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第七話「一色家での攻防?(前編)」

「……まだみたいだな」


 今日の俺は妙にそわそわしている。

 自室から外の様子を数分置きに確認している。そして、その後はスマホのメッセージをも確認。

 これを交互に繰り返すこと数十分が経つ。


「まさかグループを組む日がくるとは」


 天澄の他に表示されている名前。

 紫之宮みいや。

 彼女が新たな友達になったことで、グループ機能を使うことができた。ちなみにグループ名は全力仲良し軍。命名紫之宮先輩。

 そこに残されている一文。


【というわけで、明日は作戦会議のために陣後輩の家に朝十時に集合!!】


 そう。なぜか次の日の休日を、俺の家で過ごすことになってしまった。いや、友達を自宅に呼ぶのは俺も嬉しい。

 だけど、どうなるか心配なんだ。

 天澄でさえ、不安要素があるというのに、更なる不安要素が増えてしまっている。まあ、あの元気のよさとコミュニケーション能力があればなんとかなりそう、だけど。


「あっ、メッセージ」

【そろそろ着くぞ、陣後輩!】

【今、一緒に移動しているの。あと、五分ぐらいかな?】


 どうやら後、五分で到着するようだ。

 そう聞くと、更にそわそわして心拍数が跳ねあがる。


「兄さん。なんか今日は落ち着きないね」

「友達が来るんだよ。だからちょっとな」

「へえ。ついにかー。誰? 細身なかっこいい系? ぽっちゃりなオタク系?」

「いや、実は……って、里桜。いつの間に」

「さっきから居たよー。というか、兄さんが連れてきたんじゃーん。忘れるなんてひどいぞー」


 ぐりぐりと俺の腹に顔を擦り付けてくる里桜。

 あー、そういえばそうだった。

 二人のことで、少し頭から抜けてた。


「それで、そのことお母さん知ってるの?」

「あっ」


 すっかり忘れていた。まずい。このままでは、大騒ぎになってしまう! 俺は慌てて部屋から出て、階段を駆ける。


 ピンポーン。


「はっ!? ま、まさか」


 階段をちょうど下りたところで、インターホンが鳴り響く。いやな予感を感じていると。


【やっほー! 到着したぞ! さあ、笑顔で出迎えてくれたえ!!】


 やっぱりだー!!

 

「はーい。今、出まーす。って、あら? どうしたの陣。あ、もしかしてあなたが出てくれるの?」


 そして、母さんがリビングから出現。


「兄さん。あたしを置いていくなんてひどいぞー。というか、もう友達がきたの?」


 更に、里桜までもが。


「え? お友達? もう! なによ、陣。そういうことは事前に言ってくれなくちゃ!!」


 と、叱ってくるが、とても眩しい笑顔になる母さん。そのままるんるん気分で玄関へと直行。


「あー! ちょっと母さん、まっ」

「いらっしゃーい! ようこそ、一色家……へ?」


 しかし、母さんを制止させることができず、玄関のドアは開く。


「邪魔するぞ、陣後輩!!」

「お、お邪魔します」

「……ふふ。もう、陣。この子達、家を間違ってるみたいよ」


 いや、母さん。明らかにさっき俺の名前を呼んでたよ。

 

「美少女が、二人? に、兄さん?」


 おっと、滅多に動揺することがない里桜が動揺している。

 やばいやばい。早いところ説明しないと。


「あのさ、母さん。この二人は」

「あっ! 女装!!」

「それだ!!」

「ちがーう!! いいから、俺の話を聞いてくれ!! というか、まず中に入ろう! ほら、二人とも!!」

「ほーい」

「あはは。相変わらずだね。なんだか懐かしいなぁ」


 これ以上、外で騒ぐと近所迷惑になるので、とりあえず二人を家に入れる。


「それじゃあ、改めて自己紹介を」


 なんとかリビングまで連れていき、席に座らせる。

 席順は、俺から見て右側が天澄と紫之宮先輩。

 左側が、母さんと里桜になる。

 まるで、取り調べをするみたいな空気の中、俺が進行役として進める。


「あ、天澄ゆえりです」

「紫之宮みいかだ」

「それで、俺の家族の」

「一色梨沙子よ」

「一色里桜、です」


 さて、互いに自己紹介は終わった。問題はこの後だ。慎重に進行しなくては。


「それで、母さん。この二人との関係なんだけど」

「男友達ね」

「女装のセンスが半端ないよね」

「だから女装路線はやめろって! 二人とも正真正銘の女の子だから!」


 これも、俺がこれまで友達を家に呼び出さなかった影響か。クソガキ時代は結構呼んでいたが、だいたいが男。

 女子は……由果だけ。まあ、昔は気づけなかっただけで、天澄もだけど。ともかく、俺は女子を家に呼んだことが極度にない。それに加えて、高校生になってようやく友達を呼び、それが女子二人。

 これには母さんも、里桜も驚きで思考が若干おかしくなっているのだろう。


「まず、天澄から紹介するけど。……二人は、もう天澄と会ってるんだ」

「え? どういうこと、兄さん」

「こんな可愛い子と会ってたら一生忘れないはずなんだけど……やっぱり歳かしら」


 当然の反応、と。さて、真実を知ったらどうなる? 二人に会っただけでこれだ。

 天澄の正体を知ったら……。


「きっと驚くぞ。俺も最初は、驚きまくったからな……実は、天澄は昔きんって名乗っていたんだ」

「……きんって。あのきんくん?」

「うーん、あたしはちょっと曖昧……でも、金髪だったってことは覚えてる」

「ああ。そのきんだ」

「もう、陣。冗談ばっかり。きんくんは男の子でしょ? でも、ゆえりちゃんはどう見ても女の子じゃない」


 さっきまで女装男子とか言ってたが、ようやく受け入れてくれたか。でも、目の前に居る天澄がきんだってことはまだ受け入れられないようだ。

 大方予想通りだ。


「俺も最初は信じられなかったけど。マジなんだよ」

「……またまたー。だって、陣てばきんくんと一緒にお風呂に入った中なのよ? もし、それが真実だったらそこで女の子だって気づくはずでしょ?」


 母さんからのとんでもない過去爆弾が投下。

 それを食らった天澄は、ぼっ! と一瞬にして顔が赤くなってしまう。俺も天澄ほどではないが、体温が上昇する感覚を覚える。

 

 そうだ。そうだよ。

 俺達は、昔一緒に風呂に入った。けど、あの時の俺は女子の裸というか下半身を見たことがなかったから。


『おい、きん。お前、ちん○ねぇじゃねぇか! 切られたのか!?』


 なんて馬鹿な発言をしたのを思い出した。

 今思えば、あの時のきんは様子がおかしかった。あれは、女を捨てたと思っていたが、やっぱり女の子としての羞恥心が残っていて、俺と風呂に入るのが恥ずかしかったのだろう。


 その後すぐにあの出来事がなければ、どうなっていたか。

 もしかしたら、そのままずっと妙な態度のままだったかもしれない。本当、あの頃の俺って馬鹿だったな……。


「あ、いやそれは俺が馬鹿だったからで……ともかく! きんは実は女の子で、本名は天澄ゆえりだったんだ!!」

「……」


 俺の叫びに、母さんはじっと天澄を見詰め、無言で立ち上がる。

 何をするんだ? と思った刹那。


「ぴゃあ!?」


 野獣のごとき眼光。

 素早い突きにて、天澄の胸を鷲掴みにした。俺は驚き、紫之宮先輩はわーおと声を漏らす。

 そして、里桜はなぜか自分の胸を揉んでいた。


「あああ、あの」


 あまりの行動に天澄は、どうすればいいのかわからず硬直。

 視線だけ、俺に向け、助けを求めている。

 

「お、おい母さん。いきなりのセクハラは」

「大きい! 柔らかい! 張りがある!! 完璧な……巨乳!!」

「え? あの、その」

「これが、昔美少年と思っていた子の胸……」

「か、母さん?」


 なんだか微妙な空気になってしまっている。

 

「成長したわね」

「は、はいぃ……」


 などと我が子が成長したのを喜ぶ親の顔をしながら、胸を揉む母さん。


「いいから、手を離せって!! 揉むのをやめろ!!」

「兄さん! あたしも、これぐらいの歳になればばいんばいんだぞ!」


 なんか里桜が謎の対抗心を。


「でも、里桜は私の子供だから……」

「希望はない?」

「た、助けてぇ……!」


 いいから、さっさと胸を揉むのをやめてくれ。

 話が進まないってば……。


「はっはっは! なかなか楽しい家族だな、陣後輩」


 否定はしません。

 けど、今は少しテンションを下げてほしいですよ、紫之宮先輩。

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