第十六話「騒がしい朝」
なんだ? なにか部屋で……鳴ってる?
感覚的に、いつもより早い時間に目を覚ます。すると、部屋に鳴り響く音に気づいたので、周囲を見渡す。
目覚まし時計はない。
それにこの音は……電話?
「誰だ?」
まだ覚醒しきっていない意識の中、俺は枕元に置いてあったスマホに手をかける。
「はい」
名前を確認せず、俺は通話ボタンをタップし、耳に当てる。
『おはよー!!!』
「ふお!?」
スマホを投げ飛ばしそうになったが、なんとか止まる。
この声は、筒田、か?
「朝から声大きいぞ」
『何を言ってんの? うちはこれでも起きて五分だぜ?』
起きて五分でこの元気って……どんだけだよ。
『ちなみに私もいまーす』
この声は、佐々倉?
『実はあの後、こころの家にお泊まりしたってわけ』
あの後。つまり俺の家に来た後だ。
最初は、俺の家に泊まろうとしていたが、さすがにそれは無理だと豪語し、夕方に解散。
また学校で会おうということで、事なきを得た。しかし、俺は父さんが帰ってきた後に、尋問でもされているんじゃないかというぐらい質問の嵐にあった。なので、若干寝不足。
『うちら家が近いからさ。こうやってよく昔からお泊まりとかしてたんだよ』
『互いに一人っ子だから次第に姉妹みたいな感覚になってさ。自然にこころの家に入っちゃったのよ』
そして、そのまま帰ることなく泊まったと。
「で? どうして、俺に電話を?」
『モーニングコールでーす!! うちらはこれから朝食を食べて学校に行くから、陣くんもそうしなよ』
確かに、そろそろ俺がいつも起きている時間だ。母さんも朝食を作ってリビングで待っている頃だろう。
「でも、確か二人の家って学校から徒歩で十五分ぐらいの場所だろ? そんなに早く出て大丈夫か?」
『だいじょーぶ。私ら、ちょっと寄り道するから。いつも通りに』
「いつもって……どこに行ってるんだ?」
『コンビニで立ち読み!』
『それと、朝食後のデザート』
まあ、学校が近い分、早めに出れば色々とやれることが多いか。
俺もそれぐらい余裕があればいいんだが。
これも遠くの学校を選んだ弊害か。
「そっか。んじゃ、また学校でな」
『ほーい』
『またねー』
まったく、朝から騒がしいな。
さて、俺もさっさと着替えて準備を整えるか。
・・・
佐々倉と筒田からのモーニングコールを受けた後、俺はいつも通り朝食を終え、いつも通りに家を出た。
そして、いつも通り自転車に乗り駐輪場へと向かった。
入学当時は、そこから電車に乗って学校へ向かっていたが、紫之宮先輩と友達になってからは車で一緒に登校することになった。
あまり目立たないように、どこにでもあるワゴン車で。
「おはよう一色くん」
「おはようだね、陣後輩」
これもいつも通り。
天澄と紫之宮先輩からの挨拶。
「おはよう」
「あれ? 一色くん。なにかあった? なんだか疲れてるような」
座席に腰を下ろすと、天澄が俺の変化に気づく。ちなみに紫之宮先輩はいつも通り、俺と天澄の間に。
「朝早くから佐々倉と筒田からモーニングコールを受けて……」
「あー、なるほど。実は、私も、なんだよね」
「天澄もか……」
「二人とも、朝から元気過ぎだよ……」
「だよな……」
天澄も俺と同じくあの強烈なモーニングコールを受けたようだ。
ということは、紫之宮先輩は?
「私も受けたが、そこまで強烈だったかな?」
紫之宮先輩も似たようなものだからな……。おそらく、二人の強力なモーニングコールなんて普通のモーニングコールに聞こえたのかもしれない。
逆に二人がびっくりしたりしてな。
「お嬢様は、朝からお元気ですからね。家の誰よりも元気に大きな挨拶を毎日しておられます」
と、家での先輩のことを説明しながら、央さんは車を走らせる。
「そういえば、家での先輩がどんな感じなのか知らないような……」
「そうだったね。私も皆を家に招待したいと常々思っているんだけどね。つい、友達の家に遊びに行ったり、外で遊んだりしたいと考えてしまうんだよ」
先輩の家か……いったいどんな家なんだ? まったく想像がつかない。
「まあ、近いうちに必ず招待するから、それまで待っててほしい」
「私は、いつまでも待ってますよ」
「俺もです」
というか、もう俺の家には出来る限りの来ないでほしいなって。
いや、友達が来るのは嬉しいんだけど。
来る度に、あんなことが起こるんじゃないかって考えると……ははは。