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第三話「改めて」

 次の日の朝。

 電車に乗ると、天澄と視線が合う。

 だが、会話はなくそのまま電車は走る。何事もなく駅に辿り着き、俺はいつも通り学校へと向かう。

 

 どうやら天澄は、我先にと学校に向かったようだ。

 もしかして、俺を避けてる?

 でも、昨日は友達になってくれって言ってたし……恥ずかしがってる?

 

 学校では、いつも俺は天澄の背中を見ている。

 彼女の後ろ席ということもあるが、なんだか昨日のことがあったから、今度は俺が天澄を見てしまっている。

 けど、そこでちらりと天澄が後ろに目をやると、視線が合う。

 すぐそらしてしまうけど。

 そんなことが続き、下校時間となった。

 天澄はもう帰ったようで、鞄がない。


「ん? これは」


 机の中から、白い紙が少しはみ出していた。なんだろうと確認すると、天澄からのメッセージだった。



・・・



 天澄のメッセージ通り、俺は学校から徒歩で三十分ほどかかる喫茶店へと訪れた。

 からんからんと、心地良い音色と共に、店員のお姉さんが近づいてくる。


「いらっしゃいませ」

「えっと、待ち合わせ、なんですが」


 店を見渡し、端の目立たない席に天澄を発見した。そして、俺は天澄の向かいに腰掛ける。と、


「……」

「……」

「ご注文はお決まりでしょうか?」


 しばらくの沈黙の後、店員さんが注文を聞きに来たので、俺はホットコーヒーを注文する。

 

「それで」


 店員さんが遠ざかった後、俺は切り出す。


「昨日の続きってことで、良いんだよな?」


 昨日の続き。

 つまりは。


「……うん」

「その前に聞きたいことがあるんだが」


 ぴくりと肩が跳ねる。


「どうして、俺と?」


 昨日も聞いたが、聞いておかなければならない。何の接点のない俺と、損しかしないはずの俺とどうして友達になりたいと思ったのか。

 なにもメリットはないはずだ。

 俺にはメリットはあるけど。

 こんな美少女と友達になれるなんて、高校生活一週間にして青春を謳歌する第一歩となる。

 しかし、彼女にとってはマイナスになる。

 俺なんかと仲良くしていれば、またあらぬ噂が増えることまちがいなし。


「なんというか……その」


 しばらくもにょもみょと口ごもった後、スマホを取り出し、操作する。


「……これ」


 天澄は画面にとある写真を写し出した。

 そこに写っていたのは、金色の短髪に碧眼。むすっとした表情、半袖に半ズボンとどこかやさぐれている少年だった。

 あれ? この少年、どこかで。


「……きん?」


 それは、俺がまだクソガキだった頃。

 周囲と違って、やけに派手な髪の毛と目を持った少年が居た。そいつは、他校の小学生で俺と同じく馬鹿をして、周囲を困らせていた。


 だから、俺は対抗心を燃やし、何度も何度も追突。

 最初こそ、気にくわない奴だと思っていたが、次第に気が合う悪友と認めあっていた。

 ちなみに、きんとはあだ名で、本人はどうしても本名を教えてくれなかった。けどまあ、そんなことは些細なことだとあの頃の俺は気にしていなかった。

 

 それからは、共に馬鹿なことをやったり、家に呼びお泊まり会なんかをやったり。

 幼馴染である二人とは違った絆が生まれた奴だった。

 けど、あの出来事以来、きんとは関わっていない。俺のほうから突き放したんだ。


「どうして、こんな写真を。まさか、弟?」


 天澄もきんと同じ金髪碧眼。

 弟だとしたら、俺のことをきんから聞いていてもおかしくない。

 だから、俺と友達になろうと? いや、待て。確か、きんは俺と同い年だって言っていた。

 てことは双子? ……もしくは。


「ううん。実は、これ昔の私なの」

「え?」

 

 衝撃の事実に、俺は何度も今の天澄と写真を見比べる。

 本人が言うのだからそうなのだろうが。

 誰も写真に写っている完全に少年な子が、今目の前に居る美少女だとは見抜けないだろう。

 俺のように弟とか、親戚の子とかそういう答えになるはずだ。それほど今と昔との姿が違いすぎるのだ。


「あ、天澄があのきん?」


 目の前で、気はずかしそうに微笑んでいる美少女と、昔一緒になって馬鹿をしていたガキ大将が、同一人物?


「昔の私は、この金髪と目のせいでよく虐められてたの。可愛い服を着ても、汚されたり、隠されたり。髪の毛にいたってははさみで切られたり……」


 そういう差別は聞いたことはあるけど、まさか天澄が。


「そのうえ、お父さんが交通事故で死んで。お母さんは、一人で私を育てて過労で……色んなことがあり過ぎた私は、こんな風にぐれちゃったんだ」


 店員さんが、運んできたコーヒーを飲むことを忘れ、俺はただ天澄の過去話に耳を傾けていた。


「可愛い洋服も止めて、髪もばっさりと切って……ガキ大将みたいな感じだったよね、この頃の私。一人で、誰も信じないって、馬鹿やってた。そんな時、一色くんと出会って、ちょっとずつだけど孤独が和らいでいったの」


 そうだ。最初にきんと出会った時、子供なのに人生に疲れたみたいな闇を抱えたような目をしていたのを今でも覚えてる。


「楽しかった。一人で馬鹿をやるよりもずっと。……でも、周りのことを考えずに馬鹿なことをやると、はね返りがくる」


 その言葉に、俺は昔の俺を思い浮かべる。

 

「引き取ってくれたおばさんが、私の馬鹿のせいで壊したものの弁償とか諸々で、お金がどんどん減って、一軒一軒謝罪までしてくれたの。それなのに、私の頭を笑顔で撫でてくれた。優しく言葉をかけ続けてくれた。それで、私は、反省した。変わろうと思ったの。そんな時、タイミング良く一色くんが、俺はもう馬鹿はやめるって宣言してきたから、余計に真面目になろうって」


 そうか、天澄もやっぱり俺と同じで、自分を変えようと。

 というか、俺は知らずに天澄を助けていたのか……。


「それからは、また女の子らしく髪の毛を伸ばしたり、可愛い服を着たりして。勉強も真面目にやって……でも、うまくいかなかった。一緒に馬鹿をやっていた子達は、急に真面目になったから完全に白けちゃったみたいなの」


 容易に、そのことが目に浮かぶ。

 俺の時も、そういう感じの奴らが多かった。まあ、それでも俺のことを友達だって思ってくれる奴らも居たけど。


「それでも、耐えて耐えて、耐え続けた。それで、私は一からやり直そうって思って、遠い高校に受験したんだけど……えへへ」


 なるほど、俺と同じか。

 

「ん? 待てよ。天澄、お前。結構前から俺に気づいていたんじゃないか? どうして、話しかけてくれなかったんだ?」


 俺は、天澄のことをきんだとは気づけなかった。

 しかし、俺は天澄にフルネームを教えていた。

 だから、入学前から昔一緒に馬鹿をやっていた俺だって気づいていたはずだ。


「え? そ、それは……だって……」

「だって?」


 めちゃくちゃ視線を泳がせてる。


「恥ずかしくて、話しかけられなかったの……昔と違って、意識しちゃってたから。で、でもあの時、助けてくれたことをきっかけにやっぱり話しかけようって、そう思って、ですね……」

「……そ、そうか」


 なんだろう、こっちも急に気恥ずかしくなってきた。

 

「じゃあ、とりあえず」


 と、俺は自分のスマホを取り出し。


「友達、なるか」


 俺の連絡先を天澄に見せた。


「へ? あ、はい……」


 こうして、俺は天澄と改めて友達になった。

 でも……なんだかなぁ。

 天澄が、昔一緒に馬鹿をやっていたガキ大将だって知ってるから……ど、どうすればいいんだ?


「てか、最初に話しかけてきた時、もしかして、きんになりきろうとしていたのか?」

「う、うん。でも、やっぱり意識しちゃって無理だったみたい……あははは」


 今じゃ、互いに成長したから、さすがに昔みたいにいかないよな……。

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