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25 鑑定 2

「使っておりませんっ!」


 慌てて否定するガーラントに疑いのまなざしを向けるハニー・ビー。何の話なのか分かっていない翔馬達がもの問いたげに見ているが、ガーラントには返せる言葉が無い。


「陣は刻んであるよね?」

「それは……そういうものとして作られているからで、目的が守護であることに間違いはございません」

「ふーん」


 詭弁であるとハニー・ビーは思った。例えその仕様の腕輪が幾つもあったとして、守護のみの腕輪が無い筈がないからだ。つまり、ガーラントは本当に服従の魔法を行使していなかったとしても、それを諦めた訳ではないということだ。

 躊躇している理由は、魔女と勇者にその魔法の効果が無かったから。二人とも本当の名を告げていない事を知らないガーラントは、他の世界の人間には自分の力が及ばないのではないかと疑心を持っている事だろう。


 服従魔法をかけようとした時の「他者を害することを禁ず」と「指示に従え」は特に宜しくない。そうハニー・ビーは思う。襲われたら黙って殺されろとでもいうのか。


「聖女様方が承諾されるのなら確認なさってもかまいません」


 確認とは鑑定の事だろう。


 ここまで言うという事は、本当に魔法をかけてはいないらしい。

 目線で同席していた男たちを下がらせるところを見ると、ハニー・ビーの鑑定能力は他者に知られたくはないのか。


「聖女様、此方の魔女殿は鑑定魔法をお持ちです。ショーマ様が勇者であることが判明したのも魔女殿の鑑定によるものにございます。我が国にも鑑定水晶がございますが、現在のところ使用が難しく……」


 国宝である鑑定水晶を使うためには国王の裁可が必要なため、そう簡単に使用できるものではない。


「無断で鑑定かけるのはタブーだし、嫌ならしない。ただ、状態異常とか称号とか良かったら確認させてくんない?」


 ガーラントは服従の魔法に付いては翔馬にも言っていない。というより、幸運にも掛けようとして掛からなかったあの呪文を、翔馬はあっさりと躱しており魔法だとも気付いていなかったため、敢えて説明はしていなかった。


 なので、聖女たちに鑑定魔法をかける理由を称号の判明にしたのだが、まさか魔女がそれを慮ってくれるとは思わなかった。はっきりと暴露されるのではないかとひやひやしていたガーラントが安堵の息をつく。


「すごいっ!ビーちゃん、鑑定使えるの!?」

「あ、それ、残念勇者と同じ反応」

「えー…………」


 希は興奮して立ち上がったものの、ハニー・ビーに水を差されまた座り込む。翔馬と同じ扱いにされ、嫌そうな顔をしている。


「鑑定ってのは……」

「へぇ……」


 鑑定魔法というものがピンとこない様子の樋口に翔馬が説明をしている。


「して!鑑定して教えて!残念翔馬と同じと言われると思う所があるけど」

「希ちゃん、酷いっ」

「面白そうだねぇ、あたしもしてもらおうかねぇ」

「……お二人がそういうのなら、私も」


「ショーマにーさんの時も鑑定を喜んで吃驚したけど、ニホンの人の特性?」

「ああ……ラノベの影響とかあるかも?」

「自分で出来るならしたいけどねー」


――小山内希――

 名前:小山内 希典 (おさない まれすけ)

 年齢:26

 性別:女

 称号:聖女

 ランク:上級

 適性

  :

  :

 スキル 

  :

  :

 状態異常:無


――樋口――

 名前:樋口 きらら (ひぐち きらら)

 年齢:72

 性別:女

 称号:聖女

 ランク:超級

 適性

  :

  :

 スキル

  :

  :

 状態異常:無


――谷崎華――

 名前:谷崎花子 (たにざき はなこ)

 年齢:21

 性別:女

 称号:聖女

 ランク:中級

 適性

  :

  :

 スキル

  :

  :

 状態異常:無



「なるほど……」


 ニホン人は本名を隠す風習でもあるんだろうかとハニー・ビーは考える。しかしそれは、ガーラントの思惑から外れると言う意味では歓迎すべき風習だ。


「どうだった?どうだった?」

「あー、うん。状態異常なし。三人とも聖女の称号が付いてる。スキルや適性なんかは個人情報だし、あたしも見てない。もし見てほしかったら個別にみるけど」

「あ、俺!見てほしい、ビーちゃーん!」

「私も―!」


「なんていうか……ニホン人って平和と言うのか脳天気と言うのか。自分の力量とか能力とか知られるの怖くないんだ…」


 呆れたように言うハニー・ビーにガーラントも頷く。己の力を他者に――しかも、この魔女に知られることの危うさを微塵も感じていない聖女と勇者は、彼らの言う通り平和な世界にいたのだろう。そこに生まれ生きてゆけるものは幸せだ。


 その平和な世界から問答無用に呼び出したガーラントが言っていい事ではないが……。


 鑑定の話題できゃっきゃしている聖女たちと勇者を尻目に、ハニー・ビーはガーラントを部屋の隅に連れて行き小声で言った。


「あの三人も服従の魔法は効かない。試してみてもいいけど、それやったらノゾミねーさんあたりが怒り狂ってここから出て行くと思う。あたしには関係ないけど」


 ハニー・ビーの言葉にガーラントは頷く。


「叶うなら魔法で縛りたいと言う気持ちはございました。魔女殿に制していただけたこと有難く」


「お、素直じゃーん。じゃ、ご褒美にもう一個。聖女としてのランクはタニザキねーさんが中級、ノゾミねーさんが上級、ばーちゃんはなんと超級」


「ちょ……超級……」


 よかったね、というようにガーラントの肩を叩いてハニー・ビーは翔馬たちの方へ進んで行った。


 最初に魔女殿が、次にショーマ様が参られ、聖女様方が最後になった。

 そこに何か意味があるように思えて、ガーラントは神に祈りを捧げるのであった。


 そして、魔女殿は本人が口で言うほど他者に関心が無い人ではない。存外お人好しなのではないか――ショーマ様とタイプは違うが――そう思えたガーラントである。



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