53 暇乞い
「にーさん、随分とガーラントと仲良くなったんだね?」
追いすがるガーラントを翔馬が宥めすかし、ようやく魔導省を出られた。翔馬はぐったりとしているが、ハニー・ビーはそれに関知しない。
「仲良くは……なったけど、なんか違う……」
「ガーラント、今の様子が外に広まったら結婚できないかも?」
「オレノセイジャナイ……」
「まー、人のうわさも四十九日っていうし、そのうちに落ち着くでしょ」
しかし、人の不幸は蜜の味ともいう。
「ビーちゃん、それ、違う。人のうわさも七十五日」
翔馬が呆れたように言い、あれ?と違和感を覚えた。そして、これと同じ違和感が以前にもあったと思い出す。
「ビーちゃん、いまのって、ビーちゃんの世界では一般的な言い回し?」
「ん?人のうわさも――ってやつ?ん、多分」
そう言ってから少し考えて
「あたしの常識は師匠から習い覚えたもんだけど、師匠がどこの出身かは知らないから、もしかしたら違う国の言い回し、かも?」
と、言い足した。
「そっか」
翔馬はそこで追及をやめる。ハニー・ビーに聞いても答えが得られるとは思えなかったからだ。
◇◇◇
「城を出るか、魔女殿、勇者殿」
国王との面会も問題なく出来た。アポイントどころか先触れも無しでいきなり行ったのに会う事が出来たのは、この国の緩い警戒心のせいか、面会を求めたのが被召喚者の二人だったからかは分からない。
「そ。聖女様のお披露目も済んだから、もう、いいでしょ?」
これでもう召喚についての箝口令は不要だろうという含みを持たせてハニー・ビーは言った。
それについて王は答えず、どこへ向かうのかとか必要な物は無いかと尋ねるが、二人とも当てもなくあちこちを見て回るつもりであること、必要な物は特にない事を伝える。瘴気浄化の度に聖女に同行していた二人は、その都度、結構な額の報奨金を与えられていた。
そしてその金は城にいる間は使いどころもなく、ただ貯まっていったので双方ともに小金持ちである。
「勇者殿、最終目的地は魔女殿と一緒だと考えて良いのか?」
この国で唯一ハニー・ビーが故郷へ帰れることを知っている国王は、翔馬がそこまで付いて行くのかと聞く。
確かに、口外されたくはない事情があって城に留めたが、ガーラントが召喚した彼を粗雑に扱うつもりは無かったし、城を厭うとしてもこの国で暮らせるように取り計らうつもりでいた王は、それなりに責任を感じていたし、翔馬を気に入ってもいたのだ。
「あ、はい。ビーちゃんに付いて行きます」
プロポーズもされたし……とまで言うと、ハニー・ビーの機嫌か降下するので、そのつぶやきは心の中だけにしておく。なのに王が「ほう、魔女殿が勇者殿に求婚したというのは誠であったか」などと余計な事を言った。
翔馬がそれを口にしたのは、昨夜、被召喚者メンバーしかいなかった部屋の中と、先ほどガーラントへ挨拶に行く途中の回廊での会話の二回のみ。影警護はついていたが、情報が伝わるのが早すぎる。
王の耳はとてつもなく長いとハニー・ビーは思い、ま、そうでなくちゃ王様商売はやっていられないのだろうと考えた。
翔馬が予想したような魔女の機嫌の降下もなく、当たり障りのない別れの挨拶をし、最後にハニー・ビーがにっこりと笑って言う。
「あたしの目は、あたしがどこにいてもここに届く。ばーちゃんやねーさんたちに何かあれば、あの三人も連れて行くから、それ、よーく含んでおいて?」
「……心しよう」
王はもちろん、浄化が終わっても聖女たちをお払い箱にするつもりは無い。が、前回の聖女召喚では聖女の望みか国の意向か、当時の王の第三妃となっている。これが聖女の望みであった場合は問題ない。しかし、もしそれが国の都合で縛り付けたものであったら、そして此度の聖女たちにそれを強制したら――魔女は聖女側に付き、彼女たちの自由を勝ち取るだろう。
そうなったとしても、国としては幾らでもいいわけは立つが好ましい事ではない。
王としての立場もあるが、最大限聖女たちの意思を尊重することを、王は魔女に誓った。
「勇者殿、魔女殿、召喚にて我が国の魔導士が迷惑をかけた。王として詫びよう。この国には二人の居場所がある。魔女殿に必要はないかもしれんが、勇者殿、いつなりとお戻りいただきたい。そなたらの行く手に幸多かれ」
「……ありがとうございます、陛下」
最初に会った時は、ガーラントの伯父という私人として詫びた。今回は王として詫びた。
魔女は「国としての表明は聖女の力を見てからだもんなー、都合いいよなー」と思ったが、翔馬は真摯な言葉に自然と頭が下がり、心から礼を言った。
その後、この城での知り合いに挨拶するためにあちこち回り、これでいいだろうとなった時にはもう夕暮れ。被召喚組が一堂に会する最後の機会となる晩餐の時間になった。




