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幕間2「恋」

 秋久が陣と連絡先を交換したと言った。

 その時は、嘘偽りなく喜んだ。

 あぁ、ようやく戻ったんだって。


 でも、その後にすぐ不安になった。

 秋久と仲良くなったということは、当然次は私とも……と。

 秋久もそれを望んでいる。

 私は……私は、どうしたいんだろ?


 ずっと、ずっと考えていた。

 陣は、本当に私と仲直りしたいのか? もしそうだとしたら、私はどうすればいいのか。

 いつか来るであろう陣を待ち続けながら、私は……考えていた。


 そんなある日。

 秋久も私も自宅で何をするでもなく、ただただだらっと過ごしていた。

 そんな私の耳に、騒がしくも楽しそうな声が届いた。

 隣の、陣の家からだ。


 最近は、体調も優れず、ぼーっとしていた私には全部が聞こえてきたわけじゃない。

 でも、楽しそうだった。

 なんだか恋愛がどうだのと聞こえてきた時は、胸がざわついた。

 また、この感じ……味わいたくない嫌な感じ。

 もうわかってる。

 この感じがなんなのかは。


 ……嫉妬心。

 

 そう。私は、陣が女の子と仲良くしているのに対して嫉妬しているんだ。

 今の私には関係ないはずなのに。

 彼氏が、秋久が居るのに。

 

 隣から騒がしい声が聞こえなくなってすぐに、家のチャイムが鳴った。

 タイミング的にも、私は想像してしまう。

 でも、今の状態で会ったりなんかしたら……。


「由果? 今、大丈夫?」


 現実から逃げようとしていると、お母さんがやってきた。


「な、なに?」

「その……陣くんが由果と話したいことがあるって言っているんだけど」


 お母さんも私達の今の関係を知っているからか、どこか遠慮がちな声で言ってくる。私は、しばらく考えた後。


「わかった……」


 行くことを決めた。

 髪の毛が乱れていたので、直し、ずっとパジャマだったので私服に着替えてから、部屋出た。

 

(この向こうに、陣が)

 

 玄関までやってきた私は、破裂しそうなぐらい心臓が高鳴っており今にも逃げ出したいぐらいだった。

 でも、私は。


「よ、よう」

「なに? 突然」


 ドアを開けた。そこには、緊張した様子の陣が立っていた。

 私は、いつもの調子で振舞おうとしているけど、やっぱりそうはいかない。まるでドアを盾にしているかのように外には出なかった。

 そこから、陣は土下座までして私に謝って来た。


 過去に私を助けなかったことを。

 そして、仲直りをしたいということを。

 ずっとこうなると考えていた私は、それを受け入れようとした。いい加減こんな関係終わりにして、仲直りを。

 でも、そうしようとしたのに脳裏に、耳に、幻覚? 幻聴? まるで、許すなと言わんばかりに陣がここに来る前に、あの女の子達と楽しく会話をしていたんだろうと。

 

「ねえ」


 違う。待って。


「陣だけの意思じゃないよね?」


 違うの。私が言いたいのは。


「わかってるんだよ。陣の家にあの時の女友達が来てるって。普通に騒がしいから聞こえてたし。随分と楽しそうだったけど。いつもあんなにイチャイチャしてるの? で? その勢いで私に謝ろうって?」


 こんなことじゃ……!


「誰かに、女の子に背中を押されないと謝りに来れないの?」

「いや、それはちが」

「所詮、その程度だったってことだよね。私のことなんて……」


 あぁ、本当に私って。


「ま、待ってくれ由果!!」


 陣が手を伸ばすも、私は玄関のドアを閉めた。

 その後は、ドアに背を預けるように寄りかかり、ずるずると静かに座り込む。


「……」

「由果……」


 膝を抱え込む私に届いたのは、お母さんの声。

 

「……ねえ、お母さん」


 私は、膝を抱えたままお母さんに震える声で言った。


「恋は、良いものだって皆言っていたのに……幸せな気持ちになるものだって言ってたのに……おかしいよ」


 本当におかしい。

 これじゃあ、まるで。


「呪いだよ……こんなの」


 付き合ってもいないのに、もう陣のことは見限っているはずなのに……どうして嫉妬なんかしちゃうんだろう。

 恋を知った時、色々と勉強した。

 友達からもいっぱい恋について教えてもらった。

 その中に、今の状況にあった言葉があった。


 初恋は忘れられない。


 その通りだ。付き合っている彼氏が居るって言うのに、まだ私は……いや、私の異常なのかもしれない。

 

「―――結局一睡もできなかった」

 

 土曜日は泣きつかれて一時は眠ってしまったけど、日曜日は一睡できなかった。

 お父さんもお母さんも、私のことを心配してくれていて休んだ方がいいと言ってくれたけど、私は元気にふるまって見せて普通に学校へ行った。


「由果、大丈夫なのか? なんだか目が赤いけど」

「大丈夫。ちょっと考え事してたら夜遅くなっちゃっただけ」

「で、でも」

「本当に……大丈夫だから」


 知られたくない。秋久には、彼氏には。土曜日にあったことを。

 今日の私は、周囲から見たら本当におかしかったようだ。

 秋久だけじゃなく、クラスメイトも先生も心配そうに声をかけてきた。それを私は家族や秋久同様の対応をした。


(今日は、ちゃんと寝ないと……でも、寝れる、かな)


 なんとか放課後まで過ごした。

 夜更かしをすることは珍しいことじゃないから、それなりに大丈夫だったけど。やっぱりちゃんと寝ないとだめだ。

 

「由果」

「どうしたの?」


 秋久にしては珍しくスマホを手にしていた。

 そして、その表情は真剣そのもの。


「陣からだ」

「……」


 一気に眠気が覚めるような感覚。

 私は、静かに耳を傾けた。


「今日の放課後。僕達がよく遊び場にしていたあの滝で会わないかって」

「……秋久、も?」

「うん。三人でって」


 あんなことがあったのに。あんなことを言ったのに。

 陣はまだ……。


「うん、わかった」


 だったら私も……今度こそ。

初恋……たぶん自分は二次元だったかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] リアルに希望がなかったりすると2次元が初恋になったりしますよね 僕は姉の友達(6歳上)が初恋でした
[一言] 私の初恋は二次元の男の娘でした… 何故だ!!!!!現実に恋などないのだ(・∀・)
[一言] きちんと終わらせてないから何時までも囚われちゃう 前に進むためにも初恋は供養してあげないとね
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