第十五話「再び一色家で」
「あのさ。マジで行くのか?」
「マジマジ。ゆえりちゃんとみいか先輩は、行ったことあるけど。うちらは行ったことないし」
「友達として、不公平よね」
「だからって、買い物した帰りに。それもこんな集団で行くことないだろ」
五人で街へ買い物に行っていたのだが、突然俺の家に行ってみたいと佐々倉と筒田が言い出し、今日のところは買い物を中断することにした。
俺はやめておこうと言ったのだが。二人がどうしてもと、子供のように駄々をこねるので、俺は折れた。
「え? それって、二人っきりなら良いってこと?」
「わー、この男、私達のこと狙ってる……」
「ね、狙ってねぇって!!」
そういう意味で言ったんじゃないけど。
俺の脳裏に、天澄と紫之宮先輩が訪れた時のことがよぎる。
あの時は、まだまともな二人だったからこそ、あれで済んだ。しかし、今回は違う。
明らかに、地雷であろう二人が居る。しかも、しかもだ! 出掛けていなければ、家には父さんが居る可能性がある。
里桜は、当然家に居るとして、母さんはどうだろう? 確か、なにか用事で家を出ると言っていた気がする。
メッセージで確認しても、既読しない。
父さんも母さんも、里桜も。くっ! こんな時に、なんで既読しないんだ。ならもう電話で。
「おーい、陣後輩? 聞こえるのかい?」
「え? あ、紫之宮先輩。どうしたんすか?」
「どうしたのって、もう着いたよ? 一色くん」
「え?」
失態だ。いつの間にか、自宅前に到着していたのだ。やばい。実にやばい。このままでは、あの時以上のことが起こることは確実。
どうにかしないと。
「では、父さんはゲーム仲間と百連ゲーム大会へ……でか、ける」
あー! 父さん! なんというタイミングでぇ!?
どうにかしようと思考していたところ、父さんが玄関のドアを開ける。
「玄関を出ると、そこには美少女達が待っていた……」
「と、父さん」
「そして、息子が……」
そりゃあ、びっくりするよな。意気揚々と出掛けようと家を出たら、美少女達が立っていたんだから。
俺だって、困惑する。
だが、俺を見て正気に戻った父さんは。
「大変だぁ! 陣が美少女軍団を連れてきたぞぉ!!!」
ものすごい勢いで、家へ戻っていく。
「あら? それってゆえりちゃんとみいかちゃんのことでしょ? この前話したじゃない」
「そうだぞー、父さん。金髪巨乳の人と黒髪ロリの人でしょ?」
里桜よ。間違ってはいないけど、その覚え方でいいのか?
「た、確かにその二人も居たが、四人! 情報にあった二人にプラス二人! 特徴は黒髪ポニーテールに、茶髪セミロング! どちらもギャルっぽい!!」
「うちらギャルだってー」
「私ら、真面目系なのにね」
そうだね。真面目だね。いかにもギャルっぽい雰囲気があるが、二人とも校則をちゃんと守って生活をしている。
授業も真面目に聞いているが、そこまで成績はよくない。中の下というところだろう二人とも。
「なんですって! それは本当なの!?」
「増えるとは思ってたけど、一気に二人も!?」
増えると思ってたのか!? いや、それは友達は増やすって言ったけど。なんか含みのある感じに聞こえるのはどうしてだろう。
すると、リビングから三人同時に出てくる。
「どもー」
「ギャルっぽい二人でーす」
さあ、どうなってしまうんだ。
・・・
「では、第二回陣のお友達紹介を初めます。ちなみにお父さんは、ゲーム友達との約束か息子のことかで迷っていましたが、この場は私に任せて出掛けました」
「というわけで、お二人は自己紹介をお願いします」
案の定だが、この前のようになってしまった。てっきり、父さんも参加するものだと思っていたのだが、前々から計画していたことだったので、悩みまくった結果、母さんと里桜に任せて出掛けた。
正直、前回より緊迫している。
母さんや里桜は、俺に友達が増えることを願っていた。しかし、その友達がまた女子だったため、前と同じくリビングへ集合。
俺が、佐々倉と筒田の紹介をすることになった。
「じゃあ、私から。佐々倉良。陣と同じクラスで、最近お友達になったばかり。趣味は裁縫です」
「へえ、裁縫」
と、母さんが息を漏らす。
それに佐々倉は、頬を掻きながら続いて喋る。
「はい。もらった古着なんかをよくいじっているうちに、趣味になって」
「お料理のほうは?」
続いて、里桜が質問する。あっ、よだれ。さすが食いしん坊の妹だ。
「そこそこ、ですかね」
「わかりました。では、次は茶髪のあなた」
「はーい。筒田こころ! 十五歳! O型! 趣味はお菓子づくり!」
「お菓子!!」
「そう! 今度、あまーくておいしいお菓子を作ってあげるね!!」
「わーい!」
里桜よ。餌付けされないようにな……。
「ふむふむ。これはなかなかの子達。陣」
「は、はい」
というか、なんでこんな真面目な感じになっているんだ。まさか、友達が増える度に、こんなことをしなくちゃならない、のか?
いや、これは女子だからだ。そう信じたい……。
「この前も言ったけど、お友達が増えるのは親としては嬉しい」
「妹としてもね」
「お、おう」
「けどね。これだけは言っておくわ」
なんだ?
「羽目をはずしすぎないようにね!」
ぐっと、親指を立てる母さん。
「そんなことわかってるよ。俺だって、もう子供じゃないんだ」
「ええ。それはわかっているわ。でもねぇ……これだけの美少女達がお友達だと」
「だよねー。いくら兄さんが、奥手だったとしてもねー」
ふっ……俺だって、理解している。入学当時は、灰色の高校生活が続くものだと思っていた。
それがどうだ? 天澄と友達になってから、今までが嘘かのように友達が増えている。女子ばっかりだけど。
この状況。俺が根っからの女好きだったら、絶対テンション上がりまくりで、暴走しているだろう。
「一色くんだったら、大丈夫だよ。そうですよね? 紫之宮先輩」
「だね。陣後輩は、友達を大事にする男だ。決して間違いは犯さない!」
くっ! 二人の信頼が重い……! ここまで信頼されて、間違いを犯してしまった日には……あぁ! 考えるな、俺!
「だってさ、こころ」
「うちらも陣くんを信頼してみる?」
「まだ付き合いが浅いからね。とりあえずは、様子見ってことで。どう?」
「私はそれでいいよ。まあ、陣くんと一緒にいれば、なんか面白いことがいっぱい起こりそうだし」
佐々倉と筒田の二人からの信頼はそこまででもないので、なんとか……けど、マジでこれからどうなるんだ俺は。
「はい! というわけで、親睦を深めるためにお茶会を開きたいんですが!」
「お菓子や飲み物はこの通り」
そうか。最初からそのつもりで買っていたのか!
俺の視線に気づいた佐々倉と筒田はぐっと親指を立てる。
「わーい、お菓子ー」
「そういうことなら、さっそく初めちゃいましょうか」
全ては、二人の計画通り。
あれ? もしかして、知らなかったの俺だけ? ……いや、天澄が驚いてる。
紫之宮先輩は、なんとなく気づいていたって反応だな。
「ほらほら、陣。そんなとこで、惚けてないで」
「こっちに来て楽しく騒ごうぜー!!」
まあ、悪い子達じゃないから、よしとしよう。
今後どうなるのか、不安だけど。