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28 エスコート

「ビーちゃんも翔馬も一緒かぁ。楽しそう」


 笑顔で言う希を国王が満足そうに見ている。

 誘拐されて怒っていたのにガーラントの必死さに毒気を抜かれ、仕方ないから協力するか――となっていた筈が、国王の掌の上で転がされて使命感を持った模様。


「あ、翔馬!ハーレム勇者じゃん!」


「え―――」


「勇者一人に聖女三人と魔女一人。わーお、ハーレム勇者キタコレじゃないの?男の夢?ロマン?」


「えー、俺、熟女好みじゃないし、ロリコンでもないし、希ちゃんはオジ専だし、ハーレム要員は谷崎さん位じゃん。一人じゃハーレムって言わない」


「誰がオジ専かっ」


 そう言いつつも国王をチラッと見やる、その頬が赤みを帯びている。谷崎はまんざらでもなさそうに、でも困ったように眉を寄せて首を傾げていた。樋口は呵々と笑うだけである。


「にしても、ロリコンって……ビーちゃんって何歳?」

「あたし?15だよ」

「えっマジで!?15でこのわがままボディ!?何を食べてこの胸育てたの!?」

「あー……希ちゃんの主張し過ぎない控えめな体つきもいいんじゃない、かな?」

「翔馬!セクハラ!」

「なんで!?最初に希ちゃんがビーちゃんにセクハラしたじゃんかーっ」


 召喚からまだ一月足らずで、よくもこれほど仲良くなったものである。

 翔馬と希は年が近いせいか相性が良いのか、会う度にこうして会話が盛り上がる。


「勇者殿と聖女殿たちは大変仲が宜しいようで何よりだ。護衛はもちろん勇者殿と魔女殿だけに任せたりはせぬ。案内も兼ねガーラント、それと魔術師と騎士を一個小隊ずつ……いや、足りぬか?しかし、あまり多すぎても行程が鈍重になるしな」


 考えつつ発言した国王は、ハニー・ビーが何か言いたげに自分を見ていることに気付き、言葉を止めて立ち上がる。


「その辺りはこれから詰めよう。今日明日に出立する訳でもなし」


そのままテーブルを回ってハニー・ビーの横に立つと手をさしだした。


「――魔女殿、よければ禁書庫に案内しよう」

「ありがと」


 差し出された手に躊躇いなく己の手を預け、ハニー・ビーが立ち上がる。


「お……おう。ビーちゃんってばエスコートされるの慣れてる?」


 希は自分だったらアタフタして「大丈夫です」などと言って一人で立ち上がってしまうだろうシチュエーションで、自然にふるまうハニー・ビーを見て驚いた。いや、日本人だったら手を借りて立ち上がるのは要介護の人か怪我人か病人、幼い子供くらいだろうから、自分だけじゃなくきっとみな狼狽えるに違いない。そう自分に言い聞かせる。


「え……俺、こっちにいるとなるとアレが出来るようにならないといけないの?」


 翔馬もカルチャーショックを受けたようだ。


「紳士だねぇ……」

「……ですね」


 さりげないエスコートは、日本人組にはややハードルが高い模様だ。


◇◇◇


「魔女殿は茶が好きか」

「ん。あたしの道楽なの」

「では、先ほどとは違う茶を供じよう」


 国王がそう言うと、傍仕えが一礼をして去っていく。エスコートされたまま案内された部屋は国王個人が人を招いたときに使うという、こじんまりとした応接間だった。


 すでに茶器は用意されており、二人がソファに腰を落ち着けたのを確認してメイドが手慣れた様子で茶を淹れる。


 先ほどの華やかな香りの茶とは違い、すっきりとした味わいの爽やかな香りを楽しんでからハニー・ビーは言った。


「あたしが一度に転移されられるのは最大で10人。聖女三人と勇者とガーラント、あと5人までしか保証できないんで、小隊をふたつとか無理」

「ほう。魔女殿は他者を転移させることが出来るか」

「知ってるくせに。――ってガーラントはこんな腹黒が伯父さんだなんてカワイソ―。いいように使われてんじゃん」

「国王故な」


 最初にガーラントが召喚の話を持ってきた時に突っぱねた国王だが、甥が諦めてはいない事は承知していた。

 それ故に、召喚に関わる人員に自分の配下が入るよう仕向け、最初から逐一報告させていたのだった。

 成功すれば国の為になるから良し、失敗したとしてもガーラントの独断で行われた行為なので、彼を切れば済む。王として当然の行動だと言える。


 結果、魔女と勇者の召喚という、聖女召喚としては不首尾としか言えない過程を経て三人の聖女の召喚に成功した。


 不首尾とはいえ、彼らの能力を鑑みれば失敗とは言えない。五人が五人ともランティスにとって有意義な人物だと国王は考える。城内にとどまった翔馬はもちろん、召喚後に城を出たハニー・ビーにも影を付け、その行動は報告させていた。


 ハニー・ビーも自分を見ている目があることは承知していたが、グリージョと違って嫌な感じはしなかったので放置していた。もし、付けられた影が彼女に対して敵意を持っていたら、影は城に戻ることはなかっただろうし、その場合は国から危険人物と目されていただろう。


 そうならなかったことは、双方にとって僥倖だったと言える。


「ガーラントは、最初っから王様の掌でコロコロ転がされているなんて思ってもいないだろうに」

「アレはまだ若い。故に青い。まあ、性根は甘いし視野が狭いからな、年を重ねてもあのままかもしれん」

「若いって幾つ?」

「確か22だ」

「わーお。ホント、若いね。30歳位かと思ってた」


 15歳のハニー・ビーが22歳のガーラントを「若い」というのがおかしくて国王は笑った。


「で、魔女殿は同行者を10人までに絞れと言うか」

「ん。魔力的にはね、百人でも二百人でも転移はさせられる。けど、何か事があった時、順繰りに転移させてたらどうしてもタイムラグが発生するし、後回しにした人たちの安全は保障しかねる」


 自ら望んだことではないとはいえ、対価を約束して聖女の浄化行脚に同行することになったからには、これは依頼だ。魔女として不手際や失敗は有り得ないと、ハニー・ビーは最善策を講じることに決めたのだ。


「いや、護衛に付けるのであって、魔女殿に守りをさせる為じゃないんだが……」




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