表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

第二十一話「いつもと同じで違う朝」

「んー!!」

 

 いつもと同じ朝。

 だけど、どこかすーっと気分が楽な気がする。

 

「……」


 机の上に視線をやると、そこにはあの後に皆で撮ったプリクラが置いてあった。

 俺を中心にして両脇に佐々倉と筒田。俺の前に天澄あますみ。そして一番背の低い紫之宮しのみや先輩が俺の背に乗って映っている。


 皆笑顔だが、少し俺の笑顔はぎこちない。

 急に笑顔でって言われても無理がある。

 そこから、俺を覗いた女子達が色々とデコっていった。俺の頬には赤い渦巻が描かれていたり、記念写真! と達筆な文字で書かれていたり。


「プリクラとか初めてだったけど、結構良いものだな」


 最初は、恥ずかしくて入るのを拒んでいた。

 が、次第に周囲からちらちらと見られそっちの方でも恥ずかしくなり、折れた。

 

「おはよう」


 いつものように顔を洗い、歯を磨きリビングへと向かって朝の挨拶。

 朝食を食べて、制服に着替え家を出る。

 いつもなら、このまま幼馴染達から逃げるように自転車を走らせるのだが、今日の俺は違った。

 自転車を押したままゆっくりと歩き、幼馴染達の家を見る。


「……よし!」


 その後、決意と共に自転車に乗って駅へと向かう。

 

「やあ、陣後輩。おはよう!!」

「おはようございます、陣様。今日は、とても清々しい朝でございますね」


 そこには、紫之宮先輩とひさしさんが待っていた。


「はい。おはようございます」

「うん。やはり山を一つ越えたことで表情が違うな」

「そう、ですか?」

「僕から見ても、今までの陣様より表情が柔らかくなったような気がします。もちろん前の陣様も素敵ではございましたが」

「あ、ありがとうございます」


 あまり央さんとは会話をしないんだが、時々こうやって会話をすると何か背筋にくるものがある。ただ普通に褒めてもらっているだけなのに。

 やはり最初の自己紹介が原因なんだろうな。


「では、そろそろ電車も来る。行こうか、陣後輩」

「はい」

「央はいつも通り」

「かしこまりました、お嬢様」


 いつも通りワゴン車に乗り込むと、そこには欠伸をしている天澄が居た。


「おはよう、天澄。眠そうだな」

「お、おはよう一色いっしきくん。えっと、昨日結構遅くまで筒田さんとお話してたから」


 そのまま車で学校に向かっている最中、ついにこと切れてしまい天澄は俺の肩へ寄りかかるように眠ってしまう。

 俺は、そのまま起こさないように黙っていた。

 そして、学校に到着し起こしたところ慌てて起き上がり、天澄は窓に頭をぶつけてしまった。


「うぅ……痛い……」

「だ、大丈夫か?」

「お? どったどった。頭を摩って」

「頭痛? は!? まさか私が無理に会話を長引かせたせいで風邪を!?」


 車から降りると、丁度いいタイミングで佐々倉と筒田が合流する。

 

「ち、違うよ! えっとこれはただ頭をぶつけちゃっただけで」


 筒田のせいじゃないと言いつつちらちらと俺のことを見てくる。

 その仕草を見て、佐々倉と筒田はにやりと笑みを浮かべる。


「おやおや? なにかしたのかね? 陣くん」

「まさか大人しいゆえりのことを襲ったわけじゃないよな? ん?」


 こ、こいつら。絶対わかっていて言ってるな。

 わざとらしく俺のことをからかおうと両脇から迫ってくる。


「な、なにもしてねぇって!」

「そ、そうだよ! ただ私が勢いよく起きちゃっただけで」

「うむ。陣後輩は、ゆえり後輩のために静かーにしていた。そのおかげでゆえり後輩はすやすや眠ることができたんだ」

「し、紫之宮先輩!?」

「ほほう?」

「つまり陣くんの肩に頭をぽんっと乗っけていたわけですか。そうですか」


 紫之宮先輩の言葉に二人は納得したという感じで俺から離れていく。

 肝心の天澄は自分の顔を両手で覆っていた。


「で? 写メは」

「もちろんあるとも」

「マジで!?」

「嘘だ」

「そ、そうですか……」


 その後、学校で分かれるまで紫之宮先輩は天澄を宥めていた。恥ずかしがることはない。君にとって陣後輩がそれだけ信頼できる間からにだということなんだから、と。

 本当に、紫之宮先輩はそういうことをさらって言う。

 俺まで恥ずかしくなってしまった。


「ゆえりさん。陣くんの肩はそんなに安心できたんですかい?」

「き、聞かないでぇ……」

「こらこらこころ。あんましゆえりをいじめるなってば」

「可愛くてつい。あ、陣くん。今度肩貸して」

「なんでだよ」

「私の肩が強化されるかもしれない!」

「え? そういう意味の?」

「い、一色くんの肩って着脱可能なの!?」

「いや外れないからな!? というか話の流れ的に筒田の肩も着脱可能になるからな! それ!」


 こんな会話もいつも通り? だが、恥ずかしさがないような気がする。

 いつもなら周囲を気にしながらも、ツッコミを入れていたからな。

 

「え? でも外れるじゃん肩」

「そりゃあ外れるかもだが、それは完全に脱臼してるだろ」

「もしくは刃物でずばっと」

「怖いこと言うなよ……」


 本当に、いつも通りのように見えて違うな。


「今肩が外れるとか、刃物がどうとかって聞こえたけど」

「なんだか物騒な話をしてるね」

「……」


 まあ、それはそれとして。あんまり調子に乗り過ぎないようにしないとな。

 割とマジで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんないい作品を見れてよかったと思うのと同時にどんな名前の人が書いてるのか気になって作者の名前見たら2度見してしまった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ