45 臭い匂いは元から断たねば 1
最初の瘴気浄化から三ヵ月。
その間に4か所の浄化に成功し、五つの街が救われたこととなる。
その全てにハニー・ビーと翔馬は同行し、特に必要のない警護の役割を与えられていた。まだ聖女が訪れていない場所でも、瘴気が薄くなっているとの報告が上がっており、ガーラントが語った「そこにおられるだけで瘴気が浄化され民に安寧をもたらす存在」というのは間違いが無いようだ。
生い立ち暴露の後、谷崎と希は仲良くなったと言えるほどではないがいがみ合う事も無い。互いに思う所はあれど、相手の気質を尊重することを心がけている。
五度目の浄化の旅の後、ハニー・ビーは国王へ面会を求めた。
「王様、聖女様のお披露目の準備で忙しいんだよね?そんな長い話じゃないから、ちょっと聞いてほしいことがあって」
ガーラントにも同席を要請し、王の私的な応接室にて話し始めたハニー・ビー。
「瘴気は順調に浄化されてるみたいで良かった。聖女様たち凄い。――けど、聖女様がいなくなったら、また長い年月をかけて瘴気が凝る。今までそうだったんだよね?」
「そうだな。聖女殿がおられる間に浄化の仕組みを解析しようとしたり、全く違うアプローチで瘴気を消す方法を探してはいるが、未だ叶ってはいない」
国王は期待に満ちた目でハニー・ビーを見た。「お前は何かを見つけたな」とでも言うように。
最初の瘴気浄化の旅で瘴気の原因らしきものを発見したハニー・ビーは、確信を持つために5回目の旅までは口をつぐんでいた。二度三度ならまだ偶然もあるだろう。しかし、それが五回連続で例外なしと来れば、まず、間違いない。そう思って国王との面会を望んだのだ。
「とりあえず、これまでの瘴気発生地では例外なく神脈があった」
「神脈……?」
ガーラントが言葉の意味を掴みかねて魔女の顔を見た。
「こっちでは言わないのかな?マナが流れている場所。あー、目には見えないけど方法を知ってれば見える筈」
「教えて頂けますか」
「ん。今度ね」
ガーラントに短く答え、ハニー・ビーは国王に向き直った。
「で、その神脈に余計なものが絡みついてた。最初の街ではご神木の根、次の街では竜の化石、三番目は神脈同士が、四番目は断層がずれた地脈が、五番目は魔力溜まりの洞窟が。それらが神脈の流れを阻害してる。流れなくなったマナが溜まって澱んで長い時間をかけて瘴気になった」
意味を咀嚼してもらうために言葉を切り、ハニー・ビーは少しぬるくなったお茶を飲む。
「あたしがここまで介入していいか悩んだんだけどさ。知ってて知らんぷりってのもねぇ……。神脈の流れを遮るものを排除するか、神脈の流れを変えるか、瘴気になる前に定期的に溜まったマナを人力でながしてやるか。これまで通りに別世界から誘拐した相手に瘴気を祓ってもらうのもあり」
「魔女殿はどの方法が一番良いと思う?」
「んー。あたしがいた所では、基本的には人力で流す方法だね。化石なら掘り出せばいいけど神木を排除は周囲への影響があるし、神脈の流れを変えるのは、あたしの師匠クラスなら鼻歌交じりでやれるだろうけど、あたしレベルじゃ強化の道具を山盛りつけて、尚且つ枯渇しないように魔力を流してくれる魔女を何人か付けて、それでも成功するかどうかビミョーなとこ」
「人力で流すのは容易いか?」
「ガーラント位の力があって、あたしが教え込めば、まぁ、なんとか?」
「……ガーラントが最低ラインか?厳しいな」
青くて甘い男だが、それでもランティス国随一の魔力量を誇るガーラントを下限とされては「定期的に人力で流す」を継続することは難しい。どの程度の周期かは分からないが、国内に一か所ならともかく、あちこちに点在している神脈への干渉をを彼一人で賄えるとは思えない。
「今回は浄化しちゃったから無理だけど、神脈が正常化すればマナの供給が安定するから、今瘴気だまりになっている周辺では魔法使いが増えると思う。特に今回異形化した人は魔力への干渉力が大きいから、あの人らを神脈が正常に流れている場所に連れて行けば、魔法を使えるようになる可能性は高い」
そう言って、ハニー・ビーは異空間収納からランティス国の地図を出してテーブルに広げる。
「いろいろと調べてみたんだけどねー。赤マークが、瘴気被害の発生している地域。魔法使い……こっちでは魔術師とか魔導士とかって言うんだっけか。その人たちが他の地域に比べて多数輩出されているのが青マーク。見て分かるように魔法使いが多い地域には瘴気による被害が殆どない。神脈の乱れが無くて、マナに満ちているから。王都なんてその最たるもんだね」
確かに王都は瘴気による被害もなく、魔術師・魔導士の数は他の追随を許さぬほどいる。
それは国王もガーラントも気付いていた。
しかし魔術師が存在することで瘴気を抑え込めるのではないかという仮定のもと、瘴気被害のある地域に魔導士を派遣してみたが、瘴気の抑えにはならなかったのだ。
「魔導士がいるから瘴気が抑えられるのではなく、瘴気が発生せずに神脈が正常である地域には魔導士が生まれるのか」
「なるほど……!」
因果が逆だったとは思ってもみなかった国王とガーラントが感嘆の声をあげた。
「ま、神脈が正常にならなければ魔法使いは増えない。魔法使いがいなきゃ神脈は正常にならないんだけどね?」
なら、どうしろと。国王が恨めし気にハニー・ビーを見ると舌を出した魔女が目に映った。




