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10 聖女召喚リトライ

「神は……神は我が国を見捨てられたのか……」

 召喚陣の前で膝を折り天を仰いで嘆くのは、魔女召喚と言う失敗を取り返そうと再度の召喚に挑んだガーラントである。


「で……ですが、ガーラント様、今度は黒髪に黒い瞳でございます。魔女殿よりはきっと聖女様に近いかと」


「近いからなんだっ!今度は男ではないかっ!」


 いや、そんな事を言われても。


 今回の召喚に関わった者たちの心の声はガーラントには届かない。


 魔女が現れた際に国王の許可が下りていない事が判明したため、そんな愚挙には付き合えぬと半数が抜けてしまい、補充の為に新たに数名を加えての今回の召喚である。


 言葉を尽くし、責めは自分が負うからと国王への奏上を何とか食い止めたガーラントは、二度目という事もあり手順やコツも承知しての再挑戦に、今度こそはと意気込んでいた。

 招かれたのは黒髪で黒い瞳ではあったものの、どう見ても男性。聖()では有り得ない。


「魔女殿が仰っておりました”聖人”である可能性は?」

「う……うむ。これまで聖女のみであったが、可能性は無くもない――のか?」


 魔法陣により召喚された男は、ガーラント達が揉めている様子を見るでもなく床に刻まれた陣を指でなぞったり、周囲を興味深げに見回したりと呑気なものである。


「異世界召喚!すげーっ!ラノベ主人公!?チート?俺TUEEE!?……いやいや、静まれ俺の中の中学二年生。良識ある大人としては、魔王を倒せだの、戦争の道具になるだのは忌避すべき案件。いくら社畜でも、上司でもない相手の命令は聞けん。いや、上司に”ちょっと魔王を倒してきて”って言われたら、さすがに全力でお断りすべきか。給料をくれる訳でも福利厚生なんて言葉があるかどうかも分からない状況で、ヒャッハーしているのはマズい。うん、不治の病なのは分かっているが落ち着け、厨二病」


 ひとりごちて勝手に納得して頷いているが、ガーラント達は彼の言っていることがほぼ意味不明で首を傾げていた。


「えーと、先ずは状況を把握すべし。あのー、俺、召喚されました?」

「は……はあ。あー、コホン。異世界よりの来訪、心より感謝申し上げる、聖女様……ではなく聖人様。突然の事にてさぞ驚かれたことでありましょうが、何卒、わが国をお救い戴きたい」


「ヒャッハー!!キタコレ勇者召喚!」


 やや立ち直ったガーラントが魔女ハニー・ビーにした説明を繰り返す。


「俺は如月翔馬といいます。ご覧のとおり男です。聖女設定は無理すぎます。それに元の世界ではなんの特殊能力も無かったし、いまもって異能があるようにも思えませんけど……」

「その髪と瞳の色――ショーマ様は二ホンからいらした方でしょうか?

「え?あ、はい、そうです。何で……」

「200年前にいらしてくださった聖女様がやはり黒髪と黒い瞳、象牙の肌をお持ちでニホン人だと仰っていたと、記録に残されております。それと先ほどの”らのべ””ちーと”と言う言葉は意味は分からねど聖女様の御言葉として文献に残っております」


「え?」


 ラノベ・チートなどの言葉を知っている日本人女性が200年前に顕現という言葉に翔馬は驚きを隠せない。それらを知っているのならば同時代に生きていた筈だからだ。


「界を渡る、ということは時間にもズレが生じるということでしょうか。ラノベやチートという言葉は、200年前の時代にはない、俺……ではなく、わたしと同じ時代に生きている者の言葉です」


「そうなのですか――!では、聖女様の御言葉をショーマ様に解説していただく事も出来るのですね」


「あー、どうでしょうね。わたしの国には”男言葉””女言葉”という概念もございまして」


 どんな言葉が残されているのか不明なので、翔馬はとりあえず逃げを打つ。


「ほうほう、興味深い事です。そして、ショーマ様、どうぞお言葉をお崩しくださいませ。我々はショーマ様をご意思をないがしろにしてこの地へ呼び出した者、敬意を払うのは我々の方にございます」


 あー、じゃ、お言葉に甘えて。と翔馬が答える。聖女様が今の日本から来て、この地を200年前に浄化したってなら、確かに界を渡った事で特殊能力が備わったんだよなぁ、きっと。やっぱ、召喚された時にチートが装備されてんのか。――とうことは。


「ステータスオープン!――って何にも出ねぇ、ギャーっ恥ずかしいっ」


 翔馬は右手を前に出して呪文を唱えるも何の反応もなく、一瞬呆けたようになった後、恥ずかしさから顔を真っ赤にし頭を抱えてしゃがみこんだ。


「恥ずか死ぬうっ。ステータスオープンってなんだよ、俺の中の中学二年生が仕事をし過ぎてるぅ」


 ラノベやゲームのように己のステータスを見られるものだと意気込んだ翔馬の言葉は、むなしく空を切った。大きすぎる空振りである。


「ショーマさま、あの、今の呪文は……」

「やめてっ。今のは無かったことにしてっ!赤っ恥が恥死量を超えちゃうから!もう既に瀕死だからぁ」


 しゃがみこんでいた翔馬はそのまま床に突っ伏し、身悶えながら懇願する。


「此度の来訪者さまは、先の方とはまた違った意味で奇矯……いや、風変わり……いやいや、個性的なお方のようにございますな」

「――個性の範疇で収まって下さるとよいのですが」

「いや、勝手に召喚した我々に敵対心や嫌悪感を抱かれていない様子であることを喜ばしく思いましょうぞ」


 いやいやをする成人男性を見守る男たちは小声でそう語り合うのだった。


 羞恥心で瀕死という訳の分からない状態に陥ってから15分。ようやく落ち着いた翔馬がうつむいたままゆっくりと立ち上がる。


「お恥ずかしいところを見せちゃってスミマセン」


「いえ、突然に異なる界への召喚でございます。混乱して恐慌状態になるのも致し方なき仕儀かと存じますゆえ」


 翔馬は混乱したのではない。己の突飛な行動で勝手に、しかも本人的には盛大にヘタこいたと不面目で居たたまれなかっただけである。


「ありがとう」


 蚊の鳴くような声で答えた翔馬に対し、ガーラント達は優しげに見えるよう努力した生温い笑みで応えた。


 



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