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62 鉱山の街ガラウェイ 2

 ハニー・ビーも翔馬も、そしてサジナルドも探られて痛い腹がある訳でない。


 だが、サジナルドはこの二人に裏があると思っているし、二人はどう思われたとしても、用が済めばこの地を出て行くのだから関係ないと思っている。


「ハニー・ビー嬢は、鉱山で何を?」


 先ず、サジナルドは”表向きの要件”であろう鉱山の事を聞いてみた。


「ん。ここの鉱山で金石英が取れるよね?」


「え?ああ、はい。主に金・銀・鉄の採掘を行っていますが、石英もありますね」


「その中でも金石英ってのが欲しい。あたしがいた所では石英に金色のは無かったし」


「石の知識はあんまないけど、俺がいたとこでも、たぶん無かったような気がする」


 城で見た文献の中にあった金石英にハニー・ビーは興味を持った。石英の中には薬の材料となるものがあるが、元の世界には無かった金石英を使って何か作れはしないだろうかと考えている。


 これはハニー・ビーの単なる知識欲・研究欲であり、何か有益なものが出来たとしてもそれを使って何かしようとは考えていない。役に立つものが出来たらガーラント辺りに教えてやってもいいが、それも気が向いたら程度であまり積極的な考えではなかった。


 知らないものがあるから知りたい。


 ただ、それだけである。


「石英は加工が難しいが通常よりも高純度のガラスが作れます。珍しいものでもなくあまり需要は大きくないので融通することは可能ですが、どうなさるんですか?」


「ん。調薬の材料にならないかと思って。なるかどうかは見てみないと分かんないけど」


「薬!?ガラスの材料ですよ!?」


 サジナルドが驚いて聞くがハニー・ビーは平然としたものである。


「ビーちゃんは凄い魔女だから!」


 翔馬が何故か胸を張って威張るのを見て、ハニー・ビーは首を傾げた。


「いやいや、凄い魔女じゃなくても、薬師でも普通に鎮静・鎮咳の薬として使ってるから。あたしがいたとこでは」


「それは、どのような石英でも使えますか?」


 驚愕から立ち直ったサジナルドが、この知識はいままで有用でなかった石英の新しい使い道であること、薬が作れるのなら特産となり一層この領地を発展させることが出来るのではないかと意気込む。


「紫石英ってのが薬になる。金石英は見たことないから分かんない」


 紫石英も採れるのだろう。サジナルドがにっこりと笑って力強く頷いた。石英なら需要の無さから放置されたものが山ほどある。不用品が薬となるのなら、是非ともその知識を得たい。


 まだ、彼らに対する懸念は晴れていないが実利優先である。


「金石英を必要なだけ融通いたしましょう。そのかわり、紫石英を使った薬の作り方をご教授頂きたい」


「ん。いいよ」


 物でも知識でも何かを得ようとするなら対価を払うのは当然だ。ハニー・ビーの信念としてただ貰うというのはしたくない。先方が欲しがるものを差し出せるのなら、双方得だ。


 あっさりとハニー・ビーが頷いたのを納得できなかったのはサジナルドの方である。


「良いのですか?こちらとしては大変ありがたい話ですが、受ける利が大きすぎとかと」


「んーん。お互いに欲しいものがあって交換できるならそれでいいし」


 ハニー・ビーが対価として差し出す知識は、この世界には無いものかもしれないが元の世界では一般的な事で門外不出の情報などではないので問題ない。

 それでも納得できない様子のサジナルドにハニー・ビーは提案する。


「なら、このお茶の茶葉を頂戴?王様から貰ったやつより、こっちの方が美味しい」


 茶道楽な上に、この世界での地位や財産を必要としていないハニー・ビーならでの提案であった。


「王様……といいますと」


「ランティス国の国王陛下ですよ。ビーちゃんは陛下の頼み事にも茶葉を要求してましたから」


 魔導長官ガーラントだけでも庶民には縁がなかろうと思っていたのに、ここにきて国王陛下の話まで持ち出されてはサジナルドの理解できる範疇を超える。


 伯爵位を持ち、国の財である鉱山を管理しているサジナルドは、当然、国王と面識はあるし目をかけてもらっているとも思っている。


 忠誠を誓っているし、瘴気騒ぎも治める賢王であると尊敬もしている。


 ――実際に瘴気を鎮めたのは聖女で、その聖女を召喚したのはガーラントなのだが、聖女のことはともかくガーラントの行為は秘匿されているので、サジナルドは知らなかった。


 その国王がこの少女に頼み事?対価に茶葉?訳が分からない。サジナルドは血の気が引いていく自分自身を、どこか遠くで眺めているような錯覚に陥った。


「茶葉だけじゃないよ?城の本、読み放題。だから、ここに金石英があるのも知ってた」


「ビーちゃんは本とお茶があれば幸せなんだもんねー」


「ん」


「……」


 この二人から虚偽の匂いは感じられない。


 伊達に貴族社会で長きにわたって泳いでいた訳ではない。有能さを買われガラウェイを任されているという自負もある。


 今までの経験から、この二人は真実――あるいは本人たちが真実だと思っていることを語っているとサジナルドは判断する。


 それが事実なのか、彼らの中だけにある真実なのかを判断する材料は無いが……。


 サジナルドは、二人に部屋を用意しておくからガラウェイにいる間は滞在してほしいと言い残し、部屋を出た。


 先ずは、事実確認だ。


 執務室に戻って手紙を書いたサジナルドは、王都との通信用に使っている鳥の足についている通信筒にそれを、入れ空に放った。


 聞き流してしまったが、魔女とは一体……そう思うサジナルドは、この世界の人間らしく「子供が読む絵本にあるそら事でもあるまいし」と考える。


 翌日に来た通信の返信を見て恐れおののいたが、本日のところは、まだ平穏でいられたサジナルドであった。



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