第六話「もっと前に」
毎回作品を投稿する時に思うのですが、皆の反応が気になってドキドキしてます。
これってあるあるですよね?
「えー、ではさっそくですが。私達三人はこれから絆を結び、青春を謳歌しようと」
「あの!」
「はい! なにかね! 後輩くん!」
どうしてこうなったのだろう。
俺達はただ思い出の場所に遊びに来ただけなのに。
俺達の前に突如として現れた小さな先輩こと紫之宮みいか先輩。彼女は、どういうわけか俺達と友達になりたいと言い出した。
シートを敷き、その上に座り込んで、どこからともなく出したホワイトボードにでかでかとあたし達は友達! と書いて演説を始めようとしていた。
しかし、勇気を出して俺は割り込む。
「どうして、先輩は俺達と友達になろうと?」
「え? いや、なのかい?」
あぁ! そんなうるうるとした上目使いは!
「いやじゃないです!」
「それはよかった!!」
「あ、いやですから! 俺達とどうして友達になりたいかという理由をですね」
「それは簡単だよ。長年、私は君達と友達になりたいと思い続けていたから、それをついに実践しただけのことだよ」
その言葉に、俺も天澄も疑問に思い、つい顔を見合わせてしまう。
「いやぁ、女の子らしくなったよねぇ。きんくん」
「へ? なな、なんでその名前を!?」
確かにそうだ。
あの頃の天澄は、きんと名乗っていたが、誰かに言いふらしたりはしていない。
そもそも、きんは俺がつけた名前だ。俺以外に知っているとしたら、俺の家族ぐらい、だと思うんだが。
「ふふーん。少し、昔話をしよう。というわけで、これを見たまえ!!」
と、スマホを突き付ける。
画面に写っていたのは、前髪で目を隠し、どこか人見知りな雰囲気を感じる少女。
着ている服は、西洋人形を思わせるフリルが多目の黒いドレス。
あれ? なんかデジャビュ?
「まさかと思いますけど、この子って」
「昔の私だ」
やっぱりか。その真実に、俺は隣の天澄を見る。
「あ、あはは。なんか親近感」
苦笑いをして、ぽりぽりと頬を掻いていた。
それにしても、天澄の時もそうだが、画面に写っている子と先輩が同一人物だとは誰が思うか。
「とまあ、昔の私を知ってくれたところで。さっそく話そう」
ぱちんっと指を擦ると。
「では、片付けておきます」
「うおっ!? だ、誰だ!?」
突如として森の中から、執事服の男が現れ、紫之宮先輩が出したホワイトボードを下げようとする。
「私の執事。名前は近藤央。歳は二十三歳。家事全般をこなす男食家だよ」
「央と申します。みいかお嬢様と仲良くして頂けると嬉しいです」
「あ、はい」
ん? 気のせいか。なんか紫之宮先輩の紹介の最後に妙なキーワードが出てきたような。
じっと、近藤さんに視線を送ると、さわやかな笑顔を向けてくる。
うん、さわやか、なんだけど……。
「では、僕はこれで」
「ごくろう!」
「また何かあれば、いつでもお呼びください」
まるで闇に溶けるように、近藤さんは姿を消す。
「ね、ねえ一色くん。私、本物の執事さん初めて見たよ」
ぼそっと、俺の耳元で囁く天澄。
結構近かったので、かなり息がかかりぞわっと身が震えるが、何事もなかったかのように俺は首を縦に振る。
「俺もだ。じゃあ、紫之宮先輩って」
「お金持ちのお嬢様だよ。でもまあ、そんなことはどうでもいいのだよ諸君」
いや、どうでもよくはないと思うんですが。
「今、重要なのはあたしの過去を知ってもらい、より深い絆を構築する! 私にとってはそれが最重要!! ね!!」
ぐいっと鼻がくっつくぐらいまで顔を近づけ、笑顔で訴えてくるので、俺はあ、はいと折れる。
「うむ。では、さっそくだが聞いてくれたまえ。昔の私は、本当に人見知りだった。お金持ちの次女として生まれた私は、親に姉に兄に、甘やかされて生きてきた。こういう生活をする者は、よく自信過剰になったり、世界は自分に味方をしていると勘違いしてしまう」
まあ確かに、そう、なるのかな? 昔の俺もそうだったのかな。
家族は俺に甘く、今も甘やかしている。
だから、俺もあんなクソガキになったんだろうか。
「けど、私は性格が控えめで、ひどいあがり症だったわけだ」
「今の先輩からは想像できませんね」
「だろ? しかし、そうだったのだからしょうがない。だから、友達がなかなかできなくてね。本当は友達が欲しいと思っているのに」
性格のせいでできない。
今の俺達みたいな感じか。
「そんな私は、ここによく訪れては考え事をしていた。ここは、とても神秘的な場所だからね。ここに居ると気持ちが落ち着く」
それは同意だ。
この森には気持ちを落ち着かせ、安らぎを与えるような不思議な力があるというのは有名だ。
「だから、ここに来ては友達を作る練習をしていた。友達になろう! 一緒に遊ぼう! とか発声練習は欠かさなかった。そんなある日だ。少年二人が現れた!」
「それが、私達?」
「その通り! 当時の私は、急いで物陰に隠れた。そして、二人を観察した。どこまでも楽しそうに、どこまでも自由に。そこからだ。あたしは二人に興味を持ち、ずーっと観察し続けた」
え? 観察?
「なんかさらっと言いましたけど、それって」
「ストーカーではない! 観察だ! いいかね? 観察!! 観察と言ってくれたまえ!!」
「あ、はい」
「そ、そうですね。観察、ですね」
本当に昔は人見知りで、あがり症だったのだろうかこの人。
「結論から言うと、私はこの二人と友達になりたい。この二人のように自分に自信を持ちたいと思うようになった。だが、簡単ではない。性格を、自分を変えるのは。ゆえに、数年を使ってしまった。今の私になった頃には、二人もすっかり変わってしまって……」
先輩ほど変わってはいないと思います、たぶん。
「今すぐにでも友達になりたかったけど、君達は必死に自分を変えようと努力をしていた。だから、私はしばらく待った」
「でも、高校が一緒になるなんて」
「賭けだったね。まあでも、もし私が選んだ高校に来なかったら転校していたさ」
そこまでして、俺達と……なんだか、嬉しいんだけど。
愛が重い、みたいな感覚が。
「とまあ、ここまで話したが。この気持ちを一言でまとめるなら」
笑顔で、俺と天澄の間に割り込み、肩に手を回す。
「友達になりたい!!」
「俺達としては嬉しい提案ですけど。本当に俺達とで、良いんですか?」
「私達、色々と」
「関係ないさ。それに、これから変えていけば良いだけの話だろ? さあ! 私達の青春物語はここからだ!! 諸君!!」
こうして、俺達に新しい友達が増えた。
知らずして、また人生を変えていた人が。
そして、俺は感じた。
俺達の青春は、この人の影響で一気に爆発するだろうと。
「では、さっそくだが。昼食としよう。私もこうして弁当を持参してきた。おかず交換といこうじゃないか!!」
「あはは。そうえいばすっかり忘れてたね」
「だな」
でも、悪い気はしない。これはいい機会だ。いつまでも、前に進まないなんてダメだ。
俺は、変わろうって誓ったんだから。