第五話「慣れてきた頃に」
天澄と友達になって、もう五日が経とうとしていた。
毎朝電車の中で、メッセージで会話をし、学校ではこそこそと会って昼飯を食べたり、授業や日常の話をしたり。
そして、放課後はどこかに寄り道をしたり。帰りは、同じ高校の生徒がいない時もあるので、普通に口で会話をしたりと。
なんだろうな。
まるで、付き合い初めた恋人同士の恋愛みたいな感じになっているのは気のせいだろうか。
「ん? 天澄からか」
風呂から上がり、自室に入るとちょうどいいタイミングでメッセージが届く。
【こんばんは。今、大丈夫かな】
スマホを手に取り、俺はベッドに腰かける。
【ああ。どうしたんだ?】
【明日、休日だからその…】
まさか。
【一緒に、どこかに遊びに行くか】
先読みをした俺は、そうメッセージを送る。
すると。
【うん!】
嬉しそうにメッセージを返してくる。
【それで、どこに行くかだけど】
【それなんだけど】
【ん? どこか行きたいところがあるのか?】
【うん】
天澄が提示した場所は。
・・・
「お、お待たせ」
「今日は遅かったな」
待ち合わせの場所で待つこと十五分。
今日はいつもより風が冷たく、途中で缶コーヒーを購入した。
そして、飲み終わった頃。
私服の天澄が息を荒くして近づいてきた。
「えへへ。ちょ、ちょっと」
「……その服、可愛いな」
「え? あ、ありがとう……」
白の縦ラインのセーターと赤のスカートに黒いタイツ。
今日は肌寒いからちょうどいい服装だろう。
背中に背負っているのは、少し大きなリュック。中身は、事前に知っているから俺はくすっと笑う。
「気合い入ってるな」
「そう、かな。……そうかも。久しぶりにここを一色くんと歩くんだから」
俺達が訪れたのは、昔二人でピクニックに訪れた森。電車で四十分ほどの移動をする。
俺達は、集合したところで電車に乗り込む。
その間は、周囲を気にしつつまったりと移動。
途中、知った顔が途中の駅に見えたので、気づかれる前に別の場所へ逃げる。
「ふう。危ないところだった」
「なんだか、いつも神経使うから疲れちゃうね」
「できれば、そうなりたくはないんだけどな……俺達がへたれなばかりに」
「そ、そうだね……」
もし、俺達が普通に接しているのを見たらどう見えるだろう? もしかしたら呆気なく受け入れるんじゃないだろうか。
そもそも、なにもしていないのにイメージや噂だけで俺達のキャラ設定が決められている。
「本当は、友達がほしいだけの寂しがりやって知れば、周囲の認識も変わるかもな」
と、俺は苦笑しながら呟く。
「そうだといいね。そうすれば、こうやってこそこそしながら一色くんと遊ぶことだってなくなるかもだし」
とはいえ、昔みたいに弾けるのはだめだ。
いや、弾けるにしても周囲に迷惑をかけないようにしなければならない。
弾けなければ、青春というものは謳歌できない。
たぶん。
「その辺り、課題だな」
「うん。あっ、見えてきたよ。わー、懐かしいなぁ」
これからのことを会話しながら歩くこと二十分。
昔より少し生い茂っているが、ほとんど変わらない。
思い出の森へと到着した。
ここは人々が森林浴に利用するところで、道はよく整理されており、空気もうまい。
「今日はいい天気だからな。森林浴にもちょうどいい」
しばらく無言のまま俺達はただただ歩いていた。
あの日からずっとこういうところには来なかったからな。昔のこともあって、つい無言になってしまう。
「あっ、見て一色くん。あの石」
「お? これ、まだあったのか」
見つけたのは、昔訪れた時にも見つけた丸い石。
「あの時は、ここまで丸い石は珍しいからって」
「うん。持ち帰ろうとしたよね私達」
でも、結局俺達には重すぎて持ち帰ることはできなかった。
それで、もう少し成長して力もついたら持ち帰ろうって約束したんだっけ。
「今なら、俺一人で持てるかもな」
「え?」
そう思った俺は、よし! と気合いを入れて丸い石に手を添える。
「よいしょっと」
「す、すごい! わー! 力持ち!」
「まあ、これでも色んな格闘技をやってきたし、今でも筋トレは欠かさずにやってるからな」
昔は二人でも持ち上げられなかったが、今では一人で軽々と持ち上げられた。
「けど、持ち帰るのはやめよう」
「そうだね」
さすがにこの歳になって石を持ち帰るのは恥ずかしい。
「電車の中で、こんなものを持ってたら目立っちゃうもんね」
互いに小さく笑い、俺達は前に進む。
「もうちょっとだな」
森林浴も楽しみつつ進み、どれほどが経っただろうか。
懐かしさと楽しさで、時間が経つのを忘れていた。
けど、確実に前へ進んでようやく到着した。
「到着だね」
森を抜け辿り着いたのは、濁りがなく、どこまでも透き通った水が滝となって流れ落ちる場所。
そこの近くに一本の木が生えていて、昔はそこで弁当を食べたんだ。なので、今日もそこで弁当を食べようと思っている。
「あ、あれ? 誰かいる」
「え?」
しかし、先客がいた。
「やっほー。待っていたよ、君達! さあ、こっちに来たまへ!」
「え? え?」
思い出の場所に居たのは、俺達か下の少女。
黒いツインテールに、ボリュームのある帽子を被り、リボンのついたどこか子供っぽい制服のような服を身に纏っている。
「だ、誰? 天澄知ってるか?」
「えっと、見たことある、ような。ど、どこだったっけ……」
「君達の先輩だよ! いえーい!!」
「マジで!?」
「あー!! 思い出した! そう! そうだよ! 入学した時、なんだかやたらと話しかけてくる小さい先輩!」
衝撃の発言に、俺達は驚きの声をあげる。
どう見ても年下にしか見えない少女が、俺達の先輩? え? でも、その先輩がどうしてここに。
たまたま、じゃないよな。さっき、待ってたって言ってたし。
「そう。小さいけど、年上。幼く見えても、君達よりお姉さん! その名を、紫之宮みいか!! 今日から、君達を私の友達に任命する!!」
やっと、天澄との友達関係も慣れ始めてきたというのに。
ここで新たな友達? それも、かなりキャラが濃いぞ。
こんな人が、現実に居るとは。