66 鉱山の街ガラウェイ 6
翔馬が出かけた後、ハニー・ビーはフォセカやその弟妹達に説明されながらハーブをじっくりと観察し、また、家に戻ってお茶をご馳走になった。
乾燥させたクロウグラスを砕いて混ぜ込んだというハーブクッキーは、爽やかな酸味と優しい甘さでとても美味しいとハニー・ビーが褒める。
「ただいまー。ビーちゃん、サジナルドさんに伝えてきたよー。何が出来るか聞かれたけど、そう言えば聞いてなかったから知らないって言っておいた」
「おかえり、にーさん。薬に関しては、戻ったらサジナルドさんに説明するよ」
よその家で「ただいま」「おかえり」の挨拶をする二人。
平然と伯爵である領主さまを話題にする二人に、フォセカの両親は内心ハラハラしながらも笑顔のまま口をつぐんでいる。何を言っているのかも良く分かっていなかったし、分かったとしても自分たちが口を挟むような類の話題ではないと判断している。それだけ庶民と貴族の垣根は高いのだ。
「クラウドがめっちゃ喜んでた。ビーちゃんのおかげ」
「そりゃよかった。あの子、甘えん坊だよね」
「甘えん坊って言うのかな……?」
束縛系お馬様は甘えん坊という可愛いカテゴリには入らない気がする翔馬である。
そしてまた、今度は先ほどとは違うお茶を淹れてもらい、翔馬もクッキーに舌鼓を打ち和やかな時間を過ごして、もう昼になろうという頃に翔馬とハニー・ビーは暇を告げる。
昼食を用意すると言うフォセカの母や、もっと遊ぼうと強請る子供たちに「また、今度」と機会があるかどうかも分からない約束をしていると、突然、裏庭の方から怒号が聞こえてきた。
「あれ?お父さんの声よね?」
フォセカが立ち上がって部屋を出ようとしたので、ハニー・ビーも一緒に付いて行く。
何があったか分からないが、温厚そうなフォセカの父が怒鳴っているのだから、穏やかな事態ではない。
何があるか分からないからと、子供たちはフォセカの母と一緒に部屋で待つように指示し、荒事は苦手な翔馬も残そうとしたが
「ビーちゃんが強いのは知ってるけどさ、いちおう男手ってことで」
と言われ、15歳の少女二人相手では見た目で嵩にかかるものも出るだろうと同行した。
男手としては大工だけあって筋肉が付いた、いかつい見た目のフォセカ父もいるのだが、翔馬にも男の矜持があるのだ。
ハニー・ビーは肩をすくめただけで、それ以上は言わなかった。
翔馬は男の矜持以上に、ハニー・ビーがやらかす何かを心配しているのだとは伝えずに、魔女の後に付いて行く。
ここから去っていく自分とハニー・ビーはまだいい。しかし、この地に根を下ろしているこの一家の事を考えたら、揉め事はなるべく穏便に解決した方がいい。丸く収めることに関しては、ハニー・ビーより自分の方が適任だと翔馬は考える。
ビーちゃんは、手っ取り早くぶっ飛ばして終わりにしたがる性格だからね。
基本的に穏やかで親切なハニー・ビーだが、敵と認識した相手には容赦がない。そんな彼女を年長者としてフォローせねばと残念勇者は、そう考えるのであった。
「うちの庭を荒らしてどういうつもりだ!」
広くはない家なので、すぐに裏庭に到着した面々が騒動の現場を見ると、フォセカ父が屈強な男3人に対峙していた。
「……この真昼間から泥棒?強盗?」
ハニー・ビーのつぶやきが聞こえたのだろう、侵入者の一人が魔女をねめつけて威嚇するように顎をしゃくりあげてねめつける。もちろん、ハニー・ビーは毛一筋程の痛痒も感じないので平然としていた。
それが面白くないのか、相手が少女という事で侮ったか、その男はハニー・ビーに向かって来ようとした。
「あー、ハイハイ、ちょっと落ち着いて」
割って入ったのは翔馬だ。ハニー・ビーが戦闘態勢に入る前にとりあえず話は聞こう。そうしよう。そう思って両手の平を相手に見せ「敵意は無いですよー。武器も持ってませんよー」とアピールする。
「……にーさん?」
ハニー・ビーが少々イラついた声を出すが、翔馬も引くつもりは無い。
「ビーちゃん?俺らはいなくなるからいいけど、フォセカちゃんやその家族はずっとここにいるんだよ?住みにくくしちゃダメ」
翔馬の言葉に納得はする部分はあるものの、それなら全部ぶっ飛ばせばいいと思っているハニー・ビー。それが顔に出ているので翔馬が宥める。
「ダメな人たちをぶっ飛ばすのはいいけど、ご近所付き合いとかね、評判とかね、もうちょっと気にしよう。旅がらすの俺たちじゃなくて、フォセカちゃんたちがそれに向き合わなきゃならないんだから」
それは今までハニー・ビーが慮ることの無かったもので、翔馬が心を砕いてきたものだ。それが分かって、不承不承ながらハニー・ビーは頷いた。
しかし、翔馬がハニー・ビーを宥めて「ぶっ飛ばせばいい」と言われた側の男たちが穏やかならぬ気持ちになるのは当然である。ひょろひょろとした男とまだ成人前であろう少女がどうやって自分たちをぶっ飛ばすと言うのだ。
鉱夫である彼らは、もともと体格の良さがあってその職に就き、更に日々の採掘作業でますます筋肉が発達した力自慢たちである。
当然目の前の青年と少女二人など吹けば飛ぶような体格の三人に負けることは予測すらできない。
見た目で判断してはいけないという事を、彼らはこれから学ぶのである。




