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60 お馬さんにこんにちは 5

「馬具って町で売ってるよね?」


 裸馬に乗る自信のない翔馬がハニー・ビーに尋ねた。


「馬具、あるよ?」


 そもそも馬のスカウトに来たのだ。馬具の準備はあるとハニー・ビーが言って収納空間から馬具一式を二組取り出した。


「いつ買ったの?」


 驚いて翔馬が聞けば、元の世界で作った物だと言う。


「自作の方が使い勝手がいいし、出先で馬や馬型の魔獣を調達することも多いから持ち歩いてる」


 大概、その場限りでお別れするが、たまに懐いてついてくる馬や魔獣もいるという。そのため、ハニー・ビーの師匠の家は動物や魔獣が暮らせるように整備されているとか。


「鞍とか鐙とか作れんだ?凄いねー、ビーちゃん」


「ん。師匠が言うんだ。無人島に身一つで辿り着いても生きていけるように、ありとあらゆることを学びなさいって。あたしが、そんな時は転移で帰るって言ったら頭を叩かれたよ。で、食糧の調達とか採取したもので衣類を作るとか、鍛冶やら木工やら彫金やらそれ魔女の仕事?ってのも一人で出来るように色々と仕込まれた」


 確かに、ハニー・ビーは転移魔法が使えるのだから、無人島に辿り着いたらその場で家に転移を使って帰宅するだろう。そもそも、転移魔法が使える彼女が無人島に漂着するシチュエーションも考えられない。


「徹底した師匠さんだね」

「ん。あたしが魔女の道しかしらないと選択肢がゼロになるから、何かしたいことが見つかるようにって広く見識を広げろって。その中で興味を持つものがあったら深く知ればいいって」


 結局、魔女の道を選んだけどねー。ハニー・ビーは胸を張って言った。


 研究材料としてこの世に生を受け、実験や治験などに使われてきた少女に世界が広い事を教えてくれたのが師匠だ。その師匠の下で魔女の道を選んだことは彼女の誇りであり、彼女を彼女たらしめる核であった。


 お喋りをしながらライとクラウドに馬具を付ける。二頭とも付けられるときは嫌そうに身じろぎしていたが、装着がおわるとそれほど気に障らないらしく大人しくなった。ちなみに蹄鉄は無い。


 ハニー・ビーが自分用に作った馬具は翔馬にはサイズが合わないので、魔女はその場で調整をした。そして、自作の盗難防止と攻撃無効の効果がある魔道具を首にかける。


 ランティスの治安が良いとはいえ、狂騒一味がいたように悪い人間がいない訳ではない。それはどこの世界に行っても同じだろう。ハニー・ビーのいた世界だとて不心得なものは幾らでもいたから、こうして魔道具を作っているのだ。


 クラウドに翔馬が騎乗して乗り心地を確かめ、問題ないという事で二人と二頭はこの地を後にする。ツンツンだったクラウドも、ハニー・ビーべったりのライ以外に同族がいないという事で、心持ち穏やかになったようで足取りも軽く、翔馬を背にしていることが嬉しそうだ。


 序列一位と二位が揃って出て行ってしまうが、残る馬たちに不安の色はなくこぞって見送ってくれた。天敵の大型肉食獣は狩りに来るものがいるせいか森の奥にしかいないため、この草原にいる限り危険はそれ程ないので、群れのリーダーもそれほど必要不可欠な存在ではない。


 集団で生活するにあたり、どうしても序列は必要でありリーダーも要るのだが、その地位も入れ替わっていくものなので、今後は序列三位の馬がリーダーとなるだろう。



 ふもとの町から二時間かけてきた道のりも、馬がいれば並足で進んだとしても一時間少々で到着する。翔馬が野生馬に乗るのは初めてなのでゆっくり行こうとハニー・ビーは言ったが、クラウドとの相性も良かったらしく、だんだんと速足になって一時間かからずに町に戻ることが出来た。


「あらまぁ。ホントにウマ捕まえてきたんだねぇ」


 宿屋の前で馬から降りた二人を見た女将が驚きの声をあげた。


 厩の都合もあり、野生馬をスカウトに行くことは宿の人間には伝えていたが、短時間であっさりと捉え、しかも騎乗してきた二人を目を丸くしてみている。


「ん。こっちの黒鹿毛がライ、あっちの白馬がクラウド。世話は自分たちでするから、厩だけ借りるね?」

 そう言って、スタスタと事前にチェックしていた厩に向かうハニー・ビーを、翔馬が追いかける。


 まず、ハニー・ビーはライの馬具を外した。そのあと収納から出した桶に、魔法を使って出した水を満たしてやる。それほど汗をかいてはいないが、ブラシで丹念に全身をこすってから、濡らしたタオルでこれまた全身を拭く。翔馬は城で馬の世話の仕方を教わってはいたが、ハニー・ビーの世話の仕方を見ながら、後追いで同じようにクラウドの世話をした。


 二頭とも気持ちよさげに鼻を伸ばしている。


「ん。綺麗」

「だね。美人さんの美人度が上がった」


 二人はそれぞれ自分の馬を撫でて褒める。


「牡馬だけど、やっぱり”美人さん”なんだ?」

「男でも女でも美人は美人でしょ?」

「確かに、クラウドは美人だね」


 クラウドを褒めるハニー・ビーに、それは宜しくないとばかりにライが鼻面を擦り付けた。妬心をあからさまにするライに、ライは美人じゃなくて格好いいよとハニー・ビーが宥める。


「確かに、ライは格好イイ」


 今度はクラウドがやきもちを焼いて、翔馬の髪を食む。


「クラウド!それはダメ!」


 長い友達でいる予定の髪の危機に翔馬が慌ててクラウドを褒める。


 どちらもパートナーに好かれているようで、喜ばしい事である。


 ハニー・ビーが用意した、青草と干し草に燕麦を混ぜたものにかるく塩を振って出された飼葉を二頭は大喜びで食べ宿へ戻る姿を見送った。


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