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58 お馬さんにこんにちは 3

 白馬がようやく髪を離してくれたとホッとして振り返ると、栗毛の馬の姿はもう無かった。


「また、フラれた……、美人さんが邪魔するから……」


 恨み言を言おうとして振り返ると、白馬の姿も無い。


「…………美人さんは何がしたかったんだ」


 嘆く翔馬に答えるものはいない。


 ハニー・ビーは黒鹿毛とすっかり仲良くなったようで、今はその背に乗せてもらっている。並足から速足、駈足と互いの呼吸を合わせながら走る姿は、靡く赤い髪も相まって一幅の絵画のようだ。


「あ、あの子、しっぽが金色だ」


 正面から見ているときは分からなかったが、黒鹿毛の尾は金色だった。初めて見るその色の組み合わせに、翔馬は目を奪われた。ほぼ黒に近い体色と、ほんの少し赤みがかった前髪とたてがみ、黄金色に輝く尾の対比が美しい。


「にしても、ビーちゃんって裸馬に乗れるんだ……」


 鞍も手綱も無い状態で走らせることも、鐙も無いのに馬の背に乗れることも翔馬にとっては驚きだ。

 ハニー・ビーは野生馬どころか魔馬も手懐けて乗りこなすと知ったら、馬具を必要としない姿を見た時の驚きの比ではないだろう。


「よしっ、俺も頑張ろう」


 翔馬に馬具無しで乗りこなす自信は今のところないが、先ずはパートナー探しである。


 しかし、彼がコミュニケーションを取れる馬を見つけるたびに、白馬が邪魔をしに来るのだ。

 栗毛の馬の時のように髪を食んだり、すぐ隣で地面を蹴るように前足を振りだしたり、後ろ足で立ち上がって威嚇したりと、どう考えても翔馬にパートナーを見つけさせる気が無いとしか思えない。


「美人さん……、美人さんは俺が他の子と一緒に居るのが嫌なんだよ……ね?」


 他の馬を追い払っては自分も去っていく白馬を、どうにか自分のところに留めて話しかければ、ブヒィンと啼く。会話はできないが、翔馬はその声をYesと捉えた。


「じゃ、何で俺のとこから去ってくの?追いかけっこは無理だよ?流石に勇者補正があっても、馬と競争できないしさ。美人さんは追いかけられたいタイプなのかな……。ツンデレは二次元にて有効でリアルツンデレは面倒くさいって聞いたことあるけど、それどころか美人さんはデレの無いツンツンだしな。あんま、好かれている気がしないんだけど、他の子を追い払う位には気にしてくれてるみたいだし」


 翔馬には理解不能だ。

 ハニー・ビーなら分かるだろうかと見れば、相変わらず黒鹿毛とデート中である。この短時間に駈足からギャロップにまで進んでいるところを見ると、相性はバッチリのようだ。


 いいなぁ……。


 これは彼女の持つ言語翻訳のスキルの力だけではないだろう。たとえそれが無くても彼女はきっと好かれる。


 人間相手には忖度やら地位や身分の序列による対応やらがあるが、動物にはそれが無い。


 自分より上か下か、好ましいか否か。ただそれだけである。


 上下は身分ではなく個人が持つ力で、ハニー・ビーにはそれだけの実力があるという事だ。……俺には無いけどね。翔馬は自嘲するが、本人も知らないことに彼もかなり馬に好かれている。


 ツンツン白馬がこの生息地にいる野生馬の中で序列が二位であることを、翔馬は知らない。ちなみに一位はハニー・ビーを背にしている黒鹿毛である。トップが迎え入れた人間の連れに対し、馬たちはすっかり警戒心を解いている。


 序列二位の白馬がちょっかいを出して去っていったあの人間は、それなりに”面白そうな”人間であろうと、他の馬も興味を魅かれる。


 ならばと近づいてみれば、白馬が邪魔をする。

 かと思えば離れ、また他の馬が近づけば威嚇する。


 数度の繰り返しの後、白馬をよく知っている他の馬たちは理解した。


 天邪鬼でへそ曲がりで屈折している彼なりの”お気に入り”への行動だと。ちょっかいを出してはプイとそっぽを向く、ひねくれものらしい感情表現なのだ。


 ツンデレからデレを抜いたツンツンだと思った翔馬の感想は、白馬の性格を推し当てていたのである。


 翔馬は美人さんと呼んでいるが、白馬は牡馬である。一見優しげに見えるし、体躯は大きくても優雅であるし、人の目から見たら牝馬と思い込むかもしれない。


 ちなみに黒鹿毛も牡馬であるが、こちらは至って素直な性格で飾り気無く愛情に応えるタイプだ。そのあたりもハニー・ビーと相性がいいと言えるだろう。


 このツンツン白馬と翔馬とのやりとりは、他の馬たちが白馬の行動を理解したために終息した。

 どうせ、自分たちがあの人間にちょっかいを出しに行っても白馬が邪魔をするから意味はないと、近寄らなくなったのである。


 馬たちが自分のところへ寄ってこないばかりか、此方を気にする様子すらなくなったことに凹んだ翔馬は、座り込んで膝を抱えがっくりと項垂れた。勇者補正と言ったって、馬の一頭も確保できない。最終的にはハニー・ビーの故郷へ帰る旅の初手はこの世界を見て回ること。その手段として馬での移動と決まっているのに、こんな出立前に頓挫するなんて……と、地にめり込みそうになるほどに落ち込んだ。


 考えてみれば、彼女に俺を連れて行くメリットないんだよなぁ……。

 同情してくれただけ。


 獣人がいる世界で冒険者ギルドもあると言う、それこそラノベの定番世界へ行ける喜びで一杯だったけど、はっきりいって、今の俺ってお荷物以外の何物でもない。


 通訳をハニー・ビーに頼もうと思ってたけど、やっぱりやめよう。


 自力で馬を捕えることが出来ないなら、金で贖おう。


 幸い、聖女たちの護衛という名目で謝礼金を貰っているから、馬の一頭くらい買えるだろう。ここの金を後生大事にしていたって、ビーちゃんの故郷にいったら使えないんだし、この世界で使い切らないと勿体ない。


 根が貧乏性な翔馬がそう考えたとき、また、髪を引っ張られる。


 美人さん……何で俺の髪が好きかね?




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