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32 瘴気浄化の旅 2

 初めての浄化はあっけなく終わった。


 途中一泊してから着いたシャスターは瘴気に満ちた街だと言う話だったが、流石にいるだけで瘴気を浄化すると言う聖女。しかも超級・上級・中級の三人が揃っているのだ。


 聖女一行が街に入るなり瘴気は浄化され始め、発端の湖で三人が祈ると根源であったその黒く澱んだ水が、一瞬光を帯びてから透き通った元の水に戻ったのだ。


 「すげーっ。希ちゃんたち格好イイ!」


 翔馬の言葉に聖女たちは誇らしげに笑う。ガーラントは、あまりのあっけなさに目を丸くしていた。文献や伝承にあるとおりに聖女の力は凄まじいと、畏怖の念を抱き叩頭する。


「ありがとうございます、聖女様方。皆様のおかげでこの地は救われました。本当に……本当にありがとうございます」


 涙交じりの声に、聖女たちが言う。


「あんたも頑張ったよ。それに、まだ最初の一か所だろ。これからあちこち回るんだ、頼りにしてるからね」

「そうそう、ガーラントさん、まだこれからだから。服が汚れるし、デコに土がつくから立ちなよー」

「……浄化が出来て良かったです」


「ん?ガーラントは何もしてなくない?馬車に乗っかって移動して、聖女様の後にくっついてあるってただけじゃん」


「ビーちゃんっ。空気読んで!ガーラントさんは、聖女召喚を成功させたんだから、何もしてないって事は無いでしょー」


 翔馬が手を貸して立たせたガーラントは、叩頭したときに額に付いた土を手で払いながら首を横に振った。


「いえ、すべて聖女様たちの御力です。これで……国が救われます」


 異形化した草木が枯れ落ち、獣が力を失ったかのように伏せているのを見て樋口が言う。


「さて、まだここでもうひと踏ん張りかね」

「ですねー」


 希と谷崎は、伏せている動物たちに触れて歩き、樋口は組んだ手に額を付けるようにしてまた祈り始める。


 聖女に触れられた獣は異形化が解け、怖気づいたように身じろぎをしてから森の奥へと走っていく。樋口の祈りは彼女を中心にゆっくりと薄緑の光となって周囲に広がり溶けていった。光に触れた場所の植物が、まるで高速再生をしたかのような成長を見せる。


 死んだかと思われた森が再生していく様は圧巻だった。


 ハニー・ビーの鑑定で、樋口は【万物の癒し】という他の二人には無いスキルがあり、瘴気で汚染された自然を快復させることが出来ると分かったのだ。その力は強力で、見る見るうちに元の姿に近づいていく。


 だが、さすがに失われた命は戻らない。森が本来の姿を取り戻すには、時間がかかるだろう。


「俺ら、見せ場ないね?」


 翔馬がハニー・ビーに囁く。


「ん?いやいや、イザと言う時の剣と盾は出番が無い方がいいでしょ?」

「そうなんだけどねー。俺の中の中学二年生が活躍したかったと叫んでる」

「叫ばせとけ、んなもん」

「ビーちゃんの優しさが行方不明っ!おにーさん、悲しいっ」


 護衛として付いてきたトティとアーティ、女性騎士三人は目の前で行われた奇跡に目を奪われ、声も無い。


 彼らはガーラントと同行する者たちの警護として随行していたが、彼女たちが何者なのかは聞かされていなかった。シャスターの街に入った時に「もしや……」と期待交じりの疑念は浮かんだが、過度な希望は抱かないよう己を律した。


 騎士たちは一仕事終えたと言う様子の聖女たちの前へ無言で進み、揃って片膝をついた。


「え?あれ?どうしました?」


 跪かれた経験などかつてない聖女たちが慌てるのは仕方のない事だろう。土下座文化はあっても、謝意を示すために跪く習慣は無い日本人である。尤も、彼女らは土下座も生で見たことはないが。


「国を救いたまう聖女様の随行と選ばれたこと、誠に光栄にございます。全身全霊でお守りいたします」

「聖女様、この地をお救い下さいまして、誠にありがとうございます。ただただ感謝の念でいっぱいにございます」

「この身を盾にしてお守りいたします。どうか、国をお救い下さいませ」


 口々に感謝の言葉が飛び出す騎士たちの目は潤んでいる。


 産婆だった樋口はともかく、他の2人はここまで誰かに感謝された経験は無いので、やや引き気味だ。

 それを見ていた翔馬は「ランティス国の人は感激屋さんが多いのかなぁ」とのんびり構えている。


 平和な国から来た彼らは、瘴気に由来する国難を甘く考えていた訳ではないのだが実感が無かった。


 そして感謝と尊敬は街に戻ってから更に増すこととなった。





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