65 鉱山の街ガラウェイ 5
「これはこれは、ようこそおいで下さった、魔女様、ショーマ様」
前触れもなくフォセカの家に訪れたハニー・ビーと翔馬だが、フォセカが二人を紹介すると驚きはしたが大歓迎を受けた。
その家は、フォセカの両親と、弟が二人と妹が二人、それにフォセカとラックで8人家族が暮らすには決して大きいとは言えないし新しくもないが、綺麗に整頓されて季節の花なども活けられている温かい家だった。
「フォセカを助けて下さってありがとうございました」
案内された居間で、テーブルに額がが付くほどに頭を下げたフォセカの父は大工で、母は縫い仕事をして家族を養っていると言う。
決して裕福ではないが、笑い声が溢れる良い家だ。
10歳だという双子の男の子と、7歳と5歳の女の子はハニー・ビーと翔馬の座っているソファの周りに陣取っている。召喚されたことは知らなくても、今まで見たことのない色合いに装束のハニー・ビーや服は普通の物でも、今をときめく聖女様の一人と同色の髪と瞳の翔馬に興味津々であれこれ話しかけてくる。
「こーら、お客様なんだからお行儀よくしなさい」
台所でお茶を淹れて戻ってきたフォセカがお姉さんの顔で弟妹に注意をすると、はーいといい返事はしたものの動く様子はない。感謝と尊敬と興味が入り混じった子供たちに、翔馬が「何、この可愛い生き物」と纏わりつかれるのも大歓迎の様子。小さな子たちにモテてご満悦だ。
「この子らもフォセカを助けて下さったお二人に、大変感謝しております」
ニコニコと微笑みながらフォセカの母が言う。
「やんちゃな子供達ですが、姉のことが大好きなんですよ」
それは、初めて見る二人にも良く分かった。
「私がこの子にお使いを頼んだばっかりに、人攫いに会う羽目になってしまって……。もう取り戻す手はないのかと、本当に悔やんでも悔やみきれないところでした。こんな家で満足なお礼も出来ませんが、宜しかったらどうぞお泊りになっていってください」
「あ、いえ、俺たちは領主さまのところでお世話になっていますので、お気持ちだけ有難くいただきます」
「え?」
「領主さま?……って、スチム伯爵さま?伯爵さまのお屋敷でお泊り……ですか?」
年若い、恐らく外国の人間であろう二人がどのような縁で伯爵家に世話になるのか想像もつかないフォセカの両親が顔を見合わせて首をひねった。
「ハニー・ビーさんもショーマさんも、王都のお城で暮らしていたんだよ?」
フォセカは、ハニー・ビーが雲上人のようなお偉い貴族に対して上から話していたことを知っているので、そう驚かない。
「ん。成り行きで」
簡潔に応えるハニー・ビーの言葉を聞いて、王城に住んだり伯爵家の屋敷に滞在する成り行きっていったいどんなものなんだろうと、生粋の庶民であるフォセカの両親は思ったが、お貴族様関連のことに首を突っ込んでもいい事はないと、それ以上の追及はしなかった。
ハニー・ビー目から見て、この家族は良い家族であることとフォセカの心身に異常がなさそうな事、ラックと名付けられた幼子がいい変化を見せていることに安心して、長居はせずに帰ろうとお茶を飲んだ。
「フォセカ、このハーブティは」
一口飲んで目を丸くしたハニー・ビーがフォセカに尋ねる。
「あ、お口に合いませんでしたか?ハニー・ビーさん、茶道楽だって言ってましたもんね。自家製ハーブティーじゃ……」
「んーん、美味しい。味に文句があるんじゃない。自家製?」
「え?ええ。庭で育てているハーブから作ってます」
「それ、見せてもらえる?」
「もちろんです。――ね、お母さん?」
ハーブは母親の管轄なのだろう。フォセカは頷いてから母親に確認を取る。母も否やはなく、お茶を飲んだ後にフォセカに案内してもらって、裏庭のハーブ畑へ足を進めるハニー・ビーと、その後を付いて行く翔馬、さらにフォセカの弟妹もぞろぞろとついて行った。
裏庭はそう広くもなく、畑も小さなものだった。
しかし、手入れが行き届いており、ハーブや野菜が状態良く植えられている。地植えしているものもあればプランターや鉢に植えられているものもある。食用ではない花々も庭を彩っていた。
「おお!やっぱり、これ!」
ハニー・ビーは庭の一角へ進み、地植えされているハーブの前でしゃがみこんだ。
「ビーちゃん、それ、珍しいものなの?俺、植物系の素養が全然なくて、花ならまだしも草は全然分かんないんだけど」
「いえ、ショーマさん、これは別に珍しくもないですし、育てやすいのでこの街のどこでも見かけます。お料理にも使えるし、お茶にしたりパンやお菓子に混ぜたりもします」
「ほー。これ、いっぱいあるんだね?」
「ええ、ハニー・ビーさん、クロウグラスに何か問題でも?」
ハニー・ビーが見ている草は、クロウグラスとこの辺りで呼ばれている、艶々とした黒みがかった赤い葉をもつハーブである。
フォセカが言うように、この辺りでは珍しくもないもので、植えている家庭も多いが少し外れた森や川辺に自生もしている。甘酸っぱい香りが特徴で艶のある黒みがカラスの羽のようだと名付けられたものだ。
「ん。これ、サジナルドさんが喜ぶ、かも?間違いなくガーラントは喜ぶ。ねー、にーさん。サジナルドさんに、明日の調薬指導の時にこれを使いたいから集めておいてって言いに行ってもらえないかな?」
「ん?俺?いいけど、ビーちゃんの方がちゃんと説明できるんじゃない?」
「あたしは、ここでハーブをもう少し見せてもらいたい。にーさんを待たせてあたしが行くとしたら、クラウドがまた拗ねるよ?」
確かに、ハニー・ビーがライと出かけて翔馬がここに残っている場合、クラウドはなぜ自分は翔馬と出かけられないんだと、またへそを曲げるだろう。
「……ウン、ソウダネ。えーと、クロウグラスってのを用意してもらえばいいんだ?どの位?」
「金石英1に対し、クロウグラス5くらいかな」
「オッケー、じゃ、行ってくる」
翔馬がクラウドに屋敷まで戻るよと声を掛けたとき、ライは居残りだと知った束縛系お馬様は歯をむいて喜んだ。




