エピローグ
「ん、おはよう陣」
「え? ああ、おはよう由果。なんだ今日は早いんだな」
いつもの調子で家から出ると、由果が自分の家の前に立っていた。
秋久を待っているんだろうか?
「ええ。昨日はぐっすり眠れたから。ちょっと早起き」
「そうか。それはよかった」
「あなたの方は随分よ夜遅くまで起きていたようね」
「あ、あーまあ」
あの後、皆は由果のことを気遣って帰ってしまった。けど、代わる代わるに電話がきてその対応をしていたら結構遅くなってしまった。
最初の天澄は五分程度だった。次の紫之宮先輩も十分程度。しかし、次の佐々倉と筒田が……また二人でお泊り会をしていたようで、ひとつのスマホから二人の声が次々に響いてくるので、それはもう大変だった。
「けど、お前は十九時にはもう寝ていたと思うんだが」
部屋に明かりついていなかったので、寝ていたのは確実だ。
「お母さんから聞いたの」
「なるほど。あ、そうだ。今週の土曜日、俺の家に来れないか? もちろん秋久と一緒に」
「ん、わかった。今週の土曜日ね。時間は?」
「昼の十二時頃だけど……なにをするか聞かないんだな」
まるで、何をやるかわかっているかのようにあっさりと了承してくれた。
「なんとなくわかるからいい。その時は、ちゃんと紹介してね皆のこと」
「お前、本当に変わったな」
「あなたにだけは言われたくない」
「はいはい……それじゃ、秋久にも言っておいてくれよ」
「りょーかい」
もうあの頃の由果じゃない。
すっかりクールキャラが定着してしまったようだ。けど……昔みたいに由果と話しているような感覚はある。
遠慮なく話せるというか、一緒に何か馬鹿をやれそうな……いやそれはないか。
昨日の様子から、馬鹿をやろうとしたら止められる未来が見えてしまった。
「っと、いつもより早く着いたな」
自然とペダルを踏みこむ力が強くなったのか。
信号の運も合わさり、いつもより早く駅に到着してしまった。
「やあ、陣後輩! 今日も清々しい朝だね!!」
「おはよう、一色くん。今日はいつもより早いんだね」
とはいえ、天澄達はそれよりも早く到着していた。
「先輩。昨日言ったことちゃんと伝えておきましたよ」
「うん。では、その時が来るまでしっかりと用意しておかないといけないね」
「楽しみだね、土曜日」
「そうだな」
それから刻々と時は過ぎていき、当日の土曜日。
「うぇーい!! 明日は日曜日だから今度こそオールナイトだ!!!」
「ま、オールは良いけど。近所迷惑にならないようにな」
「うっす! 良さん!!」
「うむ、よろしい」
俺の家のリビングでパーティーが開かれた。
皆が来る前に、紫之宮先輩が用意した装飾品を天澄や家族と一緒に飾り、料理は母さんと央さんが用意した。
それから十時を過ぎると、佐々倉と筒田の二人がやってきて、パーティーの準備をしつつ騒ぎ出す。
で、最後に予定していた時間の十分前に秋久と由果がやってきた。
「オールナイトか……おし! おっさんもオールしちゃおうかな!!」
「無茶しちゃだめよ、あなた。もう若くないんだから」
「相変わらず元気がいいですね、二人とも」
「ふふ。由果ちゃんも元気になってよかったわ。うちに来るのも五年ぶりよね?」
「はい。しばらくぶりです」
意外と広いリビングに集まる者達。
秋久と由果は五年ぶりに俺の家に入ったので、懐かしそうに周囲を眺めていた。
「秋久くんも随分と男前になったな」
「あはは。陣には負けますけど」
「兄さんは、筋肉盛り盛りだからねー」
そういう意味じゃないと思うぞ、里桜。
「さあ、皆の者! 今日は思いっきり楽しもう! 料理については心配ない。全て紫之宮家が提供する!!」
「リクエストがあれば遠慮なくお申し付けください。ご用意致しますので」
「じゃあ、肉厚のステーキ!!」
「こらこら、本当に遠慮なしか。あたしは、フルーツパフェで」
「良だって大概じゃんか!!」
「いえいえ。大丈夫でございます。今からお作りしますので、お待ちください」
紫之宮先輩の言っていることは本当だ。
パーティーの準備をしている時、箱いっぱいに詰められた食材が次々に運ばれてきた。
「……」
「あ、あのどうしたんですか?」
さっきまで母さん達と話していた由果だったが、いつの間にか天澄のところへ移動していた。
まるで観察するように天澄を見詰めている。
「あなたが、噂のきん?」
「へ? あ、えっとそう、ですけど」
「ふむ」
「ぴゃ!?」
何を考えているのか。次は天澄の顔を触り出す。
かなりぷにぷにしているようで、由果もおーっと声を漏らす。
そして、触るのを止め一言。
「陣にはもったいない」
などと言い出す。
「待て待て、なんの話だ」
さすがの俺も黙ってはいない。
「この子もそうだけど。陣……あなたレベルの高い子と仲良くなり過ぎじゃない?」
「そんなこと言われてもな」
確かに、四人とも色々とレベルが高いとは思うが。
「これはあれね。距離感がバグって、なにか間違いを犯すパターンね」
「なんだそれ」
「そのままの意味よ。ハーレム野郎さん」
「お前、やっぱりまだ俺のこと恨んでるだろ」
「全然」
ポーカーフェイスがうまいせいか。本当かどうかわからない。
五年間貯めていたものから解き放たれた反動なのか。
小学生の頃と違った遠慮のなさを感じる……。
「ところで聞いた話なんだけど、一緒にお風呂に入った仲って本当?」
「ごほっ!? ごほっ!?」
「勘弁してくれないか……」