第二十三話「続・自室にて緊急会議。そして」
「―――というわけで、あれから一時間ほどの休憩を行ったわけだが、落ち着いたかな? こころ後輩」
「はい! もの凄く落ち着きました!!」
そう言いつつ俺のベッドに座ったまま毛布に包まり全身を隠している筒田だった。
あれからお菓子を食べたり、ジュースを飲んだりして気持ちを落ち着かせた。
まあ、主に筒田なんだが。
俺も俺で、今になってなんてことをやってしまったんだと後悔している。確かに、佐々倉に不意打ちをやれとは言われたが、さすがに押し倒したのはやり過ぎた。
最近になって気持ちが少し晴れ、皆とも大分仲良くなってきた。
だからこそ、あんなことをしてしまったのだろうか……。
前の俺だったら絶対やらなかったかもしれない。
クソガキだった頃の俺でもやらなかっただろうな。
「おー、出たな。こころガード」
「こころガードって?」
今の筒田の状態を見て佐々倉がこころガードと言う。
それを天澄が当然気になったため問いかけた。
「こころが本気で恥ずかしがった時に発動する防御技」
「は、恥ずかしがってないけど!?」
「毛布越しでも上ずっているのが丸わかりだぞー」
とこんな感じだが、会議は再開する。
「さて、会議の続きだが……今のところ由果くんは、陣後輩を避けている。まずは、向き合うところからだね」
今までだったら俺の方が避けていた。
偶然出会ったとしても、軽く挨拶をする程度。けど、今は逆になっている。由果の方から避けているようなんだ。
「彼女と遭遇するためには協力者が必要だ」
「協力者、ですか?」
「そうだゆえり後輩。まあ、ここで言う最適な協力者は秋久くんだね」
同じ幼馴染であり、同じ高校に通っていて彼氏でもある秋久は一番頼りになる。
「それなんですが」
しかし。
「前に秋久に協力してもらったんだ。由果と会えないかって」
「ほう。行動は起こしていたようだね」
「ええ、まあ」
「でも、その様子だと成果は得られなかったみたいだねー」
佐々倉の言う通りだ。
由果はかなり勘が良い。だから、俺が関わっていると察して秋久をも翻弄させた。
「おし、ほんじゃ今から自宅に突撃しますかね」
「突撃隣の訪問者じゃー!!」
確かに、今のところそういうのもありかもしれない。まあ、突撃と言っても普通に家のインターホンを鳴らすんだが。
「いいアイデアだと私も思う。やはり考えるのも大事だが、行動も大事だ。陣後輩! さっそく由果くんの家へと突撃してくるんだ!」
「はい!!!」
勢いに流されて気持ちのいい返事をして立ち上がった俺だったが、さすがの急展開に止まる。
「秋久くんの情報ではまだ自宅に居るんだろ? ならば今が絶好のチャンスだ。まずは、君の気持ちをストレートに伝える。そこからだと私は思う」
「一色くん。無理は、しなくていいんだよ?」
悩んでいる俺を見て天澄は心配してくれる。
けど。
「いや、多少無理をしないと由果との関係を修復できない。それだけのことを俺は由果にしたんだ」
だからこそ、今気持ちが高ぶっている時に俺の気持ちを由果にぶつける。
まだどんなことを言えばいいのかまとまっていないけど。
「よし! 行ってきます!!」
皆に後押しされるように俺は由果のところへ向かう。
自宅を出て、隣にある家の前へ。
五年ぶり、か。
あれ以来ずっと家の前は通って来たが、敷地内には入っていない。
「……」
俺の部屋の窓からは、天澄達が俺を応援するかのように見詰めていた。
前もそうだったが、それだけで勇気が湧いてくる。
新島家の敷地内に入り、俺は玄関前に辿り着く。
『あら? もしかして陣くん?』
家のベルを鳴らし、しばらくすると由果の母親である新島浅子さんが出てくれた。浅子さんと会話するのも久しぶりだ。
「はい、陣です。あの由果は、いますか?」
『ええ、居るけど……』
浅子さんも俺達の関係は当たり前だが知っている。だから俺のことを心配しているのがわかる。
「話が、あるんです」
『……ちょっと待ててね』
「はい」
俺の覚悟がわかったのか。浅子さんは、由果のことを呼びに行ったようだ。
それから五分ほどが経ち……玄関のドアが開く。
現れたのは浅子さんではなく由果だった。けど、ドアは半開き。隠れるように俺のことを見詰めてくる。
「よ、よう」
「なに? 突然」
突き刺さるような視線と言葉。
まるで俺を威嚇しているかのように感じる。
「……今更、て思うかもしれないけど。五年前のことを謝りたいんだ。本当にごめん!!!」
深々と俺は土下座をした。服が汚れるなんてことを気にせずに。
「……」
返事はなく、無言のまま耳を傾ける由果。俺は、話を聞いてくれるんだと思い言葉を続ける。
「あの時の俺は本当にクソガキだった。周りのことなんて何も考えないで馬鹿をやっていた。そのせいで……お前にも迷惑をかけた」
言葉を紡ぐ度に、あの時の映像が脳裏に浮かぶ。
まるでその通りだと言い聞かせているかのようだ。
「なのに、お前を助けようともせず他人を頼ろうとして……挙句、最後には逃げだした」
助けなかったにしろ。あの時は逃げださずに由果の傍に駆け寄って全力で謝るべきだった。
由果に何を言われようとも。
「それで?」
「今すぐじゃなくてもいい。俺は、お前と……仲直りをしたいんだ!!」
頭を上げ、俺は由果を見詰める。
「ねえ」
数秒の静寂の後、由果は静かに口を開く。
「陣だけの意思じゃないよね?」
「ど、どういう意味だ?」
「わかってるんだよ。陣の家にあの時の女友達が来てるって。普通に騒がしいから聞こえてたし。随分と楽しそうだったけど。いつもあんなにイチャイチャしてるの? で? その勢いで私に謝ろうって?」
淡々と話す由果に、俺は何も言い返せずただただ黙っていた。
「誰かに、女の子に背中を押されないと謝りに来れないの?」
「いや、それはちが」
「所詮、その程度だったってことだよね。私のことなんて……」
そう言ってドアを閉めようとする。
「ま、待ってくれ由果!!」
慌てて立ち上がるも、すでに遅かった。
玄関のドアは完全に閉まり、がちゃっと施錠された音が無常にも響く。
その後、またベルを鳴らそうと考えるも結局押さず、去っていく。
すると新島家を出てすぐ皆と遭遇する。
おそらく俺の様子があからさまにおかしかったので、家から出てきたのだろう。
「ど、どうだった?」
筒田の問いかけに、俺は先ほどあったことを話した。
「すまない! 陣後輩!! 今回のは私のミスだ……! もう少し由果くんの気持ちを考えるべきだった……」
「そ、それを言うなら私も……私が、変に騒いだせいで」
しゅんっとする紫之宮先輩と筒田を見て、俺は。
「いや、二人のせいじゃない。今回のは、いや今回も俺のせいだ……」
「え、えっと、とりあえず中に戻ろう。な?」
そう言って佐々倉は俺の背を押す。天澄は、どう俺に声をかけたらいいのかわからないと言った様子だ。
結局、その後は俺の気持ちを落ち着かせるために解散することになった。
でも、俺の心は落ち着かず。
夜になっても、由果の言葉が脳裏に残ったままだった。
『所詮、その程度だったってことだよね。私のことなんて……』