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35 瘴気浄化の旅 5

「何処で手に入れたんだか知らないけど、聖女様のまねしてお揃いの装飾品なんて付けてるしっ。アンタもっ」

 ズズはハニー・ビーの腕輪を指して言い、翔馬をも指さした。


「人を指さしちゃいけませんって教わんなかったのかな?それともこの国では問題ない?」

 アーティに向かって首を傾げても、彼は肩をすくめるだけだ。役に立たない隊長だなーとハニー・ビーはひとりごちる。


「あのねー、この腕輪だったら、最初に付けたのはあたし。で、次がショーマにーさん。その後が聖女サマたち。真似っこってんなら、聖女サマがあたし達の真似したことになるね」

「そんな事がある訳ないでしょっ」

「ねー、騎士さん達。あたしに文句があるならホントにガーラントか王様に言ってくんないかな?いい加減、鬱陶しい。あたしを呼び出したのはガーラントだし、どーしても同行し護衛してくれって言ったのは王様だからさ」

「そんな訳……っ」

「根拠なくあたしの発言を否定しないでよ。ガキじゃないんだからさ。ダダこねるのやめたら?」


 騎士である自分たちに敬意も払わない、畏怖することもない、憧れる様子もないどころかかえって下に見ている。これで怒るなと言う方が無理だが、最初に喧嘩を売ってきたのはズズである。

 よくあるマウンティングで、自分たちの方が立場が上だと知らしめたかったようだが、効果はマイナスだった。


 ちょっかいを出さなければ害は無い筈の魔女に、こうも居丈高に物申しては穏便には済まないかもしれないと、トティはアーティに「止めてくださいよー」と拝んでいる。


「あたし、結構優秀な魔女なのね?その優秀さを王様に買われたのね?トティにーさんの口利きがあるから穏便に済ませてるけど、あたしが穏便に済ませようと思っているうちに引いときなよ。あー、もう、引っ込みがつかないのかもしれないけどさ」

「ビーちゃんは何で煽るのっ」

「やられたらやり返す主義なだけ」

「倍返し!?」

「え?いやいや、等倍で返すよ?―――多分」


 大分前に流行語になった台詞が思わず翔馬の口から出たが、もちろんハニー・ビーには分からない。そして、やられるまえにやれ!をもモットーとしている彼女の報復が等倍返しかどうかは定かではない。きっとそれを聞いたら、グリージョたちは「倍返しどころではない」と言うだろう。


「やだ~、聞いた?魔女だって。夢見がちな子なのね~。カーワイー」

「ぷっ。まだ絵本から卒業できないコドモだったとは思わなかったわ」


 ”ガキじゃないんだから”とハニー・ビーに言われたのが刺さったのか、今度はその言葉を返してきた。この世界で”魔女”というのはお伽噺の中の存在なので、彼女が本物の魔女であることを知らなくても仕方ない。

 この世界で魔法を行使する者のうち、国に仕えているものを”魔導士”使えるべき主を持たないものを”魔術師”と呼ぶからだ。


「黙る気は無いね?んじゃ、強制的に静かにして貰おーか。トティにーさん、いいよね?」


 問われたトティは曖昧に頷いた。自分は止められない、上司であるアーティにも止める気は無い。だが、先輩に対して”強制的に黙らせる”の言葉に肯うのも騎士団員としてどうなのか――そう思っての逡巡である。


「黙れ、動くな」


「えっ」


 ハニー・ビーが魔力を乗せた声で命令するだけで、ズズとアルヴァの動きが止まる。これを見て驚きの声をあげたのは様子見中だったメリアだ。命じられた二人は、抵抗しようにも身動きすることも声を発するとこも出来ないのだから。


 ズズとアルヴァは、ハニー・ビーを揶揄するために顔を近づけて口元に開いた手を当てて、意地の悪い笑みを浮かべたままで固まった。


「あ、これ、聞いたよ、ビーちゃん。狂騒の一味を捕まえたときに使ったやつでしょ?」


 ワクワクとした様子で翔馬が言う。


「狂騒?何それ?」

「グリージョがいた一味の名前だよ、お嬢さん」


 ハニー・ビーの問いに答えたのはトティだった。


「あのあと、騎士団と準軍事とで捕縛したけど国内の拠点で総計150人を超えたって話だ。他国とも繋がりがあることが判明していて、そっちは難航してる」

「へー」

「お嬢さんは興味ないから報告要らないって言ったらしいな?」

「ん。じゃ、保護された子はもっといたのかな?」

「だな。アジトにいた子供たちは保護。売られた先の調査に入ってる」

「みんな、無事だといいねぇ」

「そうだな」


 のんびりと会話をする二人を、メリアは青い顔で見ている。


「そうそう、その狂騒を捕まえたときのやつでしょ?”黙れ、動くな”って。それをビーちゃんは何日も放置して、捕まえに行ったときには大小垂れ流しですっげー悲惨だったってね」


「ひぃいいいぃ」

 メリアの顔は青から白へ。なんとか先輩たちを救いたいが何と言って良いのか分からずアーティとトティの顔を交互に見るも、どちらも助け舟を出してくれる様子はない。


 まさか、このまま放置で大小垂れ流しになったら……騎士としても女性としても、いや、それ以前にいい年をした大人として、色々なものが壊れてしまう。尊厳とか未来とか自尊心とか。


「動けないのに出るモンは出るんだ?」

「そりゃね、殺すわけじゃないから、心臓は動いているし五感も断ってない。自分の意思で動かせないから却って生理現象なんかは体が勝手に判断して、出す時は出すよ」


 恐ろしい話である。


「瞬きなんかもちゃんとしてるよ?目が乾くと可哀想だし」

「ビーちゃん、やさしーね」

「ん」


 優しさの定義をすり合わせたいと思ったメリアであった。






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