41 不幸自慢大会 1
帰路も何事もなく、ジャスターを出てから二日で聖女一行は王城に戻ってきた。
国王は破顔して皆を迎え入れ、膝を付き頭を下げて感謝をささげた。王に頭を下げさせてしまった一行は大慌てだったが、当の本人は平気なものだ。
「この国を救ってくださる聖女殿に王たる私が感謝をささげるのは当然だ」と笑う。
まだ公式にお披露目されてはいないため、王の私室で事情を分かっている少人数しかいなかったことは救いだが、これを公式の場でされたら聖女たちは今よりなお挙動不審になるだろう。
なにせ生粋の日本の庶民。当然、王侯貴族などとの付き合いは無いし、そういう教育も受けていない。
マナーを知らない事を気にするなら教師を付けようという王の申し出に、意欲的なのは希。聖女としての仕事を優先させたいという樋口。谷崎が「お二人がするなら……」と言った時に希は顔をしかめ、無言でそっぽを向いた。
その様子を見た翔馬は早いうちに話をした方がいいな、と思った。
しかし、それは今日の事ではない。内々ではあるが、今夜は瘴気浄化の成功を祝って宴が開かれるというので。
王は政務が詰まっているとかで不参加だと謝罪があったが、気さくに振る舞ってくれるとはいえ相手は国主なので、日本人チームは胸をなでおろす。被召喚者の中で王に対しても身構えないのはハニー・ビーだけである。
「祝宴って言うより打ち上げ?歓送迎会とか忘年会とか」
集まった面子と部屋の様子を見て翔馬が言う。
今回の瘴気浄化の旅を共にした11人が揃い座卓を囲む様は、魔導士長から平騎士まで地位に差があり過ぎ、本来なら同席することはない面々である。
「和室……畳……」
呆れたような声で言うのは希。彼女はマンション育ちで畳のある生活をしたことが無かったが、日本人なので当然知ってはいる。
「ニホンの方は畳でくつろがれるとお聞きしております。この部屋は聖女様の為にしつらえたものでございます」
ガーラントが説明するのに翔馬が首を振る。
「いやいや、今まで来た聖女様も俺らと同時代だよね?テーブルと椅子で暮らしてた人の方が多いと思うんだけどなー」
「えっ!?」
ランティスを始め召喚を行う国の上層部は日本からの被召喚者の為に、米や味噌醤油に始まり畳や障子、襖まで開発したのにまさかの否定。ガーラントはショックを受けてぽかんと口を開けた。
「いやいや、あたしは嬉しいよ。有難いねぇ。まさか他所の世界で青畳にお目にかかれるとは思わなかった」
「あ、ごめんね、ガーラントさん。私が馴染みが無いだけ。地方によってお家によって色々だから」
出された料理も、天ぷら、刺身、茶碗蒸し、すき焼き、蟹すきなどなどで護衛役だった騎士の面々は見たこともないものだったが、日本人には馴染みがあるもの。
「おお……日本酒……」
この世界はどれだけ日本から呼び寄せた聖女を大事にしているのかが窺える。国難に際してのみ行われる禁術の召喚。この国は250年ものあいだ召喚は行われていなかったというのに、青々とした畳があり、米が作られている。日本人が多いとはいえ、日本からやって来ると決まっている訳でもないのに。
「えー、では、僭越ながら指名もされていないけど乾杯の音頭を取らせていただきます。みなさま、グラスをお持ちください。よろしいですか?……瘴気浄化の成功を祝って。かんぱーい」
こちらの流儀は知らないが、これはもう日本式の打ち上げでいいだろうと乾杯の音頭を取った。
豪勢な料理と酒とで場は和やかだ。瘴気浄化の成功でガーラントの肩の荷は軽くなったし、ハニー・ビーといざこざを起こした女騎士たちも、帰路でしっかりと謝罪をし蟠りも残っていなそうに見える。ただ単に、魔女コワイの一心かもしれないが。
案外と皆が日本酒を平気で口にしていることに翔馬は驚く。田んぼが聖田と言われるくらいなのだから、日本酒も米と同じで王族や高位貴族しか飲んだことはないだろうに。希や谷崎のような若い女の子は、もっと甘い酒を好むだろうに。と見回して、ハニー・ビーが酒を飲んでいることに気付き、翔馬は慌てる。
「ビーちゃん!まだ、お酒飲んじゃダメ!」
「え、なんで?」
「まだ15でしょ?お酒は二十歳を過ぎてから!」
「ん?それニホンの常識?
「常識じゃなくて法律!――って、あれ?ビーちゃんのトコは幾つで成人?」
「15」
さらっというハニー・ビーに翔馬は懐疑的な目を向ける。
「ホントに?」
だれもハニー・ビーのいた世界の常識や法を知らないのだから、彼女が言い張ればそれが通ってしまう。それをいい事にハニー・ビーが誤魔化しているのではないかと疑う翔馬。
「あ、ガーラントさん、こっちの成人年齢と飲酒可能年齢は?」
ここはランティス。
日本でもハニー・ビーの故郷でもないのだから、此方の流儀でNGが出れば止められるだろうと翔馬はガーラントに聞いた。
「成人は16ですね。飲酒は特に決まりはありません」
「ええっ!?法律で決まってないの!?」
「強い酒精の物を口にすることは宜しくないとされていますが、軽いワインやシードルくらいでしたら、10を越えれば晩餐で供されることもあります」
「そっか、じゃ、ビーちゃんも飲んでも問題ないって事だよねー。さ、ほらほらビーちゃん、注いであげるから、それ干しちゃって」
「ノゾミねーさん、ありがとー」
言われるままにグラスを空にしたハニー・ビーは、空のそれを希に差し出す。
「希ちゃん!?酔ってる!?」
酒に強い翔馬は日本酒の一合や二合では酔わない。はっきり言って蟒蛇だのザルだの枠だの言われるレベルだ。希は対照的に酒には強くないようで、顔は赤く目は潤んでいる。
「えー、酔ってないよ」
「酔っ払いはみんなそういう!」




