第十七話「体育館倉庫裏は騒がしい」
い、一年半ぶりぐらいの更新です。
「おー、ここで二人は仲良くお昼を食べていたわけですな」
「定番だよねー」
「まあ、あの頃は俺達避けられていたからな……」
紫之宮先輩や佐々倉、筒田と仲良くなってからは来ることがなくなった体育館倉庫の裏。
なぜか柴之宮先輩が突然そこで食べよう! などと言い出し、急遽移動となった。
皆昼食を持参して、各々好きなところに座る。
いや、央さんが人数分の椅子にテーブルを用意してくれていた。雰囲気が出るように木製のものだ。学校に居るのにキャンプでもしている気分になる。
「それでは、お昼を食べながら最近の二人について話し合おうじゃないか!」
「うぇーい!」
「ぱちぱちー」
最近の俺達か。正直、天澄は順調に周りの印象を変えていっている。それは誰から見ても明白だ。
少しずつ周囲の誤解を解き、友達を増やしていくうちに、すっかり素の天澄が学校に浸透している。
「ゆえり後輩は、本当によくやっている。いやぁ、先輩としても友達としても鼻が高い!」
「だよねぇ。対して、そこの強面くんは?」
「筒田。指で人の頬をぐりぐりしないでくれるか?」
席順は、時計回りで柴之宮先輩、天澄、俺、筒田、佐々倉となっている。
「陣後輩も頑張ってはいるようなんだが」
「くっ! どうして皆、俺のことを避けるんだ!」
俺も、皆と仲良くなろうと頑張っている。だけど、距離があったり、なにか嫉妬深い念を感じるのだ。
まあおそらく原因は、この状況のせいなんだろうけど。
俺が、学校でも上位に位置する容姿を持つ美少女達と仲良くしている。
男子達からは、嫉妬され。女子達からは、どこか軽蔑の眼差しを向けられている。
「まあまあ陣くん。君はよくやっているよ」
「心配しなさんな。もしこのまま友達が増えなくとも、うちらが仲良くしてあげるから」
「……嬉しいんだが、許可なくおかずを盗っていくのやめてくれないか?」
「あ、ごめーん。美味しくてつい」
「いやぁ、このたこさんウィンナーいい塩加減ですなぁ」
相変わらずの二人で安心するが、本当にどうしたものか。そもそも男子達は、嫉妬するなら俺と仲良くしてくれないか? そうすれば四人とももっとお近づきになれるというのに。
やっぱ、この学校の男子生徒は草食系が多いのがな……。
女子には興味はあるが、話しかけられない。現実の女子には興味はなく二次元の女子。普通に陽キャな男子も居るけど、どこかびくびくしてる。
陽キャなら、佐々倉達みたいにこうぐいぐい来てほしい!
「ところで、このおべんとぅはお母さんの手作り?」
「いや、一応俺だけど」
「……は?」
「へいへい。陣さんよぉ、嘘はいけませんよ?」
なんで嘘をつかなくちゃならないんだ、筒田。
「いや、本当なんだって。これでも中学までは格闘技習っていたって言っただろ? その時、料理でも体を作ろうって色々勉強して作っていたんだよ」
「聞きました? 良」
「うんうん。勉強ができて、強くて、料理もできるって」
別に勉強はそこそこだと思うが。
「こんなモテ要素があるのに、避けられるって相当だよね」
「ねー?」
別にモテたくて格闘技や料理を習得したわけじゃないんだが。そう思いながら、俺は甘口の卵焼きを口にする。
「料理だったら天澄だろ」
「へ?」
不意打ちを食らったかのような素っ頓狂な声を漏らす。
「料理ができるって言っても、途中で止めてしまったからな。俺は中途半端。けど、天澄の料理はめちゃくちゃ美味い。毎日食べても飽きないだろうな」
「あ、あの……え、えへへ」
「聞きましたか? 良さん」
「うんうん、聞いた聞いた。あたしらをだしに使って女をたらしこもうとしてますよ」
「ご、誤解だ!」
「いやしかし、陣後輩。さっきの台詞は完全に告白めいたやつだったと思うが?」
そう言われると、毎日食べても飽きないって……。
「あ、いや天澄。さっきのはだな」
まずい。絶対顔が赤くなってる。というか天澄もなんだかもじもじしてるんだが。
「あれで付き合ってないんですって」
「うわー、やっぱりこれはハーレム野郎って言われてもおかしくないですなぁ」
佐々倉、筒田……お前らなぁ!
「まあまあ。確かに、ゆえり後輩の料理は家庭的というか。相手のことを思いやって作っているのがヒシヒシと感じる。私も、何度か食べてそれがよーく身に染みた。陣後輩の言うことは間違いではない」
「そ、そんなに褒められると恥ずかしいです……」
「あたしもそれなりに料理はできるけど、この中だとかなり下なのかな」
「まあまあ良の場合は、家庭的というよりもお手軽簡単料理! て感じじゃん」
なんだかんだあったが、昼食の時間は過ぎていく。
前だったら、こんなににぎやかな時間は考えられなかった。
……けど、やっぱり素直に受け入れられないでいる。
原因はわかっている。
確かに、変わろうと変わろうって思っていたから、今の状況は俺にとって変わっていくための良い展開だ。
後は、ずっと引きずっている後悔。
それを、払拭すればもっと……。
「どうかした? 一色くん」
「あ、いやなんでもない」
いつまでも避けているわけには、いかないよな。