21 三度目の正直
協力要請――というより強制――に来たハニー・ビーが出て行ったあと、ガーラントは心底焦っていた。
このままでは陛下に召喚の事を知られるのも時間の問題だ。その前になんとか聖女召喚を成功させねばならない。保身ではない。聖女召喚が成るのなら命でも差し出す覚悟がある。
だが、不首尾のままでは死にきれない。
国王の命を無視して意に添わぬ召喚の禁術を行使しているのだ。死を賜ることも想定しているが、それは、聖女召喚が成功してのちの事。
「早急に召喚の儀を行わなくては……」
ガーラントは呟いて立ち上がる。見回して己のほかには誰もいない事に気付き、翔馬は何処へ行ったのだろうと疑問に思ったが、まさか、ハニー・ビーに付いていったとは思いもよらなかった。
そして、聖女召喚の成功が国にとってはともかく、自身の頭髪と胃の危機であることも。
「よろしいのか、ガーラント殿」
「ええ、もう、後戻りは来ません」
またしても召喚の間に集められた魔導士たち。前回・前々回の召喚の結果を知る者たちばかりで、これ以上の失敗は許されぬ――という決意より、聖女召喚の成功など本当にあり得るのかと疑問を持つものが多い。
それ故に士気が上がらぬこと甚だしい。
しかし、ガーラントは引くつもりは無かった。
あれからまた、何度も何度も禁術の書を読み、聖女関連の文献を漁り、それでも新しい発見などなかった。ならば、今回も同じように術を行使するしかない。
魔導士たちの一斉詠唱で魔法陣に魔力が集まる。集まった魔力を束ねて操作するのはガーラントだ。
一回目・二回目と同様に霧が立ち上り、誰もいなかったはずの陣の中央に、うっすらと人影が映る。今度こそ……今度こそ聖女様でありますように。
「え……なに、ここ」
「おや、一体どういう事だい。あたしゃポックリいっちまって、ここは死後の世界かねぇ」
「………」
霧が晴れる前にガーラント始め魔導士たちは膝をつく。
「異世界よりの来訪、心より感謝申し上げる、聖女様。突然の事にてさぞ驚かれたことでありましょうが、何卒、わが国をお救い戴きたい、その一心で我らは聖女様をこの地にお呼び立て申した。この国は現在……」
このセリフも三度目だ……もう、繰り返すことが無いと信じたい。ガーラントは高位貴族らしく苦衷を覆い隠し、魔導士長らしく現状の説明をする。
「畏れながら、この石に触れて頂きたく」
最初から用意していた瘴気石を捧げる。陣から進み出た女性が指先で触れると濁っていた石から光が立ち上り、瘴気を溜めこむ前の透明な空魔石となった。立ち上がった光の柱は、数秒でキラキラと煌めき消えていく。
「お……お、おおぉぉぉぉ!聖女様!聖女様の御光臨だっ!今度こそ、本物の聖女様が――っ!」
「ありがとうございますっ、ありがとうございます、聖女様。この地にお越しくださいましたこと、本当にありがとうございますっ」
「聖女様っ、どうか、どうかこの国をお救い下され」
蹲って泣く者、歓喜の声をあげる者、感謝の言葉を迸らせる者、皆一様に浮かれ、喜び、達成感に満ち溢れている。
三度目の召喚で、ようやく顕現してくださった――もちろん、魔女の事も勇者の事も無かったことにするつもりは無い。返す術もないと知っていて行った禁術。その責は全て自分にあるとガーラントは重々承知している。
だが、今この場でだけはただ喜んでもいいではないか……。
あふれる涙をぬぐう事もせず、これでこの国は未来への道が閉ざされることはなくなった、そう安堵しているガーラント達と、召喚された者とはあまりにも温度差があった。
「何言ってんの?冗談じゃないっ!帰してよ!早く日本に帰して!私を帰してっ!」
肩までの黒髪と黒い瞳を持つ細身の女性が叫ぶ。
「あの……聖女って言われても、私……」
背の中ほどまである波打つ栗色の髪と黒い瞳を持つ、小柄な女性が俯いて言う。
「あたしゃ、ただの産婆さね」
ガーラントの呼びかけにいち早く行動し、瘴気石の浄化を行った、白髪で黒い目の老婦人が首を傾げる。
一度目で魔女召喚、二度目で勇者召喚。そして三度目の召喚では何故か三人もの女性を招いていたのだ。
「聖女様……お怒りは重々承知の上で申し上げます。我々には、聖女様を呼ぶことは出来ても帰すことは出来ませぬ」
「はぁ!?ふざけんなっ!人攫い!誘拐犯!人の事を何だと思ってんだ!」
怒り心頭と言った様子で叫ぶ黒髪の女性。彼女が聖女かどうかはまだわからない。瘴気石は一つしか用意しておらず、用意された石は白髪の老婦人が浄化してしまったからだ。
「あの……帰れないって……でも……」
栗色の髪を持つ彼女もまた聖女かどうかは不明だ。
「だから、あたしゃただの産婆だって」
現状では唯一確実に聖女の力を持つ白髪の老婦人は、年の功か一人泰然としている様子だが、他の2人に声を掛けることはない。
ハニー・ビーや翔馬があまりにもあっけらかんと現状を受け入れていたため、まさか念願の聖女様(予想を含む)方がこれほど召喚を厭うとは思ってもいなかったガーラント達は、この先どうしたらよいのか頭が痛む思いであった。
考えれば当然の召喚された者の怒り。それを意識しなかったのはガーラント達の失態だ。
「自業自得。当たり前じゃん」
何故か、魔女の声が聞こえたような気がした。




