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召喚された魔女は異世界を謳歌する  作者:


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67 鉱山の街ガラウェイ 7

「先ず、皆さんはこの家に何しに来たんですか?」


 彼らを煽ったと言う自覚のない翔馬が穏やかに尋ねる。

 三人は目配せすると、一番年かさの三十代半ばの男が口を開いた。


「クロウグラスを取りに来た」


「よそ様の家の庭に?」


「ああ、そういう指示が出ている。よって、ここにあるクロウグラスはもらっていく」


 翔馬はハニー・ビーを手招きして「これ、アレだよね?」と耳打ちする。ハニー・ビーもそれ以外は考えられないだろうと頷いた。



 ハニー・ビーが調薬の為にクロウグラスが必要だと言う。

   ↓

 翔馬がサジナルドにそれを連絡する。

   ↓

 サジナルドがクロウグラスを集めるよう指示を出す。

   ↓

 命じられた男たちが民家を強襲。  ← イマココ


「サジナルドがそういう命令を出したのか、指示を受けた誰かが途中で誤解か曲解をした?」


 ハニー・ビーはサジナルドに”さん”を付けるのをやめて言う。


「んー。サジナルドさんはそういう命令は出さないと思うなぁ。ただ単に、クロウグラスを集めるように言っただけだと思うよ?」


 実際、サジナルドは翔馬の言う通りの指示しか出して無い。しかし、彼はこの領のトップであるために実働隊に直接指示をすることはなく、何人かの人間が間に入る。そのため通過点で故意か過失かは分からないが指令がねじ曲がったか、あるいは、この男たちが勝手をしているかだ。


「お前ら、スチム伯爵に対して不敬だ」


 見たところ貴族でもなく、この国の人間とも見えないハニー・ビーらをギョッとした様に見た男が慌てて咎める。当の領主本人が不敬だと言うはずもなく、穏便にこの領地を出て行ってほしいと思っていることなど知らないのだから、仕方がないと言えば仕方がないだろう。


 本来、貴族は敬うものであるし領主となれば尚更だ。


「と、ともかく、そういう事でここのクロウグラスは徴収するからな」


 このまま構うと、どこでどう曲解されて不敬罪の連座を食らう事になるかもしれないと、彼らはハニー・ビーたちに相対するのをやめてクロウグラスを摘もうとするが、彼女にそれを許す気はさらさらない。


「んーん。クロウグラスは森や川べりにも自生してるって聞いた。ここじゃなくて、そっちで採集して」


「はぁ!?聞いてただろ!?領主さまからの指示だ!黙って従え!」


「あ、あの、ハニー・ビー様、領主さまからの指示でしたら、ここのハーブは持って行ってもらっても……」


「最初っからそう言えばいいんだよ!くそったれ」


 翔馬の説得もあり穏やかに男たちを撤収させたいと思ったハニー・ビーの言葉に居丈高になる侵入者、無断で庭に入り込んだ男たちに対して激昂したものの、領主からの指示ならやぶさかではないと譲歩するフォセカ父。無断侵入した自分たちが悪いのに悪態をつく侵入者。


 この状態でハニー・ビーが「そうですか、はい、どうぞ」となる訳もなく、しゃがみこんでハーブを摘もうとした男の襟首を掴み、背後へと放り投げた。


「……っ!?ああっ!?何だ、てめーはっ!逆らうのか!」


 自分に何が起きたのか分かっていない男はあたりをきょろきょろを見回したのち、自分をまっすぐに見ているハニー・ビーをねめつけた。


「ん」


 細身の少女に投げられたことが分かっていない男に逆らうのかと聞かれ、当然のように頷くハニー・ビー。


「…………」


 強面の自分が威嚇しても、つゆほどのたじろぎも見せぬ少女が少々不気味に感じるが、力自慢の荒くれ者の性質として、このまま済ませる訳にはいかないと、投げられた男だけではなく他の2人も腕まくりして臨戦態勢に入る。二人はハニー・ビーが大男を軽々と投げた場面を見ていたのだが、それでも引けない様子だ。


「あ、あの、ハニー・ビー様、本当にクロウグラスのことは構いませんから」


 ここで自分が加勢しても屈強な男三人相手では敵うべくもないと、フォセカの父がハニー・ビーを宥める。娘の恩人である魔女に怪我でもさせたら大変な事だ、しかも、自分の家に侵入してきた男とは本来関わり合うはずも無かったのにと、なんとかハニー・ビーに引いてほしい様子だ。


「大丈夫よ、お父さん。ハニー・ビーさん、凄く強いから」


「ん」


 魔女の強さを目の当たりにしたことのあるフォセカは悠然としているが、そう言われても父としては安心は出来ない。例え、彼女が男を片手で投げたのを目撃したとしてもだ。


 フォセカの父はオロオロとハニー・ビーと翔馬、そして侵入者たちに視線をうろつかせていた。


「ビーちゃんに”穏便”って難しいね……」


 呆れたように言う翔馬は、それでも気を取り直して男たちとハニー・ビーの間に入る。


「どっかで誤解が生まれてると思うので、サジナルドさんを呼んできて説明してもらいましょう。あ、こっちから屋敷に行った方が早いかな?」


「お……おい、ヤバくないか?」


「いや、こんなとこに領主さまの知り合いがいる訳ねーだろ。どうせ、遠くから顔を見たことがあるとか、その程度に決まってる」


「あー、いえいえ、俺たち今、領主さまのお屋敷でお世話になっ……」


「何を言ってやがるっ!てめーみてぇな口先モヤシ野郎はすっこんでろっ」


 翔馬の「領主を呼ぶ」「領主の館へ行く」がブラフか否かを判断する術はないが、自分たちの都合の良いように”はったり”だと思い込むことにしたらしい。

 問答無用とばかりに翔馬に襲い掛かる男。

 翔馬は掴みかかってきた男の右腕の手首を握り、自分の方に引くと足払いをかけて転がす。そのまま背中に手を捩じりあげて膝で男の背中を抑えた。


「おー、にーさん、凄い」


「へへー」


 ハニー・ビーに褒められてご満悦の翔馬である。


「これ、喧嘩かな?俺、初めて喧嘩したかも」


 城で戦闘訓練や剣術訓練は行っていたが、私闘の経験はない。平穏之大事と生きてきた男なので、喧嘩どころか軋轢が起こるような場面も翔馬は好かない。


 こういう時でも丸く収めようと動くことが常だった翔馬だが、粗暴な親や暴力振るった祖父母のことはだいぶ吹っ切れたようだ。


「初喧嘩・初勝利おめでとー」


 喧嘩というより正当防衛、あるいは無法者退治ではないかと思ったハニー・ビーだったが、翔馬が嬉しそうだったのでそれはどうでもいい事とした。


 治まらないのが侵入者たちである。


 聖女組が聞けばただ「無謀」と言われるだろうことに、残りの男二人は、ハニー・ビーを抑えて人質にしようと向かった。



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