第二十二話「自室にて緊急会議」
「それでは、これより緊急会議を行おう諸君」
「了解であります! みいか先輩!」
「お菓子とジュースの貯蔵がばっちりです」
「え、えっと準備万端です!」
「なんだ、この空気は」
金曜日の放課後にて紫之宮先輩が急に、俺の部屋に集まろうと言い出した。なにやら重大な話があるとかで、俺はなにかを察し承諾。
しかし、当日になってみればテーブルの上には大量のお菓子とジュース。どう考えても重大な話をするようには思えない。
出入り口側の席に俺。そこから時計回りに紫之宮先輩、佐々倉、筒田、天澄となっている。ちなみに、央さんも紫之宮先輩の傍に控えている。
「それで今日はどんな話をするんですか?」
俺の問いかけに、紫之宮先輩は央さんに指示を出す。
すると、近くにあったホワイトボードに「陣後輩と由果くんを仲良しにさせよう! 会議」と書かれていた。
あー、そういうことか。
「現在、陣後輩は昔の過ちを乗り越えようとしている。そして、ついこの間……一つ山を越えた」
「うちらの友情パワーで乗り越えられたよね!」
「そこで、次は問題の由果? だっけ。その子と仲良くなろうってことですよね、紫之宮先輩」
「うん。陣後輩が言うには、もう一人の幼馴染である秋久くんとは仲を修正し始めているようなのでね。問題は、彼女ということだ」
確かに、秋久とは今もなお連絡を取り合えっており、徐々にだが仲を修正し始めている。
でも、一番の問題である由果だ。
秋久から様子などを教えてもらっているが、いまだに上の空になって考え事をしていることが多いらしい。
「そんで? その後、由香ちゃんとは会ったの? 陣くん」
「いや……」
「うまい具合に避けているのかもね」
「確か、隣の家に住んでいるんだよね?」
と、天澄が由果の家の方へと視線を向ける。
「ああ。今頃は、自分の部屋に居ると思うけど」
秋久も今は自室に居ると知らされた。
「それにしても、あのクールビューティーが昔は元気っこだったとはね」
「人は変わるものだよ、良後輩。かく言う私も昔はあがり症だったからね」
「わ、私もその……やんちゃだった」
「それねー。最初聞いた時は、マジ? って驚いちゃったよ。ねえ、良」
「まあね。しかも、証拠の写真を見せられた時は開いた口が塞がらなかったし」
紫之宮先輩の言う通り、人は変わるもの。
体的にも、精神的にも。
特に子供から大人になる時は。
「確か、もう一人の幼馴染の秋久くんだっけ? と付き合ってるんだよね」
「あのめがねボーイくんね」
「め、めがねボーイ?」
「ちなみに昔のあだ名は博士だったりする」
「おー、定番なやつな」
「いやぁ、幼馴染同士が付き合うって本当にあるんだね。二次元だけだと思ってましたわ」
二人が付き合った時は、それはもう祝福されていた。中には、由果は俺と付き合うかと思っていた、なんて言う者達も居たけど。
それほど、俺達の仲は良かったんだ。
でも、今となっては……。
「あの時の由果くんの様子だと、まだ陣後輩に少なからず好意があるというのは理解した」
「え? な、なんでですか?」
紫之宮先輩の発言に俺は首を傾げる。
あの時、と言った瞬間。すぐにここに居るメンバーと買い物に行った時のことを思いだす。央さんもホワイトボードにその時の配置や場所などを簡単に描いている。
「いや、ほら。あたしらと仲良さそうにしてるのを見てあからさまに不機嫌になってだじゃん」
良はそう言うが。
「あれは……自分を救えなかったくせになに楽しそうにしてるんだよって言う怒りの表れ、じゃないのか?」
「私にもそう見えたよ」
天澄も同意見のようだ。
「まあ、確かに怒っていたっていうのも当たりかもね。しかーし! あれは嫉妬! 嫉妬していたんだよ。この恋愛マスターこころちゃんが言うんだから間違いない!!」
「恋愛マスター? 筒田がか?」
はっきり言ってそこまで経験があるように見えない。
天澄は、恋愛マスター! とどこか尊敬しているような視線を向けている。しかし、一番仲のいい佐々倉が筒田の頭を撫でながら説明し始める。
「あー、気にせんでもいいよ。この子、恋愛ゲームをやってその気になってるなんちゃってだから」
なるほど。やっぱりそういうことだったか。
納得していると、筒田本人は不満そうにしており、俺のことを見詰める。
「いやいや。恋愛のことなら私にお任せ! なんなら女の子慣れしていない陣くんにレクチャーしてもいいぐらい! ほらほら! なにか行動を起こしてみてよ! 私がかるーく対応してみせるからさ!」
「そう言われてもな……」
どうしたものかと困っていると、隣に居た筒田が口パクしていた。
え、えっと……不意打ち、か?
不意打ち、不意打ちか……。
「じゃあ一回だけ」
俺が言うと、央さんがテーブルを退かしてくれる。
「かかってきなさーい! ぴゃ!?」
仕方なく俺は、筒田へと行動を起こす。
それは……ベッドへ押し倒すことだ。
自信満々に立とうとしていた筒田を、俺はベッドに押し倒し顔を近づけて一言。
「俺のことどう思ってる?」
「あわわわ……!」
不意打ちは成功したみたいだけど……。
「……えっと、筒田?」
「……」
やっておいてなんだけどめちゃくちゃ恥ずかしい。だから、早くなにか行動を起こしてほしいんだけど。筒田は、顔を赤くしたまま、まったく動こうとしない。
「はいはい。終わりー」
「あ、ああ」
このままじゃ変な空気が続くと思ったのか。佐々倉が助け舟を出す。
俺を退かし、筒田を抱き寄せた。
「ふえーん! 陣くんにらんぼーされちゃったよぉ!!」
「おー、よしよし。こころが、ピュアなままで良さんは安心したよ」
「えぇ……なんか俺が全面的に悪いみたいな空気なんだけど」
「まさか押し倒すとはね。陣後輩……奥手だと思ってたが、なんて末恐ろしい男なんだ!」
なんだか紫之宮先輩まで、俺の評価を修正し始めているし。
「陣様のような屈強な男性から押し倒されてしまっては、こころ様のようなか弱き乙女は抵抗できないのは必然。……ふむ」
なにがふむなんですか? 央さん。いったい何を考えているんですか?
「えと、えっと……さ、さすが一色くんだね!!」
「何がさすがなんだ!? 天澄!?」
顔を真っ赤にしながら言う天澄に俺はツッコミを入れる。天澄自身も混乱しているようで、自分でもなんでそんなことを言ったのかわかっていない様子。
「はっはっはっは! なんだか変な空気になってしまったようだし。少し休憩をしよう」
「そ、そうですね」
まだ始まったばかりだけど。