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57 お馬さんにこんにちは 2

 翔馬が近づいていっても、白い馬は逃げようとはしない。

 これは良い感触かも?と、翔馬はドキドキしつつ更に近寄る。


「こんにちは」


 とりあえず挨拶だと、翔馬は馬に声を掛けた。


 白馬がフレーメン反応を返してきたのを見て、これはいけると意気揚々となる翔馬。

 目を逸らさないので、おそらく人間に対して忌避感は持っていない。翔馬は真っすぐ白馬の目を見つめたままに言う。


「美人さんだね。俺、如月翔馬です。あっちにいるハニー・ビーちゃんと一緒に旅をするんだ。そのために、一緒に来てくれる子をスカウトに来ました。美人さんがもしよかったら、俺と一緒に旅をしてくれないかな?」


 翔馬はハニー・ビーを指さした。そこには黒鹿毛の馬に寄り添って鼻先に腕をのばして自分の匂いを嗅がせているハニー・ビーがいた。短時間で随分と仲良くなったようだ。


「無理はさせないし、ご飯はしっかり準備するし、美人さんの美人度が損なわれないよう、ちゃんとお世話もさせてもらう。あと、美人さんからの要望があれば、俺に出来る範囲で善処する」


 今のところ、翔馬の残念感は出ていないし、礼儀正しく白馬に話しかけている。名前が無いための仮とは言え「美人さん」呼びはどうかと思うが。


 ハニー・ビーが言うような「会話」は今のところ出来ていない。これは翔馬にその能力が無いのか、白馬にその気がないのかは今のところ分からない。


 馬との会話といっても、人と同じように言葉を話せるわけではないのだから、どうした良いのだろうか、ヒヒーンとでもいうのか?翔馬はとりあえず人の言葉で話を続ける。


「初めましての状況で、お互いのことを何もわかっていないのにこんな事を言われても困るよね?でもさ、一緒に居てこれから知っていくっていう関係もありだと思うんだ。少なくとも俺は美人さんの事をもっと知りたいと思う」


 どう考えても人間の女性に対するナンパである。


「美人さんが俺の事を嫌だと思うんだったら仕方ないけど、嫌いじゃなかったらチャンスをくれない?好きになってもらえるように努力する。美人さん、多少は俺に興味を持ってくれたよね?ここに来て初めて俺に興味を持ってくれた美人さんとの出逢いは、運命だと思うんだ」


 普段とは違う方向に残念度が現れている翔馬。希が聞いたら「キモっ」と一刀両断されそうな、自信がある男にありがちの口説き文句――対人間女性用――だ。好感度がある程度高ければ「運命的な出会い」もいいかもしれないが、その辺りは不明であるし、なにせ相手は馬である。


 もちろん「運命」は色恋だけに限った話ではないが。


「美人さんと旅が出来たら嬉しい。どうか、俺と一緒に来てくれませんか?」


 そう言って翔馬が頭を下げると、白馬は後ろ足で立ち上がり大きないななきをあげた。


 驚いて頭を上げた翔馬に、歯をむき出してさらにいななく白馬。


 笑っているように見えるが、これはフレーメン反応。匂いに反応しているだけ。なのに、なんでこんなに馬鹿にされているような気分になるんだろう。笑うというより嗤っているように感じるのは俺の思い過ごしか!?


 翔馬は口を尖らせて首を傾げる。


「え!?あ、美人さん!」


 気が付けば、翔馬が美人さんと呼ぶ白馬が軽やかな駈足で彼の下から離れて行ってしまっていた。


「……フラれた」


 良い感触を得られているとばかり思っていたのに、白馬は彼を認めてくれはしなかったらしい。


「よし、ナンパは諦めない事が大事!次の子にいってみよー」


 白馬に気を魅かれながらも、翔馬は次はどの子にしようかとあたりを見回した。すると、栗毛の子と目が合う。体躯はハニー・ビーの下にいる黒鹿毛よりも二回り、白馬よりも一回り小さい。翔馬は太っている訳ではないが、この半年で筋肉も付き、体重が以前よりも重くなっている。


 小柄な子だと可哀想かも。


 翔馬は心配するが、この地にいる野生馬は日本の在来馬よりもかなり大きく、翔馬程度の体重ではびくともしないのだが、知らない彼にしてみれば小さな子よりも大きな子の方が負担は少ないだろうと考える。


 大きい子がいいな。そう翔馬が思っていたのに、栗毛の馬が興味津々といった態で彼の下に近づいてきた。


「ここの馬、野生馬なのに随分と懐っこいな。攫われちゃうから、もっと警戒心を持たないと」


 自分もスカウトに来たくせに、それは棚上げして翔馬が栗毛の馬に言う。


「俺の事を気にしてくれたのは嬉しいけど、栗毛ちゃんはちょっと小柄だからなぁ……」


 首を傾げる翔馬の匂いを嗅ぎ始める栗毛の馬。そうされてみれば翔馬も嬉しいし、近くで見れば、あの二頭程ではないにしてもやはり馬なので大きく感じる。この子が大丈夫なら……そう思っていると、とつぜん背後から髪を引っ張られ、心臓が止まりそうになった。


 ビックリし過ぎると悲鳴も出ないんだ……。恐る恐る背後を見てみれば、先ほど走り去ったばかりの白馬が翔馬の髪を食んでいる。


「美人さん……なにしてんの?」


 問いかければ荒い鼻息で返事をされる。


 むしゃむしゃと髪を食む白馬に、我に返った翔馬が慌てる。


「だめっ!髪は長い友達なんだよ!でも、じーさんはツルツルでばーさんは薄毛で、俺は自分の将来を悲観している!父親は若死にだからふさふさのままだったけど、俺も今はまだふさふさだけど、この先もずっと友達でいたい髪が、俺の傍にいてくれるかどうか不安で不安で……。だからー、引っ張らない!髪を引っ張られたら、痛くなくても泣くぞ!母方の家系がどうだったか分からないけど、父方の家系は知っている範囲じゃ、そりゃもう、悲惨な頭頂部のそろい踏みで――だーかーらっ、髪を引っ張らない!!」


 来るべき未来に髪は存在するのか……心の奥底に仕舞い込んでいた憂いが白馬の悪行で浮かび上がってきてしまい、本当に泣きそうな翔馬であった。






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