前を貰って名乗る魔女名があり、呪術の材料となりうる本名は使わない事、魔女名は本人に相応しいものがつけられるが、成長や変化で新たな名前が付けられることがあること。


「あたしの師匠の最初の魔女名は”キティ”」


「子猫ちゃんだね」


「ん。そこからオセロット・山猫(ワイルドキャット)、サーバルキャット、雌虎(タイグリス)なんかを経て、今の名前はマンティコア」


「マンティコアって……人食いじゃなかったっけ?え?いるの?想像上の生き物じゃなくて!?……こわっ。ビーちゃんのお師匠さん、こわっ」


「ん。師匠は怖い。あたしも、クイーン・ビーとかバタフライ・ビーとかキラー・ビー位ならいいけど、ドラゴンイーター・ビーとかになったら、ちょっとなーって思ってる」


「ビーちゃんの世界にはいろんな蜂がいるんだね……」


 きっと、昆虫ではなくて魔物の類なんだろう、ドラゴンイーターって何なんだ、蜂がドラゴンを食べるっておかしいだろ……翔馬は自分の常識とハニー・ビーの世界の常識との乖離の甚だしさに愕然とした。


「おいっ!てめーら!俺らを無視してんじゃねーっ!」


 翔馬の下にいる男が体を捩じって抗議した。


「あ、忘れてた」


「忘れてたじゃねーっ!」



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