13 鑑定
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お世話になっておりますm(__)m
ハニー・ビーが二日ぶりに入った部屋にはガーラントを始めローブの男たち、そして黒い髪で黒い瞳の男が一人。あたしを召喚してたった二日でまた人攫いをしたのかと魔女は呆れた。
その召喚されたとおぼしき男は、ハニー・ビーを見るなり目を丸くして言った。
「うわっ、ちょー美少女!すごい!さすが異世界!」
「率直で正直なにーさん、褒めてくれてありがと。あたし、この人たちに召喚された魔女なんだけど、にーさんも攫われた人?」
魔女とは言え年頃の少女である。褒められて嬉しくない訳が無い。
「あ、うん。俺は如月翔馬っていいます。美少女ちゃんは?」
「あたしはハニー・ビー、魔女だよ」
翔馬とハニー・ビーが互いに名乗りあっている中、ガーラントは逃げたい気持ちと戦っていた。ショーマならまだしも魔女に「お願いがある」などと言われて怖気づかない訳が無い。
「魔女っ子キタコレ!魔法少女ー!」
「ショーマにーさん、なんか残念な感じの人だね」
「え?初対面でそこまで見抜く!?俺、よく言われんだよ、見た目は悪くないし仕事も出来るのに喋ると残念だって」
「うんうん、分かる、その感じ。ところでさ、その腕輪だけど」
ハニー・ビーは翔馬の左腕に嵌まっている腕輪を見たのちガーラントに視線をやった。ガーラントはその目だけで震える体を己の両腕で抱きしめるように抑えた。
「これ?格好いいでしょー。ガーラントさんがくれたんだよ。守護の腕輪……って、ハニー・ビーちゃん、お揃いじゃん!これ、フラグ?異世界で出会った美少女とお揃いの腕輪を付けた状態でハジメマシテのご挨拶なんて、運命としか言えない気がする!」
ただ単に、ガーラントが腕輪の意匠を変えることなく作成してそれぞれに渡しただけなので、運命的な巡り合わせだの天の配剤的な何かだのを求められても運命だって困ると言うものである。しかも物は相手を服従させるための魔法陣が刻まれているんだから尚更だ。
「にーさん、脳天気だねぇ……。大丈夫なように見えるけど、にーさんのこと鑑定させてもらえない?」
服従の魔法陣が影響を及ぼしているようには見えないが、万が一ハニー・ビーが見誤っていて翔馬の意思が押さえつけられているのなら、それを把握しておく必要があると魔女は考える。自分を褒めてくれたとは言え初対面の相手だ。従属させられていたとしてもとりあえず助ける義理は無い。
「鑑定―――!出来んの!?ハニー・ビーちゃん、すげー――っ!やって!鑑定やって!」
「……ほんっと、脳天気で残念なにーさんだ」
翔馬のようなタイプの人間には初めて会ったが、相手をするのはかなり疲れる手合だと魔女は呆れた。この国ではどうか知らないが、ハニー・ビーが元いた世界では他人に鑑定を掛けることは基本的にNGだし、初対面の誰とも知れない相手に請われて大歓迎などとは考えられないことだ。
おそらくこっそりと鑑定をかけても対象である翔馬にも外野の面々にも知られることはなかっただろう。しかし、相手の了承を得ずに鑑定を掛けるということは、これはこれで重大なマナー違反でありハニー・ビーにとってのタブーなのである。
当然、それは犯罪者や敵にはノーカンだ。
鑑定はタブーで声を奪ったり拘束したりするのは良いのかと言われそうだが、ハニー・ビーとて常日頃からそんな事をしている訳ではない。ガーラント達相手の場合は緊急避難的なものであったし、犯罪者相手にはやはりノーカン。
常識を知っていて尊重をしていても、自分の意思と覚悟でそれを踏み越えるのは有りだという師匠の教えを十分に守っているハニー・ビーであった。
「お、にーさん、勇者の称号ついてるよ。……え?あれ、にーさん、キサラギ・ショーマだったよね?」
翔馬の服を引っ張って屈ませて、後半は周囲に聞こえぬよう彼の耳元で囁くような声で尋ねる。これが本当なら――鑑定は嘘をつかないが――服従の魔法が効かない訳である。
「え?ハニー・ビーちゃん、何見てんの!?」
翔馬は胸を隠すように両手を交差させて身悶えている。されているのは鑑定であって透視ではないのでもちろん意味は無い。
せっかくハニー・ビーが気遣っても当の本人が分かっておらず大声を出したため、魔女は慌てて防音結界を張る。ショーマはこの腕輪の意味を知らないから仕方ないんだろうけど、ほんと、残念な男だとハニー・ビーは思う。もう少し慎重さを身に付けないと、勝手に転んでそれが致命傷になりそうだ。
「ん。にーさんの名前って、ペ……」
「言わないでっ!それは秘密にしてっ!恥ずか死ぬから!」
鑑定をしたハニー・ビーが見た彼の名前は「如月翔馬」……ペガサス?
本人はその名前を嫌がってショーマと名乗ったようだが、本名を知られなかったおかげで服従魔法から逃れられたのだから、名前に感謝すべきだ。
種族名を個人に付けるセンスはハニー・ビーには分からないが、彼の国では普通の事なのかもしれない。
ペットの蛇に犬と名付けたり、愛馬をインコと呼んだりしていても、それはそれで自由なんだろう、多分。
そして、この流れからお察しの通り、ハニー・ビーという名も本名ではない。魔女としてつけられた名だ。
それを知らぬガーラント達は、自分たちの魔術が他の世界の人間相手には通用しないと考えていると察せられるが、その誤解を解く気は魔女には無かった。
今後、また別世界人が召喚された時に、腕輪を使われる危険性を感じて偽名を名乗ったり、そもそも本名を嫌って愛称を名乗ったりする人ばかりではないだろう。そして、真実の名のもと魔法をかけられて抵抗できる可能性はいかばかりであろうか。
翔馬が勇者だったと判明しても、今、求めているのは聖女。
ガーラント達は、きっとまた愚行を繰り返す。
次に呼ばれる被害者に、腕輪を付ける可能性が少しでも減ったならいいんだけど。ハニー・ビーは、今は真っ青になって震えているガーラントの、初対面時の自信満々の態度を思い出して「きっと、またやるんだろうな」と思った。