第二十七話「過去との決着」
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秋久、由果の二人と距離をとってから俺は体を鍛えるようになり、どんどん体は周囲と比べて異質なものとなっていった。
クソガキだった頃の俺を知っている者達から見たら、変わり過ぎ、と言われるほどに。
顔にも残るほどの傷ができたり、学校では常に必要な時以外は声を発せず。
そのせいか、変な噂までもが流れることになった。
「あ、見て。秋久くんと由果ちゃん。いつ見てもお似合いのカップルだよねぇ」
「うんうん。知的な秋久くんとクールな由果ちゃん。でも、由果ちゃん天真爛漫な子だったよね」
「それは小学生の話でしょ? 私達はもう中学三年だよ? 来年には高校生なんだから、いつまでも子供じゃいられないってば」
由果は、元々男女共に人気があったが、秋久と付き合うようになってから少しばかり男子の数が減った。
まあ当然だろう。
彼氏ができてしまったのだから。
逆に、女子からの人気は上がった。天真爛漫な由果からクールな由果になって、少し戸惑ってはいたけど、今となっては体の成長と共にそれは受け入れられていった。
「なにがお似合いだよ。あんなめがねにはもったいないっての」
「だよな。あんな地味な奴となんで」
まあ、お似合いと言う者達も言えば、釣り合わないと嫉妬心を燃やす者達も居た。
「でも、ちょっかい出すのは止めた方がいいぞ」
「なんでだよ?」
「ほら、あいつだよあいつ」
しかし、秋久にちょっかいを出すような奴らはいなかった。
それは、俺の存在が抑止力になっていた。
俺は特に何もしていないのだが、俺という存在が居るだけで抑止力になっていたようだ。
「あいつ、あの二人の幼馴染だろ? 噂じゃ、二人にちょっかいを出すとボコボコにされるらしいぞ」
「あ、それ俺も聞いたことある。あれ、マジなのか?」
「さあな。けど、あいつ色んな格闘技をやってるらしいから、目をつけられたらやべぇって」
聞こえないように話しているようだったが、俺には丸聞こえだった。
その他にも俺達に関する噂は多く流れていった。
俺が由果に告白してふられただの。
秋久のために俺が身を引いただの。
二人を護るために俺は体を鍛えているだの。
本当は、告白もしていないし、身も引いていない。真実は、もっとひどく、残酷なもの……。
「私ね……陣のこと―――好きだったんだよ。初恋、だったんだ」
由果には本当にひどいことをした。
だから嫌われていると思っていた。
そんな由果から……告げられた言葉に俺は衝撃を受けていたと共に、納得した。
あれだけの言葉を投げられた理由。
それは、好きだった相手に見捨てられた。
誰でもあんな言葉を言いたくもなるってものだ。
好きな人が、自分が襲われているというのに助けてくれなかった。最終的には、声もかけずに逃げ出したんだから。
「……んー!!」
今まで由果がどんな気持ちで居たのかをようやく理解した俺は、口を開こうとするも止まる。
くるっと背を向け、由果が背伸びをしたからだ。
「はあ……なんだかスッキリした。ずっと溜め込んでいたものを吐き出したから」
「由果、俺は」
「いいよ、もう。私は、これ以上陣のことを責めないし、無視もしたりしない。言ったでしょ? ……初恋だったって」
だった。
つまりそれは過去のもの。
再び、振り返った由果の顔は先ほどまでの寂しさから一変して本当にスッキリしたものだった。
「今更、陣と付き合おうだなんて思ってない。私にはもう秋久が居るから」
その言葉に、嘘偽りはない。
まるで俺に突き付けるかのように真っすぐ見詰めて発言している。
「ははは。なんだかそう言われると告白してもいないのに、ふられた気分だな」
「なに? もしかして、私のこと好きだったの?」
「ばーか。そんなわけないだろ。というか、もし俺が好きだったって言ったらどうするんだ?」
「どうもしない。もう私は、前に進むって決めたから」
さっきの告白。
それは由果の覚悟の表れだったんだ。
由果に初恋だったと言われて、俺も心は……普通だった。つまり俺は由果に恋をしていなかったということ。
好きは好きでもそれは幼馴染として、友達として。
「あ、そうだ。最後にやりたいことがあるんだけど」
「やりたいこと?」
そう言って由果は、そっと手で俺の両頬に触れる。
なんだ? いったいなにを。
「……」
「……」
じっと見詰めたまま何もしてこない。
しかし、次の瞬間。
「ふん!!」
「でっ!?」
両手を離し、思いっきり俺の両頬を……叩いた。
パァン!!! という森中に響くほどの衝撃音。
そして、ひりひりと残る痛み。
唖然としている俺を見て、由果はにっこりと昔のような眩しい笑顔を向ける。
「はい、これで終わり。あの時のことは、これでチャラにしてあげる」
「お、おう」
「あ、やっぱりまだ足りない。もう一発いい?」
そう言って再び構える由果に、俺は慌てて身構える。
「……なーんてね。このまま叩き続けて、陣に変な癖でもついたら幼馴染として嫌だし」
「そ、そうか」
俺的には、別に構わなかったんだが。
あ、いやそういう意味じゃないから、うん。
「それにしても、全然痛がらないって。痛覚ある?」
「普通にあるって。ただ痛みには慣れてるから」
「……」
なにを思ったのか。突然由果は俺のシャツをめくり、腹筋を確認し始めた。
「なにをしてるんだ?」
「体を鍛えていたのは知ってたけど、こうして改めて見ると凄い。わー、バッキバキ」
「えっと、これはいったい」
由果が俺の腹筋を触っていると、かなり遅れて秋久が到着した。
まあ、秋久からしたらどんな状況なのか理解できないよな。
さっきまで不仲な空気だったんだから。
「気にしないで。この五年間でどれくらい成長したのか確かめていただけだから。秋久も触ってみる?」
「え? あ、いや遠慮します」
この遠慮のなさ。昔の由果って感じだけど、その中にクールさが残っている。
昔に戻ったようで、戻っていない。
そんな雰囲気だ。
「……もしかして、仲直りしたの?」
「うん。言うこと言って、一発きついのをくれてやってね」
「良いのを貰ったよ」
「あはは、真っ赤だね」
俺は、この痛みは決して忘れない。
この痛みは……俺の犯した罪の痛み。そして、由果の味わってきた痛み。
この先の未来、ずっと……。
もう少し引っ張るべきかな? と思いましたが、これにて決着!