第二話「あの頃と今」
「い、意外と強かった……」
「ゆえり、あんた……ほんとなんでもできるんだね」
昼間言った通り、俺達は学校帰りにゲームセンターへと寄っていった。
隣町の方は、何度か通りかかっただけで、結局一度も行ったことがなかった。
どんなものかと気にはなっていたが、佐々倉と筒田は自宅が近くにあるから昔からよく通っていた行きつけのゲームセンターらしい。
そして、入ってすぐ天澄と佐々倉、筒田がダンスゲームをやったり、格ゲーやエアホッケーなどで対戦したのだが……惨敗である。
天澄は一度もゲームセンターに行ったことがなかったらしく、前プリクラを取りに行った時も子供のように周りを見ていた。その時は結局プリクラだけで他のゲームには触れていなかったから、俺達は驚愕した。
「えへへ。凄く楽しかった」
「ご機嫌だね、ゆえり後輩。だが、楽しそうで何よりだ!」
「くそー! 負けっぱなしは悔しいー! よーし! 今度、陣くんの家でゲーム大会だー!!」
「なんで俺の家!?」
すっかり溜まり場のひとつとなってしまった一色家。
家族も大歓迎しているから、拒むことはできない。
「だって、陣の家めちゃくちゃゲームあるじゃん」
「まあ、確かに……そう、だけど」
父さんがゲーマーということで、昔から色んなゲームを購入していた。保存もしっかりしているから、古いゲームも時々起動して対戦している。
「それに、最近新しいお菓子のレシピを考えたから里桜ちゃんに食べさせたいしー」
「お前のせいで、里桜がまたぷよぷよ具合が加速してしまってるんだが」
「だって、食べる里桜ちゃん可愛いしー。私も、色んなお菓子を作れて楽しいしー」
筒田はすっかり里桜を甘やかしている。
里桜も里桜で、お菓子を食べさせてくれる優しいお姉ちゃんと認識してしまい、筒田が来ると「おかしー」と甘える声を出す。
「おやおや? もしや可愛い妹を盗られた気分ってやつ? お兄ちゃん」
何を思ったのか佐々倉がにやついた顔で絡んでくる。
「ば、そういうんじゃ」
「ほほう? シスコンシスコンとは思ってはいましたが」
筒田も便乗して、俺に絡んでくる。
くそ、本当こいつらのにやついた顔むかつく。
「お、俺はただあまり甘いものを食べ過ぎるのはよくないっていうか。体調面を心配してだな」
「確かに、あまり甘いものを摂取し過ぎると糖尿病になる危険性があるからね。陣後輩の言い分は、間違ってはいないが……本当にそれだけかな?」
「し、柴之宮先輩まで」
今回は、二人だけではなく紫之宮先輩まで絡んでくる。
「い、一色くん! 大丈夫だよ!」
そんな中、天澄がこんなことを言ってくる。
「妹を、家族を大事にするのはおかしいことじゃないから!」
そう、だけどさ……そうなんだけど!
「そだぞー、なにも変なことじゃないってば。あたしも家族を大事にしたいって思ってるからさ」
「恥ずかしいことじゃないってー」
「ゆえり後輩の言う通りだ。なにも恥ずかしいことではないぞ!」
「……あー! はいはい! 認めますよ! 俺はシスコンですよー!」
「よし! それでこそ男!」
「素直が一番だぜ!」
こいつら、日に日に俺に対して容赦なくなってきたな。どうかしてるぞ……。
……まあ、それを受け入れている俺もどうかしているのかな。
・・・・
「……」
「ういー、おかえりー兄さーん」
いつものように自室に入ると、気怠そうな顔でベッドに寝転がる里桜が居た。
あんなことがあったばかりだから、なんだか変な気分だ。
「だから、ここは兄の部屋だと何度言えばわかるんだ」
「鍵をしない兄さんがわるいんだぞー」
バックを机の傍に置き、俺はそのままベッドに腰掛ける。
そのままだらしなく腹を出していたので、シャツを無言のまま下ろす。
「で? なに見てるんだ?」
「アルバム。部屋漁ってたら偶然見つけちゃってさ」
妹も妹で遠慮というものがない。いや、むしろ妹だからこそ遠慮がないのか。
「アルバムか……」
「ん」
里桜からアルバムを受け取り、俺はパラパラとページをめくっていく。
すると、最後のページにとある写真があった。
「……」
「これ、兄さんがきん……ゆえりちゃんと別れる時に撮ったんだよね?」
「ああ」
それは、俺ときんだった頃の天澄が二人で写っているものだった。ここまでのページにあった写真は全部子供のようにはしゃいでいるようなものばかりだったのに、最後の一枚だけ決意が伝わってくるような真剣な表情で写っている。
あれは、俺が変わろうと思い、きんとももう馬鹿をするのは止めようと伝えに言った時。
きん……いや天澄の方から記念に一枚撮りたいと申し出てきたのだ。
俺も俺で、ここからがスタートだと記念に一枚欲しかったので承諾した。そして、後日宛先が書かれていない封筒の中に、この写真が入っていた。
「こうして見ると、ちゃんと女の子って感じするよね」
「え? ……あぁ、そうかもな」
あの頃は、全然気にしていなかったが。
改めて見ると、天澄は明らかに緊張しており、顔が赤い。
馬鹿やっていた頃は、どこか気を張っていたためか比較的少年顔に見えていたが、この写真の天澄は髪の毛が短く、短パン姿だが、女の子って感じが伝わってくる表情をしている。
「びっくりしたよねぇ。美少年だと思ってたのに、美少女だったなんて」
「ええ、そうね。そもそも一緒にお風呂に入ったのに、そこで気づかないなんて」
「か、母さん」
ノックもせずに呆れた様子で入ってくる母さん。
「それを言うなら母さんだって」
「ええ、気づかなかったわ。私は普通に美少年だと思っていたから。なのに、数年後にあんなバルンバルンな凶器を持つほどの美少女に成長するだなんて!」
「お母さん。あれを揉めば、あたしも大きくなるかな?」
また里桜はとんでもないことを言いだす。
「なるかもしれないわ。今度来た時にでも、揉ませてもらいましょう」
「うん」
そして、この母である。俺は、はあ……呆れた様子でため息を漏らしながら注意する。
「いや、やめろよ? 普通にセクハラだからな?」
「セクハラではないわ。ちゃんと揉んでもいいか了承を得るから。それにこれは妹のためよ!」
「兄さん。あたしおっぱい大きくしたい」
「妹のためでもだめです!!」
妹のためだとしても限度と言うものがある。
シスコンだとは認めてしまったが、俺はちゃんと節度というものを守って。
「じゃあ、代わりに兄さんのを」
「雄っぱいでもいけるかしら?」
本当……妹の将来が心配だ。