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51 魔女は城を出る予定を告げる

 ――ソロソロ、オイトマスルネ?


 日本人組は、最初、言葉の意味を掴みかねて首を傾げた。


「今日はもう部屋に戻るってこと?」

「んーん。そろそろ城から出ようかと」


 希が聞くと、ハニー・ビーはあっけらかんと衝撃的な言葉を返した。


「えーっ!?」

「な、なんで!?」

「ビーちゃん、どこ行く気だい?」

「え……ハニー・ビーさん……」


 青天の霹靂とはこのことか。

 日本人組が、藪から棒のハニー・ビーの言葉に驚き彼女を取り囲んだので、ハニー・ビーのほうこそビックリである。


「え、だって、あたし、ココにいてもする事ないし?せっかく来た別世界だから、色々と見て回りたいと思って。っていうか、召喚された時からそう言ってんだけど、みんなどうしたの?」


 そう、ハニー・ビーは最初から「ちょっとこの世界を見て回る」と宣言していたのだ。

 グリージョ一味――狂騒との揉め事が無ければ、とうにそれを果たして今頃は本来の世界に戻っていたかもしれない。揉め事が片付いたと思えば、国王の口八丁のせいで聖女の浄化行脚の付き添いをする事となり、結果、未だに城にいる。


「でも、国王陛下が聖女の護衛にって、ビーちゃんもOKしたっしょ?」

「対価はもう受け取ってるし、護衛役もやったよ?それに、あれ、方便でしょ?」

「方便?」


 確かにこの国は瘴気のせいで危うい状況にあった。状況だけ聞けば国は荒廃の一途をたどり、臣民は窮して自暴自棄になっている、滅亡への道筋を辿っているのではないかと想像するに余りある。


 最初に城から出たときに、国難に瀕しているという割に治安もよく、街の人々の表情は暗いものではないとハニー・ビーは感じた。


 その時は、ここが王都で城に近いから被害が無いのだろうと思ったが、聖女の護衛としてあちこちの町や村に赴いたときも、疲弊しているどころかパワフルで、未来を憂いている様子は見えなかった。もちろん、状況は決してよいものではなかったが、それでも希望は失っていない人々は暴徒になる恐れも少ない。


 諸外国との関係も悪くはない。戦が起きる気配もないとガーラントは言っていた。


 この状況で、なぜ、魔女クラスの護衛が必要だ?


 考えてみたとき、ああ、国王は聖女召喚を知るものを外に出したくないんだな――と、ハニー・ビーは推測した。

 あの時はまだ、聖女の力も未知数で今後の予測を立てるに至らない状況だった。聖女どころか魔女や勇者を召喚したと臣民や他国に知れたときに、どういう反応が出るかも分からない。


 故に、秘密裏に聖女の力を試し、その成果が確定するまで、魔女と勇者には留まって欲しかったのだろう。護衛だの随行だのは、留めるための誤魔化しというわけだ。


 しかし、これは翔馬に言う必要も無いだろう。


「ん。聖女様の護衛ってのは、ま、形だけのモンで要は優秀な魔女のあたしを手の内に入れたかったんじゃない?」


「ビーちゃん、相変わらず凄い自信……そのポジティブさ、見習おう。――って、出来るかなぁ」


 翔馬が感心したような呆れたような口調で言う。彼もある意味ポジティブな男だが、魔女のような自己肯定型ではない。これは見習おうと思って出来るものではないだろうと思いつつ、そうあればいいという願望だ。


「えー、ビーちゃんが城出ちゃったら寂しいよー」

 希が口を尖らせて言う。

「寂しがってくれてありがと、ねーさん。また、いつか会えるよ」


「いつ出てくんだい?」

「んー。すぐにでも……と思うけど、いちおう、王様には出て行くこと言っといた方がいいよね?」


 たとえ方便の依頼とはいえ、受けたからには完了の報告をせずに出て行くのは宜しくないだろう。日本人組がうんうんと頷くのを見て、一応挨拶位はしようと改めて思う。


「ガーラントさんとかズズさんとかメリアさんとかには?」

「挨拶、いる?」

「いるよー。トティさんとかアーティさんとか」

「そういうもんかなぁ」


 最初に城を出た時とは違って、随分と柵らしきものが出来てしまったものだ。ハニー・ビーは思う。


「んー、じゃ、明日は挨拶回りして、明後日出発、かな?」

「随分と性急だね、なんか理由があるのかい?」

「いや、別に。そういや、あたし、この世界を見て回るつもりだったなーって思いだしただけ」


「明後日か。よし、じゃ、俺も準備しておこう」

「はい?」

「何言ってんの、翔馬」


「何言ってるって――俺も、ビーちゃんと一緒に行くから?」

「何バカ言ってんの!」

「翔馬さん、ハニー・ビーさんが首を横に振ってますよ?」

「アンタ、ガーラントさんに勧誘されてただろう?それに、外に出てどうするつもりだい?」


 被召喚者メンバーは非難囂々であったが、翔馬は知らん顔だ。


「だって、俺、ビーちゃんにプロポーズされたしー」

「ええっ!?ビーちゃん、何、とちくるってんの!?」

「してないっ!」

「でも俺、ビーちゃんと一緒に行くって、あの時に決めたから。よろしく!」


 どうやら、翔馬の中では決定事項だったようだ。





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