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聖女な私は人間が嫌いだ2

 聖女とは魔王討伐に必要な存在だ。聖女が現れれば魔王も現れ、魔王が現れれば聖女も現れる。どちらが先かは、この際重要ではないのでどうでもいい。とにかく魔王と聖女は、切っても切れない関係にある。


 私が聖女であって、まだ魔王が現れていないのなら、これから先確実に、魔王は復活する。


 ここで私は名案を思い付いた。私が聖女、これは婚約阻止に使えるかもしれない。魔王復活も大事なことではあるが、今の私にとってはこっちの方が重大だ。


 私が思いついたこの計画を実現させるには、セレンさんに協力してもらった方がいい。会ったその日にこんなことを頼むのはどうかと思わなくはないけれど、彼女なら協力してくれると確信があった。


「セレンさん、折り入って頼みがあります。私が聖女だというのなら、これを利用して、両親が決める婚約を阻止したいんです。協力してもらえませんか」

「うーん、望まない婚約を阻止したい、その考えは分からなくはありませんわ。面倒ですよね、結婚。私も存在感を消すために、お茶会や夜会には、さっぱり出ていませんし、はっきり言って考えたくありませんわ。でも私はリリア様の両親に雇われている身の上、裏切るようなことはできませんわ」


 そういう返答は想定済みだ。だから私は、彼女が食いつかざるを得ないような提案をした。


「このまま普通に、聖女であることが周囲に分かれば、私の魔術の家庭教師はセレンさんから変更になるかもしれません。でももし、セレンさんが協力してくれるなら、魔術指南役にセレンさんを希望します。金色の魔力を研究したくありませんか?」

「話を詳しくお聞かせください」


 かぶせ気味の即答だ。魔術オタクな彼女なら、必ず食いついてくれると信じていた。セレンさんに私が考える計画を伝えると、細かいところを詰めるために、知恵を貸してくれた。


「やるとなったら、全力でやり遂げるだけですわ。本日の授業はこれで終わりにいたしましょう。今日中に上層部に話をつけて、根回しをしておきますわ」


 言うだけ言って、セレンさんは慌ただしく帰路についた。


 翌日迎えに来てくれたセレンさんと一緒に、私は王宮に向かった。両親にはセレンさんの職場見学をさせてもらうと説明したが、勿論真の目的は別だ。


 王宮に到着した私たちは、準備されていた応接室に案内された。待つこと数分、本日の交渉相手である宰相閣下が現れた。


「本日は貴重なお時間を割いていただき、感謝申し上げますわ」

「君に国防に関する話と言われれば、割かないわけにはいかないだろう」

 

 セレンさんはそう話したのか。魔王に対抗できる聖女の話なのだから、確かに間違ってはいない言い方だ。


「宰相閣下、お初にお目にかからせていただきます。エレンターレ伯爵が娘リリアと申します」


 自己紹介して一礼した。緊張する。吐きそう。人嫌いな私が何でこんなことをしているのだろうとも思う。でも結婚したくないのだから、背に腹は代えられない。堂々と、堂々と言えば大丈夫。


「単刀直入に言います。私を聖女として、王宮で雇ってください」

「リリア様の魔力は金色でしたわ。彼女が聖女なのは間違いありません」

「聖女がこの時代に現れたのなら、今後魔王が復活するのは明らかです。いつ復活するか分からない魔王、それに対抗できる聖女が常に手元にある。王国にとって、悪い話ではないと存じ上げます」

「ふむ、魔王復活は由々しき事態だ。兆候があるのならば、対処せねばなるまい」

「魔王が出現した際には、全面的な協力をお約束します。ただしいくつか私から、条件を付けさせていただきたいのです」


 指を一本立てる。


「一つ目。先程も申しあげたように、聖女という役職で、王宮の職員として私を雇っていただきたいのです。無給ではなく、最低限貴族として生活ができる、常識の範囲内で給金をください」


 指を二本立てる。


「二つ目。国命として、私リリア・エレンターレの婚約禁止令を、出していただきたいのです。両親が私の意向を無視して、婚約を決めることがないように」


 指を三本立てる。


「三つ目。私は昨日魔力を知っただけで、魔術の基本さえ知らない未熟者です。本格的な魔術訓練を行わなければ、魔王討伐の際に聖女として役立つことはできません。そこで魔術の指南役に、彼女セレン・ナーデル男爵令嬢を指名します。この三つが私からの希望です。私の要望中に、ドアグニア王国にとって不利益となるものは存在しないと考えますが、いかがでしょうか」


 私の話を聞いた宰相閣下は考え込んだ。この契約を結ぶことで、どんなことが起こるか考えているのだろう。私が何かよからぬことを考えている可能性も、彼には否定できない。時が止まったように長く感じる。


「リリア様の言葉に他意や裏はありません。私が魔術契約を締結させることで、保障させていただきますわ」


 セレンさんの助け舟に、宰相閣下は首を縦に振ってくれた。正式な契約は陛下の判断を仰いでからだったが、正式な契約もすぐに成立した。私の要望は全面的に受け入れてもらえることになり、エレンターレ伯爵家には速やかに国命が伝えられた。


 魔王出現までの間、私は平穏な生活を手に入れたのだ。


 セレンさん達魔術研究員は、王宮に部屋をもらっていてそこで寝泊まりしている。私は特任魔術研究員(聖女)という役職になったので、勤務形態は屋敷からの通いに決まった。


 勤め始めて最初の内は、暗くなる前に帰宅していた。作業に夢中になることが徐々に増えていき、気付けば帰宅するには遅すぎる時間になっていることも少なくなかった。そういう時は、セレンさんが快く部屋に泊めてくれた。夜遅くまで二人で語らうのが、私は結構好きだった。


 屋敷に帰らない日が数日続いたときのことだ。


「リリア、家にはちゃんと帰ってきなさい」


 帰宅した私は、父に渋い顔で言われた。


「善処いたします」


 私は素直に、父の言うことを聞くようなことはしない。大事な政略結婚の駒だからそんなことを言うのだろうと、私の心はとても冷めていたから。


 セレンさんと手探りで金色の魔力を研究するうちに、魔獣に対する弱体化や、魔獣に対する防御結界、魔王や魔獣から発せられる瘴気の浄化が、金色の魔力の適正だということが分かった。どれも私固有の魔術であり、当面はこれらを集中的に伸ばしていくことになった。私も火や水を出したりしたかったのに残念だ。


 いつからかセレンさんは、私のことをリリアさんと呼ぶようになった。人間嫌いの私に友人ができるとは、世の中分からないものである。


 二人で研究に没頭する日々は四年間ほど続き、私が十六歳になった年、ついに魔王は蘇った。魔王出現の報は、国中に一気に広がった。魔王の出現によって、大人しかった魔獣は巨大化、狂暴化し、どんどんその数を増やしていった。


 このドラグニア王国の周辺には小国しかなく、魔王を討伐するなら、率先してドラグニアがやるしかない。歴史を振り返っても、魔王討伐を行ったのはいつもドラグニアだった。さっそく魔王を討伐するための人員が、速やかに選抜された。


 王宮の一室に呼び出されたのは、ほどなくしてのことだった。集められたのは私を含めて六人、目的は勇者パーティの顔合わせだ。聖女である私が最年少の十六歳で、続いて十七歳の勇者、他の皆は皆二十代前半と、実力と年齢の近さで選ばれたそうだ。年が離れていると、価値観が合わないとかなんとか。


 集められた私たちは、順に自己紹介していった。


「皆知っているだろうが、改めて自己紹介させてもらう。ジークラート・ドラゴノイズだ。パーティ内で身分を気にする必要はない。ジークと呼んでくれ」


 勇者として選ばれたのは、第三王子であるジークラート・ドラゴノイズ殿下だった。王宮に出入りしているので、何度かその姿を目にしたことはある。真っ赤に燃えるような髪と、鋭い赤い瞳が印象的な人だ。


 私が白い髪であるように、この国の国民の髪色は、白黒灰茶のうちのどれかである。それに対して、王族であるドラゴノイズ一族は、やたらに派手な髪色をしていた。赤青黄色等々、一堂に会されると、目がチカチカするような光景となる。


 そんな髪色で目立つ殿下ではあるが、見た目と王子だからという理由だけで、有名なわけではない。


 彼は異常に強いのだ。王族なので魔術が使えるのは当然として、細身の双剣を操る腕前は騎士団長と互角どころかそれ以上。魔術が使える者のほとんどは魔術だけを極めるが、彼の場合は魔術と剣術の両方を極めていた。控えめに言って、王国最強の魔術騎士だそうだ。


 顔合わせの場には、見知った顔もあった。セレンさんだ。目が合うと彼女はにこっと笑ってくれた。


「魔術研究所副所長を務めています、セレン・ナーデルですわ」


 今まで私が気にしていなかっただけで、セレンさん実はかなり優秀な人だった。『ふふん、リリアさんのおかげで出世したのだわ』と後でセレンさんが教えてくれた。知り合いがいてくれるのは、私としても心強い。


「神官のレクスです。皆様の足手まといにならないように、精一杯役割を果たさせていただきます」


 神官服に身を包んだ黒髪の男性はそう名乗った。貼りつけたような笑顔が、なんともいえず胡散臭い。神官というのは誰でも、こんな笑顔を張り付けているのだろうか。


 続いて黒いまっすぐな髪をポニーテールにした小柄な女性は、黒い襟巻で口元を隠したままで名乗りを上げた。


「平時は隠密に所属しておりますゆえ、本名は明かせませぬ。アンとお呼びくださりますよう。諜報闇討ち暗殺おまかせあれ」


 鈴を転がすような可憐な声に反して、話している内容は非常に物騒だった。魔王討伐でそれは必要なのかと、思わなくもない。そしてレクスがやたらに、アンを凝視していた。敬虔な信徒からすれば、許せない行いということなのだろう。


 最後に自己紹介した焦げ茶色の短髪の男性は、騎士団所属の騎士だった。


「リゲルだ。よろしく頼む」


 寡黙な人のようだ。そして仏頂面。実直に言ってしまえば、顔が怖い。


 私を含めたこの六人で魔王を討伐する。殿下、アン、リゲルが前衛で、私、セレンさん、レクスが後衛だ。役割としては、殿下、セレンさん、アン、リゲルが攻撃役で、レクスが回復と強化を、私が弱体化と防御結界と瘴気浄化を担当する。


 一通りの顔合わせが終わり、今日はもう解散ということになった。少し離れたところにいたセレンさんに、私は近寄って話しかけた。 


「セレンさんも選ばれていたんですね」

「リリアさんをびっくりさせようと思って、選ばれたのは内緒にしていたのだわ」


 悪戯っ子のようにセレンさんが笑う。普段とそう変わらないやり取りは、殿下によって中断させられた。


「俺はパーティ内で身分は気にするなと言ったはずだ。リリア、お前は協調性が無さすぎる」


 酷い言われようだった。少なくともほぼ初対面の顔合わせの日に、面と向かって本人に言うことではない。だいたい元々が知り合いなのだから、元々の呼び方で呼ぶのはおかしいことではないはずだ。


 恐らく殿下は自分の都合の良いように解釈したあげく、より身分の高い私の方に文句を言ったのだろう。旅に出る前から、先が思いやられる顔合わせとなった。

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