44 不幸自慢大会 4
「え˝?あたし?」
酔っ払いガーラントに突然話を振られたハニー・ビーは頓狂な声をあげた。日本人組の不幸自慢大会を傍観者として眺めていたので、心の準備が無かったのだ。
「あー、あたしはダイジョブ。親はいなかったから虐待されてない」
「お……親で、なくても……えぐっ…虐待は……あります」
「ガーラント、大分飲んだ?」
「話をっ、逸らさないで、頂きたいっ」
ハニー・ビーが日本人組に目をやると、自分たちの生い立ちを話した連帯感を一緒に味わおうとでも言うように、視線が集中していた。
「あんま、面白い話じゃないよ?」
「俺のだってそうだったでしょ?」
「あー、私もね」
ここで一抜けとはいかないようだと、ハニー・ビーは肩をすくめて話しだした。特に隠している訳ではないから話すことは構わないのだが、それを聞いた相手から同情を寄せられることは好きではない。
「あたしに親はいない。優等の種と卵とを掛け合わせて作られたから」
のっけからヘビーだ。翔馬が目を見開いた。
「遺伝子上の血縁は、どこの誰かも知らないし種と卵の提供者も同様の筈。研究所にデータは蓄積されてたはずだけど、あたしが10歳の時に師匠が建物ごと組織をぶっ潰しちゃったから、もう、残ってないなぁ」
「その研究所のエリート候補として生まれてきたって事?」
「ううん。研究材料だね。さっき、ばーちゃんが5歳まで名前が無かったって話していたけど、あたしは10歳まで自分が人間だって知らなかった。名前も無かった。ちなみに固有番号はA-S P-S Q-S -1」
番号で呼ばれて管理されていたのはハニー・ビーだけではない。研究所には同類がわんさかいた。最初は生まれた順に通し番号が振られるが、能力や実績、外見や資質などで頭角を現した者には随時特別番号が付けられた。
ハニー・ビーが特殊番号を振られたのは生後三ヵ月のことだったので、彼女は自分の通し番号は知らない。
「研究材料……って」
痛ましげに希が眉を顰める。
「ん。最初は新薬のモニターだったり、呪いの耐性テストだったり、治癒魔法の練習台だったり……かな。あと、あたしは生まれつき魔力量がそこそこ多かったから、それを更に底上げするために、まー、色々?」
薬と言っても暗殺用や拷問用だったりするので、まあ、碌なもんではなかった。再生薬なんて、効果を確かめるためには欠損していないとならないから……。治癒魔法の練習台となるには、事前に怪我を負う必要がある。偶然にに怪我をしたものを集めるのではもちろんなく、治癒魔法の練習レベルによって色々な深さの傷を付けられるのだ。
これ以上はハニー・ビーは話すつもりは無い。
今言ったことは、されたことのうちでは楽な方だったなどと言えば、すでに曇った顔の彼らは深く傷つき、哀れみを彼女に向けるだろう。それはハニー・ビーの本意ではない。
不遇な子供時代を過ごした彼らからもやはり同情されてしまうのか。
ハニー・ビー自身は、自分が人であったことすら知らなかった幼少時代に、特に思う所は無いので、不憫に思われても却って困ってしまうのだ。
「で、あたしが10歳の時に師匠がどこだかからの依頼で組織をぶっ潰しに来てねー。拾ってもらって、育ててもらって、いろいろと教えてもらって魔女になった」
「へぇ、お師匠の魔女さんはどんな人なんだい?」
さらりと明るく話したハニー・ビーを見て、これ以上は話したくないのだろうと推察した樋口が話を変える。
樋口が想像するように「辛いから話したくない」のではなく「話したら面倒くさそうだな」程度なのだが、ハニー・ビーはその流れに乗ることにした。
「強い、そりゃもー、めっちゃ強い。恐ろしく強い。あたしが10人いたって敵わない。百人いれば……いや、どうかなぁ」
「……ええぇぇぇえ。ビーちゃんだってとんでもないのに」
「魔女殿より……」
青い顔をしたガーラントが衝撃を受ける。自分が10人いてもかなわない魔女が”めっちゃ強い”などと言う彼女の師匠。いったいどれほど恐ろしい傑物なのか。その驚きで酔いも醒める思いだった。
「ま、こんな感じです」
「よしっ、ビーちゃんも、チーム The・不憫への加入を許可する!」
「あ、いや、いい。いらない」
「酷いーっ。一人だったらチームじゃないじゃん!ボッチThe・不憫じゃん!」
「それだとボッチなのが不憫って感じに聞こえる、翔馬、カワイソ―にボッチなんだー」
「ちーがーうーっ!」
こうして生い立ち暴露の会は終了したが、翌日からハニー・ビーはガーラントの猛攻に悩むことになった。
曰く、召喚した責任を取って優秀な男をとりあえず婚約者として斡旋するのだと。
「要らん」
一刀両断でのお断りだったが、ガーラントは諦めない。
薄幸な身上から救ってくれた師匠である方と引き離してしまった。この世界で是非とも幸せになって欲しい。いや、幸せにさせずにおくものか。
あれだけ怖がっていた魔女相手に引かないガーラント。
己はたまたま良い環境に生まれてこれまで幸福に生きてきた。魔女を召喚するまで挫折らしい挫折も無かった。その自分が引き起こした此度の騒動は、陛下は不問にして下さったが自分で責を負うべきだ。忖度はされていただろが、今まで私用することのなかった魔導士長としての地位や王甥で公爵家三男という身分を活用し、何としても魔女に安住と平穏を!
ハニー・ビーはいっそのこと帰れる事を話そうかと思ったが、それよりもっといい方法を思いつく。
「じゃ、ガーラント。責任とってあたしと結婚する?」
「………………」
大変失礼な事に、ガーラントはこの言葉で魔女の仲人を諦めたのであった。
あたしを気にするくらいなら、聖女様たちと勇者に斡旋しろや。ハニー・ビーはそう思ったが、流石に日本人組に申し訳なくて口には出さなかった。
ハニー・ビーが師匠に救い出された年を5歳→10歳に変更いたしましたm(__)m




