第四話「頼ってくれ」
「来週は、ついに六月ということで。皆の衆、雨には気を付けるように!」
「これこれこころさんや。そういうのは後々。今は」
「うむ! 今は」
「このショッピングモールを楽しむぞー!」
「うぇーい!!」
俺が住んでいる梓川町にショッピングモールが造られた。
前々から大々的にテレビでも紹介されており、ついに完成した。本来ならゴールデンウィーク前には完成する予定だったのだが、一か月ほど延びてしまったんだ。
多くの人々が、ゴールデンウィーク中に行ける! と盛り上がっていたから残念がっていた。
それが、五月の末に完成し、俺達も休みを利用して訪れている。
ちなみに紫之宮家は、スポンサーの一人だとか。
「今日からここが梓川町の目玉のひとつとなる! 見たまえ! この客の数々!! 梓川町民だけではなく隣町や他のところからも来ている!!」
「おー、ゲームセンターありますよ!」
「映画館もあるんすね。けど、もう観たいやつは観ちゃったからなぁ」
楽しく話し合いながら、とりあえず歩いている。
前を紫之宮先輩、佐々倉、筒田の三人が歩き、その後ろを俺と天澄が続く。
「す、凄いね。こんな大きなところ初めてかも」
「ああ。確かに、これは目玉になりそうだな」
駐車場もショッピングモールの周りだけではなく、ところどころにある。
四階建てで、佐々倉達が言ったゲームセンターや映画館は二階にあるようだ。
「これは、ゴールデンウィーク前にできなかったのが本当に残念に思えるほどだな」
「もし、ゴールデンウィーク前にできてたら皆で来れたのにね」
その辺は仕方のないことなのかもしれない。
予定通りにならないことはよくあることだ。特に建築物などは、その規模が大きければ大きいほど色々とチェックしないといけないだろうし。
もし、なにか問題があって、事故でもあったらことだからな。
「わっ」
「っと。大丈夫か? 天澄」
「う、うん。やっぱり人が多いから、よそ見できないね」
人と接触してしまい、バランスを崩した天澄を支える。
大型のショッピングモールとはいえ、気を付けないといけない。
「あ! 二人がラブコメ展開になってますぜ!」
「こらー、イチャイチャすんなー」
「し、してないよ! こ、これはバランスを崩したのを一色くんが」
「慌てるところが怪しいぞー、ゆえり」
「本当のところはどうなんですか?」
「も、もー! 本当にそういうのじゃないんだってば! 二人の意地悪!」
二人がかりで天澄をからかう光景が当たり前になってきている。
それだけ仲良くなったということだろうが。
天澄にとってはちょっと本気になってしまっているところもあるな。
「にゃはは。ごめんってば。よしよし、泣かないで。な?」
「もー、可愛いなぁゆえりはー。うりうり」
「むう……」
そんな光景を眺めていると、紫之宮先輩が隣に来る。
「今後も楽しみだね、陣後輩」
「……そうですね。ん?」
メッセージが届いた。
誰だろうとスマホを手に取り確認すると……由果からだった。そういえば、秋久とここでデートをするって言っていたな。
まさか、なにかあったのか?
「……」
メッセージと同時に送られたきた写真。
そこには、秋久がかけていた眼鏡が写っていた。
レンズが割れた状態で。
【秋久が再起不能になった】
それだけだと何があったのかわからないだろ。
【なにがあったんだ?】
とメッセージを返すと。
【人にぶつかって、そのまま眼鏡が吹っ飛び、踏まれた】
なるほど。厄介ごとに巻き込まれていなくてよかった。
【あいつ相当目が悪いから、お前がちゃんとフォローしてやれよ】
【わかってる】
災難だったな、秋久。
幼馴染の不幸を悲しみつつ、俺はスマホをポケットにしまった。
「なにかあったのかい?」
「まあ。大事ではないようなので」
秋久にとっては大事だと思うけど。
「お? 可愛い服あるじゃん! おーし! ゆえり突撃だー!」
「あ、ちょっと待って!?」
「行くべ行くべー」
三人は、女性用の服専門の店へと突っ込んでいく。
「陣後輩はどうする?」
「いや、さすがに」
「なに。恥ずかしがることはない。男性の意見というものも大切だからな」
「……すみません。近くの小物屋に居るんで」
そうは言われても、俺だって男だ。
自分で言うのもなんだが、俺は高身長で体格も良い。絶対に目立つ。特にあの四人と一緒に居ると余計に……。
「ああ、終わったら三人を連れて行くよ」
「お願いします」
紫之宮先輩に、頼み事をして俺は近くにあった小物屋へと向かう。
「わ! これ可愛くね?」
「え? きもくない?」
俺と同じぐらいだろうか。髪の毛も染めているようで、随分と派手な色だ。バッグにも色々とつけており、ネイルや化粧も。
佐々倉と筒田はギャルっぽいってだけだったが、完全にイメージ通りのギャルが、若干キモイ人形を見ていた。
三人組のようで、二人が楽しそうにしている中、後ろに居る茶髪の子はどこかつまらなさそうというか、沈んだ雰囲気がある。なにか嫌なことでもあったんだろうか。
「お待たせー!」
それから数十分ほどが経ち、四人が訪れた。
もっと時間がかかるかと思ったが、意外と早かったな。
「早かったな」
と、丸い石に竜が巻き付いたキーホルダーを手に持ちながら言う。
「いやぁ、今回はざっと見るって感じでね」
「まだまだ見るところいっぱいあるしね」
「次はどこに行こうか、皆」
「……」
ん? 天澄はどこを見て……さっきのギャル達か。どうやら次の店に行くみたいだが。
「どうかしたか? 天澄」
「え? あ、ううん。なんでもないよ」
そう言う天澄だった、その後も考える素振りを見せる。
他の三人も気にしているようで、俺が率先してもう一度問いかけた。
「天澄」
「どうしたの?」
「なにかあるなら、言えよ。……もう昔の俺達じゃないんだから」
一人で抱え込んで、一人でなんとかしようとして。
その結果、周囲から勘違いされてしまう。
けど、今の俺達は変わった。
友達ができて、心配してくれている。
「……うん、そうだね。ごめん、一色くん」
「別に謝ることじゃないって。それで、さっきの三人に何かあるのか?」
「実は―――」